魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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今は矛を収めて

「……リー、マ……!」

 

 黒銀のアーマードライダーが《バロン》に打ち倒される、その一部始終。

 網膜に焼き付けるようにしてその光景を見つめていた三人の侵入者は、圧倒的な強さを誇る《バロン》に震える眼差しを物陰から向けていた。

 

 ―――――時間にして、およそ十秒。

 たったの十秒で、再度変身したリーマは《バロン》に叩き潰されたのだ。

 そんな一瞬の戦いに、割り込むことができようか。

 幼い少女が圧倒的な暴力の前に蹂躙されるのを、三人はただ震えて見つめているしかなかった。

 

 

「…………ここは逃げるんだ」

 

「そんな、どうしてっ……!」

 

 震える声で逃走を決意したベローズに、食ってかかるさやか。さやかとて震えてはいるが、その瞳はあくまで徹底抗戦を訴えていた。あの紅いアーマードライダーを止めなければリーマは今度こそ殺される。……そんな確信が、彼女の中で揺らめいていたからだ。

 

「どうしてもだ。あの方は俺たちの創造主にして、黄金の果実を持つ《始まりの男》―――」

 

「ロード……バロン……? あいつがっ……?」

 

 ベローズたち異世界人にとって神に等しい、否、神そのものである存在。

 サーヴァントの仕える、唯一無二の創造主にして破壊神。

 

「―――――っ」

 

 戦極ドライバーから流れ込むフラッシュバックが、さやかの脳裏で明滅する。

 無数のインベスを従えた、紅い騎士のイメージ。

 

「紘汰さん、私に何を伝えようとしているの……?」

 

 恐怖と不安を押し退けようとどこかから湧いてくる、ぐつぐつと煮えたぎる闘志。それはフラッシュバックの感覚が短くなっていくごとに強さを増し、身を屈めていたさやかに直立を促した。

 

「ばっ……! サヤカ、何を」

 

「どっちにしろ、リーマちゃんは助けなくちゃでしょ。ベローズさんたちの……友達なんだから」

 

 例えスパイであったとしても。仮初の関係に過ぎなかったとしても。

 それでもリーマを大切に思う二人の気持ちは本物だ。

 ロード・バロンへの畏怖に押しつぶされそうになりながらもリーマから視線を外そうとしないベローズとピニオンを見ていれば、部外者であるさやかにもそれくらいのことは分かる。

 

「話せば分かるかもしれない。……私、行ってくる」

 

 言うや否や、さやかは駆け出した。

 見送るベローズたちの瞳には、絶望と恐怖、そして小さな希望の光が灯されていた。

 

 

 ※※※※

 

 

 ススと血にまみれたリーマにトドメを刺そうと歩み寄るバロン。

 例え相手が幼い少女であろうと、その槍に迷いは無い。

 だが、その容赦無い最後の一撃は、横合いから現れたもう一人の少女によって阻まれた。果たして、美樹さやかである。

 

「ストオォォオオップ!」

 

「なにっ?」

 

 両手を広げて立ちはだかるさやかに、一瞬ためらうバロン。その隙を見逃すことなく、さやかは素早い挙動でリーマを抱え上げ、バロンをキッと睨みつけた。

 

「酷いんじゃないの、あんた! こんなになるまでいじめちゃってさ!」

 

「………誰だ貴様は」

 

「正義の味方、さやかちゃんだ!」

 

「ふざけたガキだ。どうやら力ずくで黙らされたいらしい」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! だいたい、なんでこんなことになってるか説明しなさい!」

 

「そいつらが俺たちに襲いかかってきた。だから叩きのめした。それだけだ」

 

 話は終わったと言わんばかりに槍を突きつけてくるバロン。だが、さやかは一歩も退かない。震える脚も、乱れる鼓動も、今は根性でこらえる。

 

「それだけだ、じゃないわよ! あたしらは、今日あんたたちと話をしに来ただけなの! それと、この娘はベローズさんとピニオンの友達! そりゃちょっと行き違いがあって戦いになっちゃったけどっ……お願いだから、もう戦いはやめて!」

 

 必死に叫ぶさやかの目尻から、涙がぽろぽろと溢れてくる。

 お互いの勘違いとすれ違いが生んだこの戦いに、そんな戦いに傷ついたリーマという少女に、さやかはあらん限りの感情を震わせて泣いていた。

 

「…………お願い。お願いだから、話を聞いて」

 

 無感情な真紅の仮面に泣き顔を反射させながら、さやかが懇願する。

 すると、さやかの祈りが届いたのか、バロンはロックシードを閉じ、その変身を解除した。

 

「…………いいだろう。聞くだけ聞いてやる」

 

 エネルギーとなって放散していく《バナナアームズ》。その無骨な鎧が剥がれると、厳かな顔つきをした茶髪の青年が現れた。

 青年の肌はどこか青白く、瞳は暗く濁っている。細い体付きではあるが、にじみ出る迫力は変身を解除してもなお健在であった。

 

「そうね。私にもお話を聞かせてくれるかしら?」

 

 ようやく話し合いの場に持ち込めたことで安堵しかけていたさやかだったが、しかし背後からの声は彼女に息つぎを許さない。

 ばっと慌てて振り向くと、そこには白いコートに身を包んだ少女が立っていた。

 

「あ、あなたは……?」

 

「私は美国織莉子。この屋敷の主人であり、この見滝原を守る魔法少女の一人よ」

 

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