「なるほど、そういうことか……」
「な、なにがなるほどなんだ!」
遠近感と色彩感覚が狂った虚構の見滝原で、光実がぽつりと呟く。泉宮寺の追跡を一端まいたことで小休止をとっていた二人だったが、その間にも光実は思考を巡らせていたのだ。
「この結界だよ。漂う瘴気といい、現実世界に見せかけた虚構の風景といい、これは魔獣結界そのものだ」
「だからなんだというんだ!? 分かるように説明しろっ!」
「あの老人は、恐らく異世界人だ。恐らく、森側の。けれど、奴はこうやって魔獣結界を作り出してこちらを追い込んでる。ということは……あの老人は、サーヴァントとは違う敵ってこと?」
「………?」
「兄さん。今は取り敢えず、この結界を脱出することを考えるんだ。僕はもともと兄さんを助けに来たんだから」
「………なぜとかどうしてとか、聞いても仕方がない……。そういうことか、光実」
「…………説明は、あとでゆっくりする。今は何より時間がないんだよ。人の……大切な仲間の命がかかってる」
瞬間、二人が息を潜めていた塀の端が轟音と共に吹き飛ばされた。泉宮寺の猟銃によるものだ。
「チッ……プレッシャーをかけているつもりなのか、あの老人は」
「兄さん。こうなったらやるしかない」
迫る危機に加速する鼓動を無理矢理押さえ込むような冷たい声で、光実が呟く。冷や汗のにじむ顔をそちらに向けると、貴虎の視界いっぱいに緑色の錠前が突きつけられていた。
「なっ、なんだ」
「ロックシード。……今持ってる中では、一番防御力が高いタイプだ。僕がダメになった時は、これを使って」
「ちょ、ちょっと待て光実、まさか」
「奴を倒すよ。………でなきゃ、こちらがやられる!」
『BUDOU』
自身のロックシードを展開しつつ、泉宮寺のいる方へと一気に駆け出す光実。塀の向こうから銃口と片目だけを覗かせて泉宮寺が変身シークエンスの隙を射撃するが、上空に召喚したアームズが射線上で高速回転して、弾丸の着弾を阻む。
『BUDOU・ARMS!』
変身完了と共に、余剰エネルギーが果汁めいて迸る。アーマードライダーとなった光実が強化された走力で以て泉宮寺に迫るが、しかしそこへ、鋼の猟犬たちが獰猛な挙動を伴って襲いかかった。
「クソッ邪魔だ! うああぁぁあ―――ッ!!」
しかし、いかにアーマードライダーとはいえ同時に四方から攻撃されれば足も止まる。なんとか振り払おうと光実ももがくが、猟犬たちの執拗な攻撃を前に徐々に体力の消耗を強いられる。
「正面からとは、愚かだな少年」
そして、泉宮寺の冷酷な一言とともに、彼の猟銃が弾丸を吐き出す。見た目以上のカスタムを施されたその猟銃の威力は凄まじく、ライドウェアの上から光実にダメージを負わせることは造作もない。激しい火花と金属音を撒き散らして、光実は弾丸の直撃をくらってそのまま仰向けに倒れ込んだ。
「がはっ……!?」
「光実!!」
貴虎の叫びも虚しく、猟犬たちが倒れた光実を一気に押さえ込んだ。そのまま彼を、自信らのモデルであるイヌらしく、食い殺すためだ。
「ぎゃあぁぁあぁあああぁッ!!」
特殊合金製の爪と牙は、アーマードライダーのライドウェアも安々切り裂き、その奥にある生身を容易に傷つける。群がる猟犬たちの隙間から覗く深緑の手足は、ところどころ破けて光実の生身が覗いていた。そんな、獣に弟が食い荒らされていくという凄惨な光景を前に、貴虎は膝をつき愕然とした。
「うわぁああぁッ!! 兄さんッ、にいさあぁあぁん!!!」
悲鳴をあげる光実に、もはや先程の冷酷さは無い。そこにあるのは、年相応の少年の、恐怖に怯える必死の叫びだけだ。
「よくも、貴様―――!」
父を、友を、想い人を理不尽に奪われ、全てを蹂躙されたあの炎の夜が脳裏に蘇る。光実の叫びが記憶を喚起し、忌まわしきトラウマの扉を開く。
ふざけるな。冗談じゃない。二度と、二度と大切な家族を―――
「やらせるものかぁッ! 変身ッ!!」
『MERON』
気がつくと、貴虎はトランクケースを乱暴に開け放ち、中の戦極ドライバーをその腰に装着していた。光実から託されたロックシードを開錠し、彼のやっていた通りのシークエンスをなぞる。
『ソイヤッ! MERON・ARMS! 天下・御免』
白亜のライドウェアが瞬時に展開され、貴虎の肢体を包み込んでいく。そして貴虎自信が己に起こった変身を理解するより早く、上空から飛来したアームズが貴虎に覆いかぶさった。
「ハァァアアアアアッ!!」
だが、もとより理解は置き去りにしている。
とにかく今は、早く、強く、鋭く斬り込み、光実を救出するのみ。
腰の無双セイバーを抜剣すると、貴虎はアームズウェポンである盾を構えて一気に突撃した。
https://www.youtube.com/watch?v=crsSDi1GGYs
光実を貪ることに夢中になっていた猟犬ロボットらを一太刀で打ち払い、返す刀で逃げ遅れた一体の首を斬り落とす。だが、まだだ。まだ、光実を救い出せてはいない。バックステップで距離をとる猟犬たちめがけて、盾をブーメランの如き挙動で投げつけた。緑色の残光を軌跡にして、即死級の威力を孕んだ盾が飛ぶ。
「な―――――」
絶句する泉宮寺だが、しかし現実は彼の驚愕など待ってはくれない。
飛来した盾が次々に猟犬たちを粉砕し、逃げ延びた猟犬も無双セイバーの餌食になっていく。
貴虎の変身から僅か10秒足らずで、光実に覆いかぶさっていた猟犬たちは残らずスクラップに変えられていった。
「そう、来なくてはな」
だがしかし。泉宮寺豊久は笑った。
血のように赤い、真紅のドライバーをその身に装着して。
「
長いことお待たせいたしました……。
時間的、物理的、精神的に小説を書ける状況ではなかったのです。
今後もゆ~っくり更新していく予定なので、よろしければ最後までお付き合いください。