魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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思考と判断

 大振りのモーションで繰り出される《森の魔獣》の爪。

 咄嗟に動けないほむらを救うべく、光実は彼女を無理やり押し倒して突然現れた敵の凶爪から彼女をかばった。

「………!!」

 戦慄の表情で《森の魔獣》を見上げるほむらだが、しかし彼女の中で二つの選択肢が生まれていた。

 ここで魔法少女に変身して《森の魔獣》を倒すことは、恐らく不可能ではない。

 マミの教えのもと、日々積んできた研鑽を思えば、今眼前にいる丸っこいタイプの《森の魔獣》相手なら戦える自身があった。

 だがそれはすなわち、この無関係な少年に魔法少女と魔獣の繰り広げる、恐ろしい血みどろの戦いの世界を見せてしまうということ。

 

 守るために戦うか。

 守るために逃げ出すか。

 

 どちらにせよ、リスクは避けられない。

 

 だが、襲い来る脅威は彼女に十分な思考をするだけの余裕を与えない。その丸っこい《森の魔獣》が、形容し難いうめき声のような鳴き声を上げると、そいつの現れた空間の裂け目から、これまたそいつと同じ形状で色違いのまるっこい《森の魔獣》が次々と姿を現したのだ。

 

「こいつ、仲間を呼んでいるっていうのか………?!」

 光実はほむらの手を引いて立ち上がりながら、周囲にざっと警戒を飛ばす。

 遥かに彼の理解を超えた超常現象が発生しているというのにも関わらず、しかし光実は必要以上に怯えることなく、己のするべき行動を導き出そうとしていた。

 

 あの空間の裂け目から見える森、恐らくこの怪物たちはその森から現れたに違いない。仮に、あの怪物たちが任意の場所にあの裂け目を作ることができるとするならば、このまま逃げたとしても自分たちは決して怪物からは逃げられないだろう。先ほど見受けられた、ある程度統率の取れた集団行動をから推察するに、怪物たちが自分たちを意識的に狙っていることに疑いの余地はない。

「あの森の中でだけ、暮らしていればいいだろうに……!」

 踊りかかって来る怪物をすんでのところで躱しながら、光実は悪態をついた。むろん、ほむらも抱きかかえた上で、である。

 胸の中の少女の熱が高まっていくことに、光実はまだ気がついていない。

「光実くんっ! 早く逃げないとっ」

「どういうつもりかは知らないけど、奴らは僕たちを狙っている。今ここから逃げおおせたとしても、またあの裂け目を作ってワープしてくるだろう。その時もし僕らが街中にでもいてごらん、大惨事になることは避けられない」

 異常事態に身を置いても、冷静な思考と分析を忘れない光実に感心しつつも、彼の言葉の意味を理解するやいなやほむらは唖然とした。

「じゃ、じゃあ、あいつらをここでやっつけるってこと?!」

「こいつらを引き連れて交番まで逃げるわけにはいかない。…………そりゃ見込みは無いけど、僕らでなんとかするしかない」

 

 言い切ると、光実は敢然と《森の魔獣》に挑みかかっていった。細い体に見合わず、意外と運動神経が高いようで、光実はジャンプからのハイキックを華麗に決めてみせた。顔らしき部分を蹴たぐられ、《森の魔獣》がバランスを崩して後ろにひっくり返る。

「す、すごい……!」

 感嘆の声を漏らすほむらであるが、彼女にとっても人ごとではない。光実の援護をするべく、足元の石畳に転がる(つぶて)を《森の魔獣》めがけて投げつける。だが、ノーコンピッチャーほむらの投球は、遥か明後日の方向へとすっ飛んでいった。

 

 およそ役に立ちそうにない相方を尻目に、光実は襲い来る怪物の爪を紙一重で避けながら、ひたすら渾身の蹴りを叩きつける。だが三発目の蹴りを怪物に食らわせたところで、足首に鈍い痛みを光実は感じた。

「ウッ……!」

 怪物の硬い外骨格が相手では、いくらローファーを履いていて通常より硬いといっても、素人の蹴りでは効果があるはずもない。痛みのあまり光実が攻撃を躊躇すると、怪物はすかさずタックルを光実にかました。

 

「あ―――グッ――――――!」

 弾き飛ばされ、崩れ落ちる光実。

「光実くんっ!!!」

 金切り声をあげるほむらだが、しかし彼女は悟っていた。眼前の光景が、魔法少女への変身を躊躇し、ろくな援護もできなかった、役立たず自分が引き起こした必然であることを。

「…………許さない」

 だから、許せない。

 理不尽な暴力を振りかざして襲いかかってくる、眼前の敵を。

 そして、つまらない葛藤で彼を傷つけた、自分自身を。

 

 暁美ほむらは、倒れ伏す光実が見守る中、魔法少女へと変身した。

 

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