招かれた先に広がる薔薇の庭園で、美国織莉子とその従者―――
「………ごきげんよう、巴マミさん。本日はどういったご用件でいらっしゃるの?」
「私と織莉子の時間を邪魔するんだから、それ相応に重要な用事のはずだよね」
…………だが、綺麗な薔薇には刺がある。
相変わらずな二人に内心ヒヤヒヤしながら、マミは口を開いた。
「今日来たのは、最近この街に現れるようになった《禁断の森》、およびそこから出現する《森の魔獣》、そしてキュウべぇの行方。………以上の三件について、同じ見滝原の魔法少女として話がしたかったのよ」
マミが一息に用意していたセリフを述べると、織莉子は飲んでいた紅茶のカップを机に戻してマミの瞳を覗き込んだ。
嫌な汗が、背中を伝う。
「………あら、ごめんなさい。お客様を立ちっぱなしにしておくだなんて、私も無作法をしたわ。そこにかけてくださる?」
「え、ええ」
だが、マミの緊張とは裏腹に織莉子は自然体だった。
確かに中学生離れした威圧感と類まれな頭脳を持った超絶の美人ではあるが、美国織莉子という少女は、本質的には花を愛で、恋に焦がれる……そんな少女なのである。
……無用な警戒は逆に向こうを危ぶませるだけかもしれない。
そう思ったマミは、半ば拍子抜けした心持ちで席についた。
「…………じー」
だが織莉子の従者、呉キリカはそうはいかないようだ。どういった経緯でこの二人が組んでいるのかは知らないが、どうやらキリカにとって織莉子との時間は何よりも大切であったらしい。マミは取り敢えず、半目で睨めつけてくるキリカに微笑みを返して謝罪の代わりとした。
「さて………さっきの話ですけれど、私の予知魔法を頼って来てくれた、という解釈でいいのかしら」
ほわほわとした柔らかい雰囲気を醸しながら、織莉子がマミに話しかける。いつの間にか、マミの前には紅茶の入ったカップが新しく用意されていた。
「言ってしまえば、そういうことになるわね。私たちはお互い不可侵のスタイルをとっているけれど、今回の《森》にまつわる事件に関してはその限りではないと思うの。同じ見滝原の魔法少女として、事態の究明に協力してはくれないかしら」
本題をいきなりぶつけてきたマミに少々驚いたような面持ちでいた織莉子ではあったものの、やがてすぐにもとの柔らかな笑みに戻った。
「ええ。魔法少女活動の上で、あの《森の魔獣》はかなりお邪魔ですからね。うちのキリカも、この前《森の魔獣》と戦ったばかりなんですよ」
織莉子の言葉に、マミは思わずキリカを見やる。堂々と胸を張るキリカだが、自分が《森の魔獣》と戦った時のことを振り返ると、むしろ恐々とした感情に駆られた。
「だ、大丈夫だったの? よくあれと戦って生きていられたわね……」
マミの言葉を賛辞と受け取ったのか、キリカは気を良くしてニッと笑った。
「まー、確かにアレは強敵だったね。でも、『織莉子が待ってる!』って思えば、どんな相手であったとしても、私は決して負けはしないよ。絶対に織莉子のもとへ帰り着いてみせるさ」
得意げに語る呉キリカであるが、織莉子は少々曇り気味な面持ちでそれを見つめていた。不審に駆られたマミが、それとなく視線を飛ばしてみる。
「………キリカ自身はああ言ってますけど、あの時はかなり危なかったんですよ。キリカの強さは貴女もご承知の通りですけれど、そのキリカだって私のところに帰ってきた時には瀕死の状態だったんですもの」
「あぁ! 織莉子ってば! 私が武勇伝を語っている横からそんなチャチャを出してぇっ! 織莉子なんか織莉子なんか」
「嫌い?」
「だいっ好き!」
二人の息ぴったりの掛け合いに、マミは終始圧倒されていた。
え? 話がちっとも進んでいない?
気にしてはいけません。