魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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《禁断の森》の奥に潜むまだ見ぬ“敵”への反撃に出るべく、同じ見滝原の魔法少女である巴マミ、暁美ほむらと盟約を取り結び、さらには《森》の遺物を持ち帰った呉島光実を仲間に引き入れた美国織莉子と呉キリカ。

 五人の少年少女の戦いが水面下で開始された頃、魔法少女になりそこねた“あの少女”の運命が動き出そうとしていた……。


【第三話 始動、鎧武】
悩める乙女


「今日はみなさんに大事なお話があります、心して聞くように!」

 

 暁美ほむらが転校してきた数日前と似たようなフレーズのセリフが、朝の教室内を震わせる。教鞭を振るいながら力説しているのは、果たして早乙女和子女史であった。職業は中学校教諭、年齢は34歳。独身である。

 

「男女二人きりで観戦するスポーツといえば、球技ですか? それとも格闘技ですか? はい中沢くん!」

 

「えと……どっちでも楽しいんじゃないかと」

 

「その通り! ちょぉ~っと高圧電流有刺鉄線デスマッチで盛り上がったからといって女の魅力が下がると思ったら大間違いです! うー!」

 

 血みどろのレスラーたちの白熱バトルに思わず我を忘れて発狂した昨夜の自分を省みることなく、早乙女女史が唸り声を上げる。

 怨念に満ちた彼女の声と姿は、生徒たちにはヒールレスラーよりも恐ろしく思えた。

 

「女子のみなさんは、多少の暴力性にも拒否反応を示すヘタレ草食男子とは交際しないように! そして男子のみなさんは、パートナーの趣味に文句を絶対に言わないこと!」

 

「また駄目だったか……ってか、前の彼から全然時間経ってないよね」

 

「それだけ先生も焦っているのでしょう。気になる人には片っ端からアタックしているんでしょうね。きっと、まだまだ候補の男性がいらっしゃると思いますわよ」

 

「仁美、アンタ発想が黒いわ……」

 

 苦笑いを浮かべるさやかに、きょとんとした顔を向ける仁美。恐ろしい想像ではあるが、それだけに真実味を帯びていた。

 仁美のコメントに恐々としたものを感じつつ、前に向き直るさやかだったが、眼前で荒れ狂う担任教師を見ていると、別の感情が湧いてきた。

 

「気になる人に片っ端からアタック、か……」

 

 それほど身軽になれたら、どれだけ楽だろうか。

 

 病室での一件以来、結局一度も会えないままの想い人を想起する。

 

 あらかた動けるようにはなっているらしいが、それでも指の回復は絶望的らしい。

 

 ヴァイオリンが弾けなくても、貴方には十分価値がある。

 

 その一言を言い出せないまま、結局お見舞いにも行けない。

 

 表面上では元気を取り繕ってはいるものの、美樹さやかの精神は既にズタズタであった。

 

 

 ※※※※

 

 

 何日か前から、ほむらが三年生の美人な先輩によくなついていることは、さやかも仁美も知っていた。巴マミというらしいその先輩との面識は特に無かったが、噂だけなら知っている。女子特有の情報伝達の早さには、目を見張るものがある。

 

 成績優秀にしてスポーツ万能。年齢の割に落ち着いた性格で、見滝原の中でも特に異性からの人気が高い。しかし部活には参加しておらず、それどころかクラスでもそれらしい交友関係を持たない、ミステリアスな一面もある。

 

 巴マミの風聞を信用するならば、暁美ほむらとの交流は彼女らしからぬ行為であるといえる。気になってほむらに事情を何度か問いただしたものの、そういった場合は決まって光実が割り込んできてしまう。

 

 そう……呉島光実。美人の先輩と仲良くなるだけならばまだ許せるが、あの美少年とも仲がいいというのは由々しき問題である。というか、こっちが恋に苦しんでいる真っ最中だというのに、目の前で遺憾なくリア充ぶりを発揮してくるのは如何なものであろうか。

 

「…………まぁ、まだ付き合ってはいないらしいからギリギリ許すけど……でも付き合ってもいない男女があそこまでイチャコラしますかね普通?…………」

 

 ぶつぶつと独り言を呻きながら、帰り道をトボトボ歩くさやかの姿は、もはや異様ですらあった。

 

 仁美は今日も習い事、ほむらはほむらで光実たちと一緒だ。

 とはいえ、彼女たちが仮に一緒に帰ることをこちらに提案してきても、今のさやかの精神状態はそれを了承できるほど健康的ではない。カラ元気もそろそろ品切れ。いい加減、疲れてきてしまったのだ。

 

「はぁ……。あたし、どうすればいいんだろ……」

 

 見るからに心労の重なった顔で、気だるくため息を漏らす。もはや明日からも引き続き学校に行く気力すら、今の彼女には残されていなかった。

 

「…………ん?」

 

 ふと、なんの気なしに顔を上げると、さやかの虹彩に奇妙な光景が飛び込んできた。

 

「あれって……巴先輩、かな。それに……ほむら?」

 

 川を挟んだ向こう側の商店街に、並んで歩く二人の姿を捉えた。遠目でははっきり見えないが、楽しくショッピングというわけでもなさそうである。どことなく、二人の姿にはぎこちないものが感じられた。

 

「なんだあれ……まぁ、いいか。……あたしには関係ないし、ね……」

 

 仲睦まじく語らう二人に割って入るのも、野暮というものであろう。そんなガラでもない気遣いをしつつ立ち去ろうとするさやかであったが、視界の端に捉えた“ソレ”に、思わず再び振り返った。

 

「アレは………中沢ぁ?!」

 

 商店街を歩くマミとほむら。その背後から、クラスメイトの中沢少年が不審な挙動で忍び寄っていた。

 




【第二話】は【第一話】とほとんど同時進行でしたが、この【第三話】は【第二話】よりも少しだけ時間が経っています。

 群像劇という複雑な構成ですが、どうか最後までお付き合い頂ければと思います。
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