現れたかと思いきや、そのままバイクごとひっくり返った二人の闖入者に、マミは驚きのあまり硬直した。端正な顔立ちに、次々と疑問符が浮かび上がる。
だが、硬直する客人とはうって変わって、織莉子とキリカの対応はそれとは対照的だ。
「やはり、織莉子の予知の通りだったね……!」
「ええ……」
軽く言葉を交わしながら、手にしたソウルジェムから光をほとばしらせる。次の瞬間、織莉子とキリカは魔法少女へと変身を完了していた。
白いドレスに身を包んだ織莉子、眼帯が印象的な黒い衣装のキリカ。白と黒、あるいは静と動といった対比を、並び立つ二人は醸し出していた。予知魔法と水晶玉で戦う、どちらかと言えばサポート向きな織莉子を後衛、スピードと殺傷力に優れたキリカが前衛という布陣だ。
マミもほむらと連携して戦いはするものの、両者の間には歴然の実力差があるため、どうしても対等のタッグとは言えない。それに対して織莉子とキリカのコンビは、互いが互いの短所をフォローし、長所を高めあう、理想的な二人組となっている。
縄張りという習慣のある魔法少女たちにとって、こういった協力関係にある魔法少女というのは極めて珍しい。それが二組も共存しているというのだから、見滝原市という街は魔法少女の視点からすると、非常に特異な場所なのである。
そんな見滝原最強タッグが、たった二人の闖入者を相手にわざわざ変身までして身構えるのは何故だろうか。マミははっと我に返ると、慌てて闖入者のうちの少女の方に駆け寄った。
「暁美さんっ! こんなところで何をしているの?!」
「とっ、巴さん?」
闖入者、暁美ほむらが朦朧とした表情でマミに応答する。どうやらしたたかに頭を打ち付けたようだ。マミはほむらともう一人の少年をかばうようにして、織莉子とキリカの前に立ち塞がった。
「彼女たちは敵ではないわ。私たちと同じ魔法少女よ」
あくまで毅然とした態度で、後輩を守るマミ。単騎の戦闘力でならキリカすら凌ぐマミではあるが、織莉子も一緒となると話は変わってくる。かなり不利な状況ではあるが、それでもほむらを見捨てることなどできるはずもなかった。
「安心しなよ恩人。私たちが変身したのは、そいつらを殺るためじゃないさ。……そいつらの出てきた方を見てごらんよ」
促された方向へ瞳を滑らせると、マミは更なる衝撃に駆られた。
「《禁断の森》………?!」
織莉子やキリカ、マミたちの眼前の空間には、先程まで存在していなかった空間の裂け目が開いていた。裂け目の向こうには、薄暗い森が広がっている。
「こぉんな分かりやすい結界、アイツら以外にありえないよ。……さぁ、恩人も構えて構えて」
言われるがままに、ソウルジェムを取り出して変身を実行する。一秒未満の感覚を置いて、マミは黄色い衣装に身を包んだ魔法少女へと変身を完了していた。
「しまった………! 僕らが出てきた穴をそのまま使って、こっちに攻めてこようっていうのか……?!」
ほむらと共に現れた少年が、乗ってきた赤いバイクを立て直しながら呻くが、しかしそちらを気にする余裕などマミたちにはあるはずもない。
彼女たちが身構えて数秒、緊張がついにピークへ達した瞬間、空間の裂け目から《森の魔獣》の集団が飛び出した。
「ああぁぁあぁ――――――ッ!!!」
雄叫びと共に、美国邸のバラ園を駆けるキリカ。彼女が突撃と共に繰り出した巨大な鉤爪が、そのまま《森の魔獣》の一体を切り裂いた。キリカ最大の武器であるこの鉤爪にかかれば、いかに頑丈な《森の魔獣》といえども無事では済まないのである。
「援護するわ、キリカッ!」
凛とした声音で援護を宣言すると、織莉子の袖口から水晶玉が飛び出した。自陣のど真ん中に飛び込んできたキリカを囲みこもうとする《森の魔獣》たちを、対する織莉子の放った縦横無尽に駆け巡る水晶玉が打ち据える。
キリカと織莉子のコンビネーションが生み出す爆発力は、《魔獣》はもちろん、《森の魔獣》にも通用する攻撃力の高さを持っていることを証明していた。
「負けてられないわね……!」
だが、それは二人が組んでいるからこその話。
彼女たちのコンビネーションの威力をたった一人で再現することができるのが、この巴マミという魔法少女なのだ。
空中に呼び出した無数のマスケット銃たちから吐き出される弾丸の雨が、キリカと織莉子が倒しきれなかった《森の魔獣》たちを蜂の巣にしていく。しかも、敵の只中にいるはずのキリカに傷一つ付けず、である。
威力、スピード、精密性と、どれをとっても一級品。巴マミは、まさに最強の称号に相応しい恐るべき戦闘力を秘めていた。
「さすがね、巴マミ………。この判断は、やはり間違ってはいなかったわ」
圧倒的火力で敵をなぎ払う彼女を見つめながら、小声で呟く織莉子。つい先程までのぽやぽやとしたお嬢様の面影はそこにはなく、代わりに少女らしからぬ影が差していた。
だが、うかうかしてばかりもいられない。
マミの攻勢がおさまると同時に、裂け目から蒼いカミキリのような《森の魔獣》が三体飛び出してきた。
「新手……!」
「織莉子、準備はいいかい?」
「ええ。よくってよ」