織莉子の言葉がマミに与えた衝撃は、マミの表情にすぐに現れた。
「そんな、私たちを普通の人間と区別して狙っていると言うの?!」
「それだけではないわ。《魔獣》と違って自らのテリトリーから飛び出してくる習性を持っているというのに、これまでただの一度すら衆目にその姿を現したことは無い……必ず人気のない場所に、魔法少女を狙って出現している。それも、この見滝原を中心として、ね」
織莉子の言葉はどれも的を射ていた。
事実、あれだけ目立つ姿をしているというのにも関わらず、《森の魔獣》の存在はまるで世間に認知されていない。特殊な結界に獲物を引きずり込んで襲う《魔獣》が世間に知られていないのは納得できるとしても、これはあまりに不自然だ。
そして魔法少女を狙っているというのも、考えてみれば合点がいく。この見滝原の周辺に縄張りを持つ知り合いの魔法少女たちからも《森の魔獣》の被害を受けたという話は聞いているし、中には行方不明になってしまった魔法少女もいる。
そして彼女たちの証言した《森の魔獣》との遭遇率と自分のそれを比べてみると、明らかに見滝原市に住んでいる自分の方がより高い頻度で襲撃されている。
己の持つ情報と照らし合わせるにつれ、織莉子の言葉がますますその信憑性を増していくのをマミは感じた。
「美国さん、あなたは」
「私は、あの《森の魔獣》たちは、何らかの明確な目的のもと、人間社会に精通した人物の指導を受けながら行動しているものと推測しています」
「人間社会に精通……?!」
「正確には、見滝原の地理に精通している、と言うべきでしょうか。確実に人がいない場所を狙ってくる辺り、計画的な犯行であることに疑う余地はありません。おそらく事前に私たちを襲うポイントを選定し、そこに何らかの手段で誘い込んでいるのでしょう。《森の魔獣》は、《魔獣》のような“自然災害”ではありません」
饒舌な語りをいったん休んでひと呼吸置き、織莉子はまた改めて口を開いた。
「“人災”です。それも、計画的な」
足元が崩れるような感覚、とでも言うべきか。
マミはこれまで感じたことの無い未知の恐怖感を感じていた。
人知を超えた化け物《魔獣》と繰り広げてきた戦いの日々は、常に死の恐怖と隣り合わせだった。
だが、《森の魔獣》が織莉子の言う通りの存在であるとすると、湧き上がってくるのはもっと別の恐怖だ。
「もしそれが本当のことだとしたら……!」
想像を絶する敵の周到さと悪辣さに、マミは言い知れぬ感情を抱いて震え上がった。
「ところで巴さん。あなたのお家って、確かマンションの一室よね。防音性って高いのかしら」
突然の話題転換にぎょっとするマミだが、織莉子は相変わらず真面目な顔をしている。真意を測りかねるものの、マミは取り敢えず返事を返すことにした。
「え、ええ……。高い防音性が評判のマンションだし……!」
言いながら、マミは織莉子の言葉の意味に気がついて愕然とした。
「まずいですね。マミさん、あなたはこのままだと、寝込みすらも襲撃される可能性があります」
「そんな………!!」
織莉子の注意勧告に、マミは思わず口元に手を当てて当惑した。
「ですが、襲撃されても周囲に露見しにくいという点では、屋敷住まいの私も同じ。しかし私は未だ、この屋敷の中で《森の魔獣》の襲撃を受けたことは一度もありません」
紅茶を少量口に含むと、織莉子は話を続けた。
「それは何故か。導き出される答えは一つ。……敵は、常識の範囲内ででしか、私たち魔法少女の存在を確認できていないということです。《禁断の森》の向こうから一歩的にこちらを監視したり、所在を把握するのではなく、もっと現実的な手段で私たちの動向を探っているんですよ」
「それじゃあ、《森の魔獣》たちはこの見滝原のどこかから私たちを監視しているということ?!」
「まぁ、その織莉子が言っている監視者っていうのも、分かりやすい格好ではないだろうね。恐らく人に化けていると思うよ」
狼狽するマミに、さらなる追い討ちをかけるようにキリカが新たに仮説を提示する。
美国織莉子と呉キリカが提示したのは、あくまでも仮説だ。
判明しているだけの状況から推測しただけで、決定的な証拠など何処にもない。
それでも、そんなものはただの仮説であると言い切れないだけの説得力があった。
「わ、私たちはいったい、何と戦っているの……?」
震える手で紅茶のカップを持ち上げようとするマミだが、しかしカップは彼女の指をすり抜けて落下してしまった。
瞬間、音に反応してキリカが反射的に身構えたまさにその時――――――
「止めて止めて止めて~~~~!!!」
「うわあぁぁあぁぁあぁあ!!!」
――――――赤いバイクに跨った暁美ほむらと呉島光実が、どこからともなく現れた。