魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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悪意の足音

 周囲の幸せそうな人々には目もくれず、必死の形相で貴虎が美滝原の街並みを駆け抜ける。

 

「まどか、どうしてだ、どこに……!」

 

 単に見失っているだけならいい。それならばどこまでだって追いかけて見つけ出してみせる。だがもし、まどかを認識する力が失われてしまったのだとしたら―――

 

「だめだ、だめだそんなこと!」

 

 流れる汗もそのままに、まどかを探し求めて公園に飛び出す。噴水と電飾が夜になると幻想的な空間を演出するこの場所は、見滝原でも有数のデートスポットだ。しかし、まだカップルで混みだすには明るいこの時間帯であれば、逆に人通りは少ないとも言える。気持ちがどうしても落ち着かなくなってきた時、貴虎はたまにここに来て気を落ち着けていた。いわば癒しスポットだ。そして、かつて見滝原市民であったかのような節のあるまどかであれば、癒しを求めてこの場所に来ていたとしても不思議ではない。

 

「まどか……」

 

〈……〉

 

 どんぴしゃり、貴虎の予想は的中した。ベンチに腰掛けて噴水をぼーっと見つめる、桃色の光を纏った少女を視界の中心にとらえる。

 

「どうしたんだ、まどか」

 

〈……聞いてくれますか、貴虎さん〉

 

「もちろんだ。またああいうことをされては困る」

 

 なんて貴虎らしい、高圧的で不器用な言葉だろう。まどかは虚ろな瞳で噴水を見つめたまま、貴虎の遠回しな優しさに感謝した。

 

〈私、契約した時に願ったんです。全ての魔女を、生まれる前に消し去りたいって。……そうして願いを叶えた私は、魔法少女になって、魔女になって……それからすぐに、この世界から跡形もなく消えて無くなったんです。過去からも、未来の可能性からも〉

 

 淡々と、感情の無い声で語るまどかだが、握り締められた拳はかすかにであるが震えている。少女が内に秘めているだろう心の闇を察して、貴虎はそっと寄り添うようにして隣に腰掛けた。

 

「それがきみの孤独の理由か。……あの若夫婦は、本来ならばきみの両親であるばずだった、というところか?」

 

 貴虎の問いかけに、まどかが無言の肯定を返す。貴虎もまた、まどかの意思を尊重してそれ以上の言葉を口にはしなかった。

 

「………」

 

〈………〉

 

 未だその存在を確認できていない魔法少女のことも、この世界を蝕みつつあるという《森》についても、貴虎は内心ではどこかで疑いを持っていた。だがそれでも貴虎がここまでやってきたのは、全てこの少女―――まどかのためだ。そのまどかが今、孤独の悲しみに押し潰されそうになりつつある。

彼女には自分しかいない。彼女の悲しみも孤独も、分かち合えるのは自分だけ。ーーーであるならば。

 

〈……えっ〉

 

 掠れた声で傍を見やるまどか。彼女の視線の先には、貴虎に握られた自分の左手があった。

 

「だが、少なくとも私にとってのきみは、まぎれも無い現実の存在だ。この世界の過去にも未来にもいなくても、私の過去と未来にはきみがいる。……だから、自分を見失うな。いつだって私は、きみと共にある」

 

 まっすぐな言葉。苦しみと孤独の辛酸を舐め続けてきた貴虎の、しかしだからこそ強く響くエール。

 

〈たかとら、さん〉

 

 潤んだ瞳で見つめながら、眼前の愛しい人の名を呟く。震える唇が無意識に貴虎に愛を求め、貴虎もまたそれに応じようとまどかの肩を抱く。

 背徳感も、理性も、今は忘れて。溺れるような愛しさに任せて、二人はお互いを確かめ合うように、貪るように―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて、させるとでもお思いかね?」

 

 壮年男系のそれを思わせる低音の声が、二人の世界を打ち壊す。そして次の瞬間―――

 

〈―――ぁっ!?〉

 

「なにッ!?」

 ―――まどかの体は突如として上空に現れたジッパー型の空間の裂け目に吸い込まれてしまった。

 

「そんな、まどか!?」

 

 吸い込まれるまどかを取り戻そうと手を伸ばす。だが貴虎の手がまどかに届くその寸前、ジッパーは閉じられ、空間の裂け目はその口を閉じてしまった。

 

「バカな……!? どういうことだ、これは!!」

 

 怒りと驚愕に満ちた表情で、先ほどの声の主を睨みつける。するとそこには、まるで狩人の如き装いに身を包んだ白髪の老人が立っていた。

 

「彼女はこの世界の魔法少女を手に入れるため、必要不可欠なキーパーソンなのだよ」

 

「何を言っている!? まどかを返せッ!!」

 

 激情と共に拳を握り固めて、老人に殴りかかろうとする貴虎。だが横合いから突然襲いかかってきた黒い影が、間髪入れずに貴虎を弾き飛ばす。

 

「ガッは……」

 

 チカチカと点滅する頭をブンブンと振りながら、なんとか姿勢を立て直して自分を攻撃してきた黒い影の正体をとらえる。

 

「なんだこれは……!?」

 

 そこには、黒いボディをした犬型のロボットが数台こちらを見つめていた。

 

「貴様はいったい!?」

 

「さぁ、楽しい狐狩りの時間だ。若き狐よ、せいぜい逃げ惑って私を興じさせておくれ」

 

 老人が酷薄な笑みを浮かべて、肩から下げていたライフルを構える。

 前触れも無く叩き落とされたこの信じ難い現実に、貴虎は戦慄と戸惑いの表情を浮かべて身構える他無かった。

 




【第十一話 理由の無い悪意】はこれで終了です。超展開が続きますが、どうかお付き合い頂ければと思います。
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