魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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 見えない少女、鹿目まどか。

 彼女の告げたこの世界の危機と、魔法少女の存在。

 頻発する怪事件。

 倒れた光実。

 徐々に破綻していく日常の先に、呉島貴虎は何を見出すのか。



【第十一話 理由のない悪意】
戦極ドライバー、没収


 窓から射し込む朝日を瞼越しに感じて、軽いうめき声とともに目を覚ます。時刻は午前7時。平日であれば大寝坊だが、幸いにして今日は日曜日だ。

 

「あのまま、眠ってしまったのか……」

 

 ラジオから流れる静かな音楽とカーテンの隙間から溢れる朝日が、寝室に静謐な空間を演出している。こんな朝はのんびりと過ごしたいものであるが、しかし今の貴虎にはそうはいかない理由があった。

 

〈おはようございます、貴虎さん〉

 

「おはようまどか。……私の代わりに、きみが看病してくれていたのか? いったいいつから?」

 

〈はい。……午前4時頃、だったと思います。看病中に、そのままぐったりと〉

 

 言われてはじめて、肩にかけられたカーディガンの存在に気がつく。どうやら寝落ちした自分が冷えてしまわないよう、彼女に気を配らせてしまったようだ。……貴虎は、素直な感謝で心が温かくなった。

 

「ありがとう、まどか」

 

〈いえ、そんな……。でっでも、光実くん、大丈夫でしょうか〉

 

 貴虎の言葉に頬を赤らめて、まどかが慌てて話題を転換する。まどかの視線の先には、昨夜風呂場で意識を失った弟―――呉島光実が静かに眠り続けていた。

 

「外傷は無し。熱も落ち着いているようだし、病院に連れて行くのは起きてからでもいいだろう。………だが気になるのは、昨夜いったい光実に何があったのか、ということだ」

 

〈えっ?〉

 

 怪訝そうな表情を浮かべるまどか。貴虎は、光実の眠りを邪魔しないようにそっと彼女を伴って寝室を退室した。

 

「昨夜の光実は普段と様子が違っていた。普通に考えれば、昨夜あいつに何かあったのは間違いないだろう」

 

 思考を言語化することでさらに自身の推測への確信を強めながら、まどかとともに廊下を歩き続ける。そんなふたりの数秒足らずな行脚の終着駅は、昨夜光実が意識を失った風呂場であった。

 

「……あった。これだ」

 

 脱衣所の脇に立て掛けられた、古ぼけたジェラルミンケースを手に取り、こわばった表情で貴虎が呟く。そばで見つめるまどかが、より一層に怪訝な表情を浮かべた。

 

〈……これ、なんです? 《YGGDRASILL》……?〉

 

「このところ、光実が肌身離さず持ち歩いていたモノだ。中身を聞いてもあいつは答えなかったが……何かがあるのは間違いない」

 

 企業ロゴと思しきプリントが、どことなくかつてのクレシマ製薬のそれを彷彿とさせる。そんな何とも言えない既視感を抱きつつ、貴虎はケースを開いた。

 

「ふむ……?」

 

 ケースの中に収められていたのは、五つの黒いバックル状の機械だった。そのうちの一つには中世風の蒔絵が描かれている。

 

 

〈……こ、これって……!〉

 

「知っているのか、まどか」

 

〈これと同じものを、紘汰さんも持っていたんです。そんな、どうして光実くんが……!〉

 

「なんだと!?」

 

 緊迫の表情を浮かべるまどかと貴虎。紘汰という名前には馴染みが無いが、それがまどかの目的である人物名である以上、貴虎も驚かずにはいられない。

 

「そんな、光実とどう関係があるというんだ……?」

 

〈分かりません。でもそれは、アーマードライダーに変身するための道具だと紘汰さんは言っていました。……この世界には存在しない技術で作られた機械です〉

 

「アーマードライダー、だと?」

 

「以前にお話した《森》の果実の力を源泉とする、パワードスーツのようなものです」

 

「そして、これはそのパワードスーツの装着デバイス、というわけか……。この世界には存在しないということだったが、つまりこの機械は、本来であればその《森》とやらのある世界のテクノロジーであるはずだということだな」

 

 およそ信じられない話だが、今はまどかの話を信じるしかない。貴虎は殺気だった表情で機械を見つめながら、おもむろにそのうちのひとつを取り出した。唯一蒔絵の描かれた個体だ。

 

「光実がアーマードライダーなのかどうか……確かめねばならない」

 

 

 ※※※※

 

 

 結論から記せば、蒔絵の描かれた機械は呉島光実にのみ反応し、ベルトとして機能した。つまり、呉島光実をユーザーとして認識し、それ以外の人間の使用を拒んでいるということだ。

 

 

「……実に認め難いことだが、光実が《森》となんらかのカタチで接触していることはもはや間違いない。………なんという、なんということだ」

 

 朦朧とした呟きとともに、寝室の壁にもたれる。どうやら相当ショックだったようで、貴虎はそのままずるずると腰を下ろしてしまった。

 

〈貴虎さん……〉

 

 知らぬ間に秘密を暴かれた光実と、その秘密に激しく動揺する貴虎……。二人の同居人を交互にみやりながら、まどかは複雑な表情を浮かべた。

 

「知ってしまった以上、私はあいつを守らねばならない。この機械は全て私が預かる」

 

〈そんな、待ってください、それじゃあ」

 

「光実が倒れたのは、十中八九アーマードライダーとして戦っていたことが原因だろう。だが……あいつは危うい。子どもなんだ。危険だし、戦いなどするべきではない」

 

〈………貴虎さん。まさか、自分が?〉

 

 光実がアーマードライダーであることに疑いの余地は無い。彼が自分の預かり知らぬところで戦い、傷ついていたのだと思うと、胸が張り裂けそうになる。溢れる感情をなんとかこらえつつ、貴虎は静かに呟いた。

 

「子どもが傷つく道理など無い。力という責任を負うのは、私たち大人の仕事だ。あいつがやろうとしていたことは―――代わりに私が引き受ける」

 

 弟の秘密を知りショックを隠せないとはいえ、しかし貴虎の強さに揺らぎはない。そのまなざしには、まだ見ぬ《森》の脅威から世界と弟を守らんとする決意の炎が揺らめいていた。

 

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