「ククク………僕らをコケにした報いを受けるがいい……ッ!」
巨大な鉄拳を構え、ゆまと匂坂にジリジリと恭介が迫る。その言葉といい立ち振る舞いといい、仮面の裏の醜悪な表情が透けて見えるようだと、匂坂は苦痛の中で感じていた。
「簡単にやられたりしないもん……! ゆまだって、魔法少女なんだからっ!」
覚悟を呟き、ライトグリーンの閃光を纏ってゆまが変身する。治癒魔法に特化したサポートタイプの魔法少女であるゆまに、戦闘に先鋭化したアーマードライダーとの戦いは、客観的に荷が重いと論ぜざるを得ない。だが、向き不向きとは関係なく、現実は無慈悲に少女に過酷な運命を強いる。
「…………怖くなんか、あるもんか……! うあああああ!!」
「らあぁぁあぁぁああッ!!」
理不尽な虐待に苦しみ喘いでいたあの頃に抱いていたあの無力感に足がすくみそうになるが、今のゆまには守るべき人と、戦う理由がある。
両手に握られた猫の手を模したメイスが振りかぶられるのと、恭介の狂拳が繰り出されるのはほぼ同時であった。
※※※※
「あぁあ、ぅあ、どうしよう、どうしよう」
二階でいったい何が起こっているのか。未だ目覚めない杏子とほむらを庇うように覆いかぶさりながら、しかしウォレスは彼女たちを守る術を持たぬ己の無力さに絶望していた。
「もしかして、恭介くんたちが……?」
二階から響く轟音や銃声が、壮絶な戦いの様子を如実に物語っている。戦っているのはゆまと江蓮だろう。焦燥感が鼓動を早め、呼吸も不確かにさせてゆく。
「あああああ………! ボクは、ボクはどうしたらっ……!」
以前エリーゼたちに襲われた時のように、気絶している間になんとなく解決していたというような状況を期待はできないだろう。今回はマミも杏子もいないのだ。
「誰か、誰か助けてよぉ………!」
――――馬鹿馬鹿しい。他人の力を頼ってどうする?
「ボクには何も……何もできない……」
――――できるできないの問題では無い。やるか、やらないかだ。
「うぅっ………ひっく……」
――――弱い者は滅び
「…………………強い者だけが、生き残る」
※※※※
幽鬼の如き足取りで、ウォレスがフラフラと戸を開けて彷徨い歩く。それと同期するかの如きタイミングで天井が凄まじい破壊音と共に崩れ、五つの影が瓦礫に紛れて落下してきた。
「…………ゆま………江蓮………先生………」
舞い上がる粉塵の中、倒れ伏す三つの人影を見つめながら彼らの名前を呟く。すると、粉塵の中でこちらを見つめる二つの人影と目が合った。
「なんだぁ、まだ一人いたのか。………って、なんだアンタか」
二つのうち巨大な拳を持った人影が、せせら嗤いながら粉塵を突っ切ってこちらに歩み寄る。血に染まるその巨大な鉄拳が、彼のウォレスに対する害意を何よりも象徴していた。
「待ちなさいキョウスケ。………奴は………まさか………?」
もう一方の黒銀の人影が、キョウスケと呼んだ方の人影を制するように刀をかざす。……無論、こちらにもぬらりとした赤黒い血糊が付着している。
「……………」
理不尽な暴力。
まるでそれが強者に許された当然の権利だとでも言わんばかりの、傲慢な態度。
「……………」
力が必要だ。
どんなに強大で理不尽な暴力が相手でも、牙を剥けるだけの力が。
「そんなことどーでもいいっ! あいつが誰だろうが知ったこっちゃない! あいつもぶん殴るだけだ!」
以前の物静かで温厚な性格のかけらすら見いだせない粗野な大声で、恭介が吠える。するとリーマもまた、彼の言葉に我に返ったように刀を構えた。
「………」
だが、ウォレスは立ちはだかった。
丸腰で武器もなく、仲間もいない孤立無援のこの状況で。
「何? まさか、あんたが僕らに戦いを挑むとでも? 勝ち目があるとは思えないけどなぁ?」
https://www.youtube.com/watch?v=xLD68SkMEd8
「勝ち目だと? 典型的な弱者の発想だな。俺は貴様が気に食わん………。戦う理屈はそれだけで充分だ!」
『BANANA』
もはや彼はウォレスにあらず。そう、彼は――――
『BANANA・ARMS! NIGHT OF SPEAR!!」
「何だとッ!?」
「まさか、本当に……? いや、そんな!?」
驚愕するリーマと恭介。だが、牙を剥いた
「ガハァッ!?」
「しまっ……あぁッ!」
吹き飛ばされる恭介に意識が逸れた瞬間を突いて、バロンが横合いからの殴打をリーマに繰り出す。まともに回避も防御もできぬまま、リーマは《バナスピア》のフルスイングを叩きつけられて転がされる結果となった。
「フンッ……思い出したぞ。そのアームズ、さてはコウガネの出涸らしだな。奴らの考えそうなことだが……そんな程度では俺には通じんな!」
「くぅっ……舐めるな!」
幼い声に精一杯の怒気を滲ませて、リーマが立ち上がりざまに《ダーク大橙丸》と《無双セイバー》を連結させる。だが、バロンはさして警戒するような素振りも見せず、それどころかリーマを嘲笑うかのように鼻を鳴らした。
「小娘の身にありながら、その意気や良し。…………だが、力は手に入れただけでは意味がない。使いこなせなければそれまでだ!」
バロンの言葉が合図となり、リーマが弾けるように薙刀を振りかぶった。
「だああぁぁぁあぁッ!!」