魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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心が変われば……

 久しぶりの三人での昼食。ここのところ先輩や光実にベッタリだったほむらも、今日は本人曰く“お休み”らしい。仁美の方も、今日の習い事は代休を貰ったという。ここのところ集まれなかったメンツなだけに心が踊ったが、しかしさやかはそれでもいつもの調子を取り戻しきれずにいた。

 

「変身……。そうだよ、変身しなきゃ……!」

 

 ベローズと別れて数日、心に根強く残り続けている言葉。

 

 誰に言われたわけでもない、しかし、心の底から湧き上がってきた言葉。

 

 ――――“変身”

 

 もちろん肉体的な意味ではなく、精神的な意味での変身である。今の自分とは違う自分に変わりたい。そんな想いが、さやかの中で渦巻いていた。

 

 だがその一方で、さやかの中に新たな不安もまた生まれてきた。

 

 

 ――――――――こんなことをしていて、本当に“変身”できるのか?

 

 

 朝起きて、学校に行って、友達としゃべり、退屈な授業をこなし……。これまで当たり前に過ごしてきた日々が、急に違って見えてきたのである。

 

 これでは、何も変わらない。何も変えられないのではないか?

 

 本当になりたい自分に、この日々を繰り返しているだけでなれるのか?

 

 数学の公式が、国語の文章が、英語の単語が、自分を成長させてくれるのか?

 

 数日前に出会ったあの蒼い瞳の持ち主に、こんなことで追いつけるのか?

 

 ただなんとなく過ごして来た日々に、じわりじわりと焦燥感を募らせていく。

 

 ガラス張りの教室から見える外の風景が、今のさやかにはとても不透明なモノに感じられた。

 

 

 ※※※※

 

 

「初心者にも優しい習い事ですか?」

 

「そう! 仁美って、いろいろ頑張ってるじゃない? あたしもその、何かやってみようかなって……」

 

 放課後、悩んだ末にさやかは親友に助言を乞うことにした。自分の理想への第一歩として、まずは身近な人物の長所を模倣することから開始したのである。

 

「そうですわね……。でも今は中学二年の秋。私たちも、もうあと数カ月もすれば受験生ですわ。今から何かを始めても、その……」

 

「うっ……そりゃそーか……。あーもー! 短い期間で手っ取り早く何かできない~?!」

 

「でっでも、さやかさんは今のままでもいいと思いますよ? 明るくって、親切で」

 

 フォローにまわるほむらだが、しかし彼女の言葉はさやかの悩みを癒すことはない。逆にさやかは、ほむらに対して苛立った表情を向けた。

 

「あんたにとっちゃそうかもしれないけれど、あたしは今の自分から変わりたいのよっ! あんただって、同じ悩みを抱えてるでしょう?」

 

 以前こぼした弱音を引用されてしまっては、押し黙るしかない。ほむらはしょんぼりとうなだれてしまった。

 

「別に、何か特別なことをする必要はありませんわよ。生活習慣を一部改めてみるとかでも、心の在り方が変わっていくものですわ」

 

 とても中学生とは思えぬ貫禄たっぷりなセリフを吐く仁美。だが、彼女のアドバイスはさやかの心にもしっかり届いた。

 

「なるほど……」

 

「『心が変われば、態度が変わる。態度が変われば、行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば、運命が変わる。運命が変われば、人生が変わる。』………思考を変えれば人生は変わる、という意味ですわ」

 

「思考を、変えれば……」

 

 ――――――復唱しながら、己の胸に仁美の言葉を刻みつける。

 

 胸の前で拳を固く握り締め、さやかは深呼吸をした。

 

「…………よしっ。すぐってわけにはいかないけど、きっと“変身”してみせる。ありがとね、仁美」

 

「ええ、お役にたてたのでしたら何よりですわ。……頑張ってくださいね」

 

 さやかに向ける仁美の微笑みは、どこまでも清く澄んでいる。それに応えるさやかの浮かべる表情もまた、晴れ晴れとしていた。

 

 だが、彼女たちのやりとりが深く心に突き刺さり、一人複雑な心境を抱く少女が一人。

 

「思考を変える……それだけで……」

 

 思わず呟いたのは、“魔法少女”暁美ほむらであった。

 

 ――――――魔法少女になったことで変わったのか。

 

 ――――――変わることで魔法少女になったのか。

 

 その答えを見つけない限り、自分は本当の“正義の味方”になれないだろう。

 

 眼鏡の奥の瞳が、迷いを孕んで黒く光った。

 

 

 ※※※※

 

 

「塩を送った……と言うべきかしら。さやかさん、貴女は私の恋敵ですけれど………。それでも私たちは友達です。少なくとも私は――――」

 

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