魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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唐突なる反撃

「それじゃ、行ってきます!」

 

 集めたロックシードを詰め込んだリュックサックを背負い、光実の自転車が弾けるようにして発車する。その背中を見送りながら、織莉子は半ばパニックに陥っている光実の無事を祈りつつ、懐から携帯電話を取り出した。

 宛先は自宅。留守を任せた皆に、戦極ドライバー紛失の状況報告をするためだ。

 

「はい、美国です!」

 

「もしもし、ウォレスくん?」

 

 受話器を取ったウォレスが、張り切った顔で受け答えをする。

 

「織莉子です。みんなはどんな様子かしら?」

 

「ほむらちゃんと杏子ちゃんはまだ寝たきりだよ。ソウルジェムの濁り具合も停滞気味。匂坂先生が看てるから大丈夫だと思う。ゆまちゃんと江蓮も、看病にあたってくれてるところ。………それで、マミちゃんやキリカちゃんは助けられそう?」

 

「そのことも含めて、今ちょっと揉めているところなの。……ウォレスくん、江蓮さんと代われるかしら?」

 

「了解っ! エレ~ン!」

 

 こういった場合、ウォレスよりも江蓮の方が冷静に判断ができるはず、というのがこの人選の根拠だ。無論、この切迫した状況下でウォレスの朗らかな態度が神経を逆なでするという感情的な理由も込みではあるのだが。

 

「江蓮よ」

 

「………悪い方の予想が当たりました」

 

「………戦極ドライバーは既に持ち出された後、か………」

 

 重苦しい沈黙が、電話を介して二人のあいだに立ち込める。織莉子の予知を目の当たりにしていた留守番組もまた、まさにこの“戦極ドライバーの持ち出し阻止”ができるかどうかに注目していたのである。

 

「これで、お兄さんを探す以外に方法は無くなった。今は光実くんにすべて任せきりだけれど……サーヴァントのアジトを突き止めるにせよ、実際そこに踏み込むにせよ―――――このままでは圧倒的に戦力が足りないわ」

 

 美国織莉子は、自身を過大評価も過小評価もしない。己の能力である予知を発揮して勝利に貢献しようとする意志こそあれど、しかしだからといって積極的に戦闘を行おうとは考えない。自身の領分が戦いとは遠く離れたところにあると知っているからだ。 だが、状況がそれを許さないのであれば話は別だ。

 幾つもの要素が入り乱れ、刻一刻と変化していく未来を予知魔法で捉えることはほぼ不可能に近い。《いつ》《どこで》《誰が》《何を》……これらすべてが空の星のように入り乱れる以上、織莉子の予知魔法は絶対的な確定事項にこそ作用するが、戦いの勝敗や得られる情報などは常に運命の水面を揺蕩っていて、掬い上げることは容易ではない。

 織莉子の予知が“既知”ではなく“先見”である以上、絶対的な確信を以て自身の能力を信じることはできないのだ。

 

 ゆえに、織莉子は常に思考を張り巡らせ、仲間を集める。不確定の未来―――そのヒントを手繰る己の《目》を最大限に活かして、望む結末を最高のカタチで手に入れるためにもがき続ける。

 

 ―――――病院の犠牲者たちや、己の失策のせいで未だ囚われの身のままであるマミやキリカのことを思うと、自らのソウルジェムを思わず衝動的に砕いてしまいたくなる。

 

 でもまだだ。

 まだ、ここで止まるわけには行かない。

 最良の未来を手に入れるために、ここで立ち止まってはならない。

 そのための罪を背負う覚悟はできているのだから。

 

「聞こえる? 織莉子、織莉子!」

 

「――――ごめんなさい。少し上の空だったわ」

 

「大丈夫なの?」

 

「ええ。………それよりも、サーヴァントのアジト捜索のことだけど。ゆまちゃんとあなたでちょっとこっちに来てくれるかしら。場所は駅の南の住宅街よ。公園があるから、そこにいます」

 

「分かったわ。くれぐれも周囲に気を付けてね。いつどこからサーヴァントが監視しているとも限らないのだか―――――ッ!!」

 

 突然、電話の向こうで響くガラスの割れる音。何かが砕けたり破かれたりする音が断続的に轟き続け、江蓮やウォレスの悲鳴がかすかに聞こえてくる。

 

「!? どうしたの、江蓮さん、江蓮さんッ!!」

 

 必死の形相で電話に訴え掛けるも、返事はない。やがて轟音は唐突に打ち切られ、後には通話終了を告げる電子音だけが残された。

 

「………一体、何がッ……!」

 

 

 ※※※※

 

 

「せんせいっ! 大丈夫? せんせいっ、せんせいっ!」

 

「あぐッ……逃げろ、ゆまちゃんッ……」

 

 引き裂かれたベッドから吐き出された無数の羽毛が舞い散る寝室―――その部屋の片隅で腕を抑えてうずくまる匂坂に寄り添い、ゆまは患部を癒そうと癒しの魔法をかけていた。……だが、状況は彼女に治療の余裕を与えない。

 

「……悪いけど。二人には人質になってもらうわ」

 

 黒銀のアーマードライダーとなったリーマが、ベッドごと匂坂を斬りつけた《無双セイバー》に血を滴らせながらゆっくりと迫ってくる。

 

「――――ッ!」

 

 ゆまたちにあと一歩で斬りかかれる距離に到達するというタイミングで、黒いリーマのアームズに銃声と共に火花が散る。

 

「ゆまちゃん、匂坂先生を連れてここから逃げなさい」

 

 ゆまたちを救ったのは、階下から駆け上がってきた吾妻江蓮であった。淀みない気迫でリーマを牽制しつつ、パイソンを構えて部屋に突入する。

 

「何故あなたがドライバーを? それは織莉子が自室で保管していたはずよ」

 

 問いかけながら、ゆまと匂坂の退路を確保する。二人がよろつきながらも寝室を出て行ったことを見届けて、リーマは仮面の奥で酷薄に哂った。

 

「昨夜あなたたちが寝てる間にね。狸寝入りにも気付けないだなんて―――この世界の人間は本当に腑抜けばかりなのかしらッ?」

 

「クッ!」

 

 言いつつ、無慈悲にもリーマは無双セイバーの引き金を引いた。パイソンのそれを上回る火力が江蓮を襲う。だが江蓮はそれを巧みに躱し、代わりに床が木屑を舞い上げた。現役時代に培った身のこなしが、彼女の命を救ったのだ。素早いローリングで寝室のドアの影に隠れ、遮蔽物越しにリーマの殺気を伺う。

 

『KURUMI・ARMS! Mr.KNUCKLE MAN!!』

 

「まったくもってその通りだ! ハッハハハハ!!」

 

 だが、劇的に変化し続ける状況は江蓮たちを更なる窮地に追いやる。

 江蓮がもたれかかっていた壁のほんの1メートルほどずれたところの壁が轟音とともに崩れ、中から黄土色のアーマードライダーに変身した上条恭介が現れたのだ。

 さらにまずいことに、恭介の位置は廊下を逃げていたゆまと匂坂を阻むカタチとなっている。前方に上条、後方にリーマ……江蓮たち三人は、まさに絶体絶命の状況となっていた。

 

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