薄暗くなったバラ園で、少女四人と共に光実は軍手をはめて庭園を片付けていた。バラの香り漂う中、土や草をいじるのはあまり無い経験であったが、しかし光実は面倒だとは思わなかった。庭が荒れるようになったそもそもの原因は自分にあり、その謝罪の代わりにこうして庭掃除を手伝わせてもらっているのだから、申し訳無いとは思いこそすれ、面倒だなどとは思わない。
………だがしかし、今日一日であまりに多くのことがあった。
人外の怪物《森の魔獣》との遭遇、そしてそれと戦う《魔法少女》との邂逅。
そして、謎の森で出会った紫色の鎧武者………。
――――――疲れた。
心の声に従って、光実は思考を停止した。庭掃除のおかげで、思いの外無心になれる。連続する非日常に、呉島光実の精神は疲弊しきっていた。賢いとはいっても、彼はまだまだ14歳の少年なのである。
※※※※
それからの質問攻めは、疲れきっていた光実とほむらを更に精神的に打ちのめした。
せっかく庭仕事で落ち着いたばかりだったというのに…………ほむらと光実はお互い顔を見合わせて嘆息した。
だがマミたちの疑問ももっともである。二人は自分の知る限りの事柄を、殺気立つ三人の少女に細かく説明した。
何故《禁断の森》の中から現れたのか?
そっちの男の子は誰なのか?
男の子が手に持っているアタッシュケースは何なのか?
すべての疑問を完璧に回答し終えたのは、夜の9時を回った頃。さすがに夜も遅くなったからだろう。家族から心配の電話がかかってきたので、ほむらが慌てて携帯電話を握りしめてリビングから退室した。それを合図として、織莉子とキリカも席を外す。
「呉島くん」
「あ、はい」
向かい側に座るマミが、光実に話しかける。一つ年上の美人な先輩に声をかけられて、光実は内心ドキドキしていた。
「怖い思いをさせて、ごめんなさいね。魔法少女でもないのにこんな話に巻き込んでしまって、申し訳なく思っているわ」
下手な富豪なんかよりもよほどお淑やかで優雅じゃないか。
過去見てきたどの金持ちのマダムよりも淑女らしいマミの物腰に、光実は半ば陶酔するように見とれた。
「い、いえ……。でも、こんな恐ろしいことに同じくらいの年頃の女の子たちが身を投じているだなんて、恐ろしいことです。こう言うのは僕自身も悔しいですけれど、14、5歳なんてまだまだ子供じゃないですか。社会的には非保護者の立場です。それがこんな命を賭けて戦うだなんて……」
「漫画や映画なら、それもいいんでしょうけどね。本当なら私だって暁美さんだって、こんな風に戦いなんてしたくないわ。普通に学校生活をおくることができればどれだけいいか……なんて、考えることもたくさんありますもの。でも呉島くん。魔法少女にも、戦いに赴くようになったそれなりの理由があるのよ。心配してくれるのはとても嬉しいのだけれど、どうかそのへんで抑えて頂戴」
光実は己の失言を悟り、思わずあっと声を漏らした。哀しげな顔で、マミがこちらを見つめている。
彼女の覚悟を汚すような発言をしてしまったことを恥じて、光実は消え入りそうに小さな声で謝罪した。
「あなたが謝ることなんて無いのよ。そんな風に私たちのことを言ってくれるのはあなただけだから……」
慌てた様子でマミが言葉を付け足す。真実、彼女の言葉は感謝に満ちていた。だがしかし、光実の言葉に寂しさや悲しみを覚えたのもまた、否定できない。魔法少女という、根本的に歪んだシステムの上で生きているマミにとって、光実の言葉はあまりに正論過ぎたのである。
「………あの、巴先輩」
数秒前までとは異なる顔つきになった光実が、マミに向き直る。その瞳は、ほむらと出会う以前の濁った色では無い。強く、そして若い心の光に澄んでいた。
「暁美さんに、僕は何度も助けてもらいました。確かに僕は貴女の言う通り、魔法少女には何の関係もない部外者です。ですがそれでも、僕は貴女たちの戦いに関わりたい、手伝いたいんです。それが、僕を命懸けで守り抜いてくれた暁美さんへの恩返しになるはずだから……!」
「呉島くん……」
少年の決意は固まった。
人の暖かさを教えてくれたあの少女のために。
この世の呪いと戦い続ける、魔法少女のために。
「戦います、僕。あんな奴らのために、これ以上暁美さんの涙を見たくない。魔法少女のみんなにも、笑顔でいて欲しいんです」