女神爆☆誕
ある日の午後、その日の仕事を終えたエレーナは事務所に戻り、楓とお茶を飲んでいた。その際、華耶から未央が戻ってきたことを聞く。
「そう。それは良かったわ。三人とも、これからが頑張りどころね」
「はい。シンデレラプロジェクトも本格始動しますから、これからが楽しみですね」
華耶も卯月達のことは楽しみに思っているらしく、珍しく笑みを浮かべていた。
「とはいえ、まずは《TITANIA》についてですね。明後日のライブ、《TITANIA》の初ライブとなりますので、気合いを入れて下さいね」
華耶の言葉に、エレーナはアラと声を上げる。
「誰に言っているのかしら? ねぇ、楓ちゃん?」
「ふふふ、頑張るなんて当然のことですよ華耶さん」
二人の様子に、華耶はそれもそうかと苦笑した。
「では今日はこれで仕事は終わり、明日も午前中だけで終わりますから、体調の管理は気を付けて下さい」
「分かったわ。じゃあ、楓ちゃん。今日明日は家に泊っていきなさいな。一人暮らしじゃ色々大変だと思うしね」
「では……お邪魔しますね」
「あと、文香ちゃんもお誘いしたいけど……。華耶さん、文香ちゃんって、今来てるのかしら?」
文香は二人とは別の場所でインタビューを受けていた。時間的にはそろそろ終わっていてもおかしくないが、まだここには来ていなかった。
「文香さんはそろそろ来る頃だと思います。あぁ、今日は私もお邪魔いたします。実家から沢山夏野菜を送られてきたんです。お裾分けしますよ」
「あら、それなら文香ちゃんは絶対に呼ばなくちゃね。華耶さんはもう上がれるの?」
「流石にそれは難しいですが、もう準備は出来ていますから、定時には上がれます。向こうも準備は出来ていますし、問題はありません」
「じゃあ、今日はみんなで一緒に帰りましょう。ふふっ、華耶さんとも一緒に帰るだなんて、デビューの頃以来じゃないかしら」
エレーナのデビュー当初は、華耶に面倒を見てもらっていた。とはいえ、その頃から料理などは得意だったため、メンタル面でのフォローが主だったが。
「ふふっ、じゃあ久しぶりに部屋が片付いているかチェックしましょうか。良ければアナスタシアさんも呼んであげて下さい」
「もちろんよ。確か、アーニァちゃん達も今日来てるはずだし……そうだ、美波ちゃんも呼びましょう。彼女もライブで踊ってくれる仲間の一員だし」
着々とお泊まり会の計画が進められていく。遅れてやってきた文香は即座に捕獲され、美波にはアナスタシア経由で伝えられた。
アナスタシアと美波が六時に仕事が終わるということで、それまでは華耶も仕事をしているということになり、エレーナ達三人は一階のカフェでお茶を飲んでいた。
「菜々ちゃん、紅茶のお替わりちょうだい」
「はーい!」
カフェでアルバイトをしている菜々にお替わりを頼む。すぐに持ってきた菜々を引き留め会話に加わらせた。
「それにしても、菜々ちゃんは相変わらず可愛いわね。また一緒にマスターの所に行きましょうね」
「ははは……その時は私はウーロン茶をいただきますね。マスターの料理はおいしいですしね!」
菜々は額に汗をにじませていたが、エレーナと楓はしっかりと知っているのでにやにやするだけであった。菜々のことを知らない文香は首をかしげるだけであったが。
「そういえば、菜々ちゃん。この間のラジオ聞いたわよ。とても面白かったわ」
「あー、あれですか……。いえ、確かにとても楽しかったんですけど、まぁ、色々大変でしたよ……」
その放送を聞いていたエレーナはクスクスと笑う。
と、客も少ないこともあり、カフェの店主は気を利かせて菜々を休憩に入れてくれた。
「そういえば、皆さんは今日はどうされたんですか?」
「このあと、華耶さんたちと一緒にお泊まり会するのよ。華耶さんとアーニァちゃん達がまだ仕事があるから、ここで時間潰し。三人で来るのは初めてだけどね」
