魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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オケアノスから来た女

 やれやれとため息をつくと、さやかは中沢に対して虫を見るような目を向けた。

 

「だいたい、ストーカーっていうのがまず男らしくないわよね。男ならガツンと一発、『僕とお茶しませんか』くらい言いなさいよ」

 

 だらしないわね、と一言付け加えるさやかに、中沢は信じられないといった表情を向けた。これだからデリカシーの無い女は……!

 

「なっ……! 無理に決まってるだろ! 相手は年上で、何より外国人なんだぞ?! それにな、ガツンと一発なんてお前が言えるセリフかよ?! みんな知ってるんだからな、毎日毎日、飽きもしないで甲斐甲斐しく病院に……」

 

「わーーーーーー! わーーーーーーーー!! キーコーエーナーイー!」」

 

 中沢の口を無理やり塞いで、それ以上の発言をストップさせる。さやかの顔は、まるで先程までサウナにでも入っていたかのように朱が差していた。

 

「もごごっ、はなっ、はなしっ! いきが、できっ」

 

 マウントポジションで口を塞がれ、今にも窒息しそうな中沢。彼の脳裏には、これまでの日々の記憶が凄まじいスピードでスライドショーのように流れていった。

 

「そのへんにしときな。これ以上はおふざけじゃ済まなくなるよ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 凛とした声が頭上から聞こえてきたかと思うと、さやかは猫のように首根っこを掴まれて持ち上げられていた。

 

「ぶはっ……あ、あなたは!」

 

 むせる中沢の虹彩に飛び込んできたのは、あの赤髪の外国人女性だった。気の強そうなその顔は、まさに《頼れる姉》といった感じであろうか。ここまでの至近距離で見たのは初めてであったが、想像以上に美人な顔立ちに、中沢はある意味意識が遠のきかけた。

 

「おいおいっ、 大丈夫かよっ!」

 

「こ、今度はあたしが苦じい……」

 

 

 ※※※※

 

 

 最寄りのファーストフード店に移動しておよそ数分。やっと呼吸が落ち着いてきたところで、中沢は思い切って向かい側に座る赤髪の外国人女性に話しかけた。

 

「ごっ………ご趣味は……?」

 

「お見合いかよ! ああごめんなさい、コイツあがり症なもので。あ、こっちは中沢で、私は美樹さやかです。あやうく殺人犯になりかけてたところを助けていただいて、どうもありがとうございましたっ」

 

 鋭いツッコミから間髪いれず、その流れから自己紹介。さやかの対人スキルは、人見知りしがちな中沢にとっては神の域にすら等しかった。

 

「こっちの子にしては、随分明るい子だね。私はベローズ。よろしくね。サヤカ、ナカザワ」

 

 露出の高い衣装と気の強そうな顔立ちとは裏腹に、ベローズの落ち着いた受け答えは《知性と良識を併せ持った常識人》という印象をさやかと中沢に与えた。

 

「ベローズさんって、なんだか潮の香りがしますよね。海のある国から来たんですか?」

 

 同性とはいえ、いきなり匂いを話題に出すさやかの暴挙に、中沢は戦慄のあまり言葉を失った。

 

「あははっ、潮の香り、か。あたしのいたところは…………まぁすごいマイナーな国だから言っても分からないかな。まぁとにかく海に囲まれてたよ。この国も海に囲まれてるみたいだけど、私たちの国はもっと小さくてね。潮の香りなんてものはいつでも漂ってたから、こうして改めて言われたのはこれが初めてだよ」

 

 ベローズの言葉にふんふんと頷くさやかの脳裏に、昔恭介と一緒に行った海の記憶が蘇る。あの頃は小学生の低学年で、その日の最後に『またここに来よう』と約束も交わした。しかしその後すぐに恭介のヴァイオリンは周囲の大人たちから評価を受けるようになり、結局あの日の約束は果たされていない。

 

「素敵ですよね、海って。……また行きたいです」

 

「いつだって海は逃げないよ。……もっとも、サヤカは一緒に海に行きたい人がいるようだけど?」

 

 いたずらっぽく笑うベローズの頬に、小さくえくぼが刻まれる。さやかは羞恥と驚きがないまぜになった顔で慌てて言葉を返した。

 

「どっ、どうして分かるんですっ?!」

 

「顔を見れば分かるわよ。あたしもまだまだ18歳の若輩者だけど、それなりに人を見る目はあるつもりよ?」

 

 ベローズの蒼い瞳が、まるで陽光の下のさざ波のようにきらめく。そこには、海の深さと広大さを思わせる精神的な大きさがあった。

 

 4歳違うだけで、ここまで変わるのか。

 

 ………否、それは違う。

 

 こんな目ができる女性なのだ。きっと自分では、彼女の人生を測ることなど、できはしまい。

 

 なればこそ、この異国の女性にも劣らない素敵な女性へと変身を遂げたいと思う。

 

 そうすればきっと、(恭介)の絶望を理解してあげられる。

 

 そして、その絶望を共に背負うことができる―――――

 

 新たな価値観との邂逅が、さやかの萎えかけていた精神を再び奮い立たせた。

 




《まどか》、《鎧武》をベースに進めてきた本シリーズですが、動かせるキャラクターが限られてしまうため、《ガルガンティア》にもクロスオーバーの一つになってもらいました。

 とはいえ、本来《まどか》を主軸に据えたお話に《鎧武》で味付けをした小説なので、後付けの《ガルガンティア》につきましては、知識が一切無くて結構です。

 なるべく“原作が分からなくても楽しめるように”をモットーに書いているつもりですが、もし描写が不十分、ないしは不適切だった場合は、感想等でお寄せください。
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