「暁美さん、ちょっとここで待ってて。しばらくこっちを見ちゃダメだよ」
「えっ、でもさっき『死体』って……」
「トイレだよ。『したい』っていうのは……まぁ気にするだけ野暮じゃないか」
軽い口調で誤魔化しつつも、戦慄の表情を浮かべたままで死体の方角へ駆け寄る。ほむらが取り残される格好になってしまうが、この死体を見せてパニックに陥られるよりはマシであるとの判断であった。
死体はほとんど白骨化しており、肉の名残と思われる黒いそれがところどころにこびりついているものの、遠目に見た時に想像したほどスプラッターなことにはなっていないようだ。
服装はオリーブドラブカラーの野戦服で、背格好から男性であることは容易に想像がつく。ブーツも底の厚い安全靴で、全体的にミリタリーな格好と言える。
だが、そういった服飾品とはちぐはぐに、彼は武装と呼べるものを持っていなかった。サバイバルナイフ程度なら持っているようであるが、この森を探索する以上、およそ武器にはなりそうもない。あの《森の魔獣》に対抗しようと思うのなら、ライフルの一丁でも携行しなければあまりに無謀だ。
「装備品は十分に整っている。軍関係の人間かもしれない。………にも関わらず非武装だなんて、この死体は矛盾している」
中学生にしてはえらく座った根性で、ぶつぶつと呟きながら無遠慮に死体をまさぐる光実。少し前まで留学していたアメリカで、何度か死体を目撃していたためであろうか、少年の中には死体というものに対する、いわばある種の抗体ができていた。
「ん……?」
調べている最中、光実は死体の裏に隠されていた古ぼけたアタッシュケースを発見した。掠れたロゴマークと思しきものに印刷された文字を睨む。
「
どうやら経年劣化でケースが脆くなっているようで、軽く光実が力を加えると容易く蓋を開けた。
「何だ、これ……。何かをはめ込むような形状をしているけれど」
「何かの部品なのか? いや、接続箇所は見当たらないし……クソッ、これじゃ分からないことが増えるばっかりじゃないか」
思わず叩きつけてやりたいほどの激情に駆られたが、しかし光実はすぐに冷静さを取り戻した。この機械とも装飾品ともつかない奇妙な物体の、ナイフ型プレートの付いていない側が湾曲していることに気がついたのである。
「………まさか」
脳裏に浮かんだ仮説を試すべく、恐る恐る自らの腹に黒いそれをあてがう。すると、一瞬の機械音声と共に黄色いベルトが展開され、光実の腰周りに巻き付いた。
「なっ………! これは、ベルトだったっていうのか? でもだとしたら、コレはいったいどういう意図で造られたモノなんだろう…………?」
怪訝な表情でベルトを睨む光実。だが、この非武装の兵士と思しき彼が命を賭して守り抜いた品物である。価値のあるものであると今は信じることとし、光実はその直感を信じて残りのベルトもアタッシュケースと共に持っていくことにした。
アタッシュケースを片手に急ぎ足で戻ると、しかし光実は休む暇も無く衝撃を覚えた。残しておいた暁美ほむらが、さっきあれほど言った果実を手にし、今にも食べようとしているではないか。
「ばっ………! やめるんだ暁美さん!」
慌てて駆けつけ、ほむらから果実を取り上げる。すると、果実は突然妙な光を発し、次の瞬間には紫色の錠前にそのカタチを変えてしまっていた。
「あぁ!! これじゃぁ食べられないじゃないですかぁ」
「暁美さん、逆だよ。きっとこいつが、この果実の正体なんだ。…………あの妙な食欲も収まった。どうやらこれで危険性は除去できたようだけれど………この柄、なんだかブドウみたいだ」
「はぁ…………シャルモンのブルーベリーチーズケーキ、美味しかったな……」