「そういえば、文香ちゃんと来るのは初めてでしたね。私たちはよく来ますけど」
「わ、私はすぐに帰っちゃいますから、何度かしか来たことがありません」
文香は本を読むときは寮か図書館で読んでいた。
「それならオリジナルパフェをご馳走したいところだけど、この後、私のご飯を食べてもらうから、それはまた今度ね」
菜々を交えて話しているうちに、約束の時間となる。やはり華耶がいるせいか、時間ぴったりに華耶とアナスタシアと美波がやってきた。
「お仕事お疲れ様。無理矢理呼んじゃってごめんなさいね美波ちゃん」
「いえ。また呼んでいただけてとても嬉しいです」
美波にとってエレーナは大先輩だが、アナスタシア経由で比較的触れ合う機会が多いため、このようなプライベートの場では落ち着いて話すことができるようになっていた。
「お姉ちゃん、私も一緒に行っていいですか?」
「もちろんよ。アーニァちゃんも最近は忙しかったでしょ? 武内Pにもしっかり連絡してるから、今日は楽しんでいって」
「お姉ちゃんと一緒なら何だって楽しいです!」
「……この子、なんてかわいいのかしら。これは、かねてから準備していた“アレ”をやるしかないわね……」
「エレーナさん?」
なにやら小声でつぶやき始めたエレーナに、文香が首をかしげたがエレーナは笑顔でスルーした。
「じゃあいきましょうか。今日は車を持ってきてないからタクシー行きましょ」
あらかじめ呼んでおいたタクシーで、エレーナのマンション近くの商店街に停まる。エレーナや楓はもちろん、文香たちアイドルの卵達も合わせて六人もいれば目立つ。しかし、この商店街はエレーナ行きつけの商店街であり、声はかけられつつも、囲まれるということはなかった。
「しかし、この商店街には久しぶりに来ましたが、やはりとても心地いいですね」
「えぇ。いつも賑やかで、おじさんやおばさんがとても優しくて。ここに通うようになってから寂しくなることはなかったわ」
エレーナにとってこの商店街は、もう一つの家族のような存在であった。そして商店街の皆にとってもエレーナは自慢の娘であった。
「あらエレーナちゃん、今日は一段と華やかね。パーティでもするのかい?」
肉屋のおばさんが、エレーナに声をかける。
「えぇ。明後日のライブの前々夜祭をするの。おばさん、とっておきのお肉ないかしら?」
「もちろんあるに決まっているだろう? 待ってな! 最高級のを見繕うよ」
おばさんは奥に入ると、お肉を抱えてすぐに戻ってきた。
「ほら、特別に仕入れたA5のお肉だよ! 原価でいいよ!」
「そんな……流石にそれは……」
「あーもう水臭いよ! じゃあこれはお祝いだよ! みんなでライブをするんだろう? だったら、美味しいものたくさん食べて、しっかりと英気を養わなくちゃ」
お肉を押し付けられ、困ったようにするエレーナ。そこに、周りの店の店主たちがそれぞれ商品を持ってエレーナたちを囲み始めた。
「あ、楓ちゃん! とっておきの日本酒だぜ、ほら持ってきな」
「あなた、エレーナちゃんたちのユニットの子だろう? この間テレビ見たわよ。ほら、お菓子だけど持っていきなさい!」
「アーニァちゃん達も、これから頑張れよ! この間のライブ、見に行ったぜ!」
店主たちの輪を抜け出したころには、全員が両手にパンパンの袋を持ち、さらに大きな袋を抱えるまでになっていた。
「うふふ、流石人気者ですね。こんなにたくさんいただいてしまって」
「ありがたいことだけどね。また今度お礼をしなくっちゃ。それにしてもあらかじめ華耶さんの野菜を取りにいっておいてよかったわね」
話しつつ、エレーナのマンションに入る。文香は若干ふらついていたが、エレーナが出してくれたアイスティーで一息つく。
「さ、みんなは休んでてね。華耶さん、料理、手伝ってくれるかしら?」
