魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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 光実たちが《禁断の森》に迷い込んだその数十分前、巴マミは今日の特訓の休止をほむらに言い渡し、一人とある館へと足を運んでいた。


【第二話 狙いと想い】
不可侵領域


 魔法少女にとって、《魔獣》を狩ることはすなわち生きることに直結する。生死を賭けて戦うことがどうして生存へと繋がるのかというのは当然の疑問であるが、その疑問に回答を用意するためには少々ここで魔法少女のシステムについての説明が必要であろう。

 

 

 

 魔法少女が魔法少女たる証明は、すなわち《キュウべぇ》との契約によって成立した《ソウルジェム》の有無である。奇跡の対価に《魔獣》との闘争を選んだ彼女たちは、それぞれ魔力の源である《ソウルジェム》という石を持つ。

 この《ソウルジェム》がその輝きを保っている限り、魔法少女は魔法を行使することが可能なのだが、その魔法を使いすぎると今度は《ソウルジェム》が濁ってしまう。この濁りが極限まで達してしまうと、《ソウルジェム》は消失。魔法少女は魔法のみならず、その命すらも散らしてしまう。

 

 そこで登場するのが、《魔獣》の落とす《グリーフキューブ》である。これは読んで字のごとく立方体の形状をとっており、《ソウルジェム》の汚れを除去させることができるという機能を持った代物である。つまり、同時に魔法少女たちに契約を持ちかけた《キュウベぇ》が欲しているモノなのだ。

 そうした事情が重なって、魔法少女たちの間ではしばしば《グリーフキューブ》の争奪戦が起こることがある。そのため彼女たちには縄張りが存在しており、その縄張りの中でのみ《魔獣》の退治を行っているのだ。

 

 逆に言えば、苦労して倒したところで《グリーフキューブ》を落とさない《森の魔獣》は、そもそも彼女たちが相手にするべき“敵”ですらないのである。

 

 

 

 そんな存在を相手にわざわざ巴マミが戦うのには理由があった。

 まず第一は、彼女の縄張りである見滝原を中心に《森の魔獣》が出没していること。そして何よりも、《森の魔獣》や、彼らの現れる《禁断の森》につながる空間の裂け目が現れるようになったタイミングと前後して、《キュウべぇ》が姿を消してしまったことだ。

 

 巴マミにとって、キュウべぇは気の置けない友人同然の相手だ。素っ気ない冷血漢ではあるが、友人のほとんどいないマミにとってはそれでさえも構わない。喋る小動物といった風情の彼の存在は、彼女にとって日々の癒しでもあり、数少ない友達という拠り所なのだ。

 

 正義の魔法少女を自負するマミにとって、《森の魔獣》と戦う理由は、彼らが“街を脅かす存在であること”に疑いの余地はない。だがそれ以上に彼女の動機となっているのは、未だ行方知れずのキュウべぇを探すことであった。

 

「彼女なら、きっと…………!」

 

 

 ※※※※

 

 

 見滝原のはずれの一等地に、その屋敷は堂々と建っていた。

 かつてこの屋敷の家主だった美国久臣は、優秀な政治家であった。しかし、その影では常に汚職の影が絶えなかったという。そして数ヶ月前、とうとう美国は汚職の追求を逃れるため、家族を残して一人首吊り自殺をした。

 その自殺は死を以て彼自身の容疑を認める結果となり、残された美国一家は壮絶な攻撃を世間から受けた。門や壁面の落書き跡が、当時のバッシングの激しさを暗に物語っている。

 

 一見、無人の幽霊屋敷のようではあるが、しかしこの屋敷には現在も住人がいる。その名は美国織莉子(みくにおりこ)――――――美国久臣の一人娘であり、お嬢様学校に通う中学生であり、そして魔法少女だ。

 

 魔法少女には縄張りがあり、その境界は絶対不可侵である。その禁を破って、巴マミは今日、織莉子を訪ねて彼女の家までやって来た。

 

「よしっ………。お願い、今日こそは私と会って……!」

 意を決し、マミはチャイムを鳴らした。

 同じ見滝原市の魔法少女とはいえ、彼女とマミとでは縄張りが異なるのだ。よってこの訪問が宣戦布告と受け取られても仕方のないことなのである。それゆえか、こうやって美国織莉子を訪ねても、彼女と会えたのは片手で数えられるほどの回数だけだった。

 

 チャイムの無機質な電子音が、まるで誰もいないかのように虚しく屋敷に響き渡る。今回もいないようだ……。そう判断して引き返そうと思い立った瞬間、しかし突然ドアが音を立てて開け放たれた。

 ぎょっとした様子で玄関を見つめるマミだが、ドアを開けた人間の気配は無い。どうやら、ひとりでにこのドアは開いたようだ。

 

 心臓に悪い子ね……。

 

 マミは冷えた肝を落ち着かせようと、心の中で呟いた。

 

 

 ※※※※

 

 

「ねぇねぇ織莉子、恩人を招き入れて本当に良かったの?」

「そうねぇ…………。これはある種の賭けでもあるから、何とも言えないわ」

「ふーん……まぁでも、もし恩人の存在が織莉子にとって害悪になると判断した場合、私は恩人を故人にしてしまうのを躊躇できないよ」

「ふふっ……………穏やかじゃないわね」

 

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