「えぇ。エレーナと一緒に料理をするのも久しぶりね。皆さんは、ゆっくりしていてくださいね」
華耶にとって、エレーナの部屋は勝手知ったる何とやら。二人は手際よく材料を確認して、てきぱきと様々な料理を作っていった。
「エレーナさんと華耶さん、料理凄いお上手なんですね」
「お姉ちゃんと華耶お姉さんは、昔から一緒でしたから。私も何度もご飯を食べさせてもらいました」
アナスタシアが少し自慢げに胸を張りながらいう。そんなアナスタシアのかわいらしい仕草に、文香と美波はクスクスと笑ってしまった。
「むぅ、美波、文香。笑うなんてヒドいです」
「ふふふ、ごめんねアーニァちゃん。でも、アーニァちゃんがそんなにいうほどなら、ますます楽しみになってきたわ」
アナスタシア達の話を聞いていたエレーナと華耶は、その様子を微笑ましそうに見つめていた。
「期待されていますね」
「ふふふ、なら、期待以上のものを作らないと。せっかくたくさん素敵な激励をもらったのだしね」
そうしてエレーナと華耶は、様々なご馳走を作り、皆の下をとろけさせたのであった。
そして、食事も終わり、食後のコーヒーで一息ついていると、ふとアナスタシアが、エレーナがいつの間にかいなくなっていることに気がつく。
「あれ? お姉ちゃん、どこですか?」
「そういえば、いつの間にかいなくなっていましたね。お手洗いでしょうか?」
普通に考えれば華耶のいうとおりなのであろうが、そこはエレーナ。そんなことではなく、例の“アレ”のための準備をしていたのである。
なにやら大きな袋を持って戻ってくるエレーナ。
「エレーナさん、それは何ですか?」
「ふふふ、気になる美波ちゃん?」
「え、えっと……」
わざとらしい笑みに、聞いておきながら思わずたじろぐ美波。そんな美波をよそに、エレーナは素早く美波の後ろに回ると、袋から取り出した“ソレ”を美波の頭に装着させた。
「きゃっ……って、これは!」
「美波にゃん、爆☆誕!」
そう。美波の頭につけたのはネコ耳であった。エレーナは人数分のネコ耳を持ってきたのである。
「さ、楓ちゃんも文香ちゃんも。もちろん、アーニァちゃんもね」
それぞれネコ耳を手渡される。
「あらあら、うふふ。ふかふかですにゃ?」
お酒も入り、上機嫌の楓は楽しそうに手を曲げてご満悦。
「にゃ、どうかにゃ? お姉ちゃん、似合ってるかにゃ?」
一度あーにゃんをやっていたアナスタシアは、特に恥ずかしがることなく猫のまねをしていた。
「にゃ、にゃぁ……」
文香も恥ずかしそうにしつつも、周りに合わせて猫のまねをする。しかし、その声はほとんど聞こえなかった。
「私も付けてっと、さて、最後は……」
ロシアンブルーのネコ耳をつけたエレーナは、にやりと笑いながら、こっそりと部屋から離れようとしていた華耶に標的を合わせる。
「かえにゃん、ふみにゃん! 今こそ《TITANIA》のチームワークを見せる時にゃ!」
「にゃぁ♡」
「にゃぁぁぁぁ……」
楓と文香に腕をつかまれ、身動きできなくなる華耶。
「や、やめなさいエレーナ! あなた、酔いすぎよ!」
「いいえ、まだまだ素面よ。言うなれば、皆の可愛さに酔っているのよ」
「わけがわからないわよ!」
しかし、身動きがとれなければ、いくら華耶でもどうしようもない。その結果。
「くぅ……屈辱だわ……」
見事、ネコ耳に加え、尻尾までつけられたかやにゃんが誕生していた。ちなみに尻尾の先にはおもりがつけられており、華耶の意思とは関係なくユラユラと揺れていた。
悔しそうにしている華耶とは裏腹に、文香達は華耶の姿に目を輝かせていた。
「華耶さん、凄く可愛らしいです……」
「凄く、ネコが似合っています」
特に文香と美波に好評であった。
「……嬉しくありません」
このとき無理矢理撮った六人の集合写真(ネコVer)は、346プロ内で、伝説となるのだが、それはもう少し後のお話。