魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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戦士の勘、女のカン

 巴マミと暁美ほむらによる囮作戦……失敗。

 

 暁美ほむら単独の囮作戦……失敗。

 

「次はどんな作戦で行こうかしら。ここまでで唯一の成果といえば、中沢くんの潔白ぐらいだし……」

 

 続く作戦の失敗で、マミはすっかり頭を抱えてしまっていた。電話の向こう側で、織莉子もまたため息をついている。

 

「敵がこちらの思惑に感づいているとしたら、恐らく私たちの協力を分断する方法をとるでしょうね。キリカはともかく、私はまだ尻尾を出していないはずだから、最悪でも今のところ私はまだ魔法少女として認識されていないハズ」

 

「まぁ、貴女は私たちのリーダーですものね。そう簡単にチェックメイトをかけさせるもんですか」

 

「しかし、これでいよいよ襲撃の法則が分からなくなってしまったわ。マミさんと暁美さんが二人組でいるところを襲わないのは分かるとしても、どうして暁美さん単独の時は襲わなかったのか……」

 

「あぁ美国さん、そのことについて、暁美さんから抗議のメッセージを預かっているわよ」

 

「何かしら」

 

「『お休みだなんて言って、本当は後ろからついて来ていたなんてひどいです』……だそうよ」

 

「彼女の演技力がイマイチなのだから、仕方がないじゃないの。囮であることを自覚していると、彼女の挙動はどうしても不自然なのよ」

 

「ふふっ……そのことに関しては、暁美さんには伏せておきますね」

 

 電話越しに演技力評価を下す織莉子に、くすくすと笑いながら対応する。だが、彼女の胸中には百を超える思考が光速で飛び交っていた。

 

 暁美ほむら一人なら、確実に仕留められるはず。敵にとって絶好のチャンスであったのは間違いない。しかし、ならば何故彼女は襲われなかったのか?

 

 魔法少女の自宅に直接襲撃に来ないのと同じように、なんらかの理由があって襲撃をためらったのか?

 

 それとも、こちらの動向を見失っているのか?

 

 そもそも魔法少女“だけ”を襲うというのが、まず合理的ではない。ターゲットの魔法少女に近しい人物を襲撃するなり拉致するなりして、精神的な揺さぶりを全くと言っていいほどかけて来ないのは、戦術的視点からすれば愚策としか言い様がない。

 

 状況から推察するに、敵は今なんらかの理由でこちらを襲撃できない、あるいはしていない。そして彼らはこちらに対する敵対行為こそ行ってはいるが、決して魔法少女以外の一般人を巻き込まない。

 

「………美国さん、ちょっといいかしら?」

 

「ええ」

 

「私なりに考えてみたのだけれど、いくら私と暁美さんが魔法少女として頻繁に活動しているとはいえ、それを全くの部外者が突き止めるのは難しいと思うの。実際、敵は貴女と呉さんという魔法少女の存在に気づいていないわ。だから彼らもきっと………」

 

「きっと?」

 

 マミの不自然な言葉の切り方に首を傾げる織莉子。一拍を置いて、マミは自分の推測の続きを語りだした。

 

「悩んでいる……ように思ったの。ごめんなさい、敵に同情するようなことを言って。……でも、もしかしたら私たちが敵と呼んでいる存在は、もしかしたら私たちとほとんど変わらない存在なんじゃないかと思うの」

 

 ――――――敵はこちらの仕掛けた罠を察知し、しかしそれにどう対応するかを考えあぐねて動けずにいるのではないか?

 

 言葉を選びながらマミが語ったそんな仮説は、織莉子に新たな発想を与えた。

 

「なるほど……。敵は人間社会に潜伏しつつ魔法少女の存在を突き止め、魔法少女のみに狙いを絞って攻撃。しかし私たちに自分たちの存在を突き止められたことを察知するやいなや、その活動を休止した………というわけね。確かに筋が通っているわ」

 

 論理的思考力では織莉子に及ばないものの、マミの直感は論理を飛び越えて真実に辿り着くだけの鋭さを持つ。長い戦いの日々で鍛えられた彼女の“心眼”とも言うべき発想力に、織莉子は驚嘆とともに戦慄を覚えた。

 

「私も貴女に同意見よ、巴さん。……しかしだとすれば、私たちはなおさら敵の正体を突き止めなければならないわ。彼らが私たちと近しい存在であるならば、コミュニケーションをとることができるかもしれませんし、ね」

 

 

 ※※※※

 

 

「………ぃよしっ」

 

 パンパンと頬を叩いて気合を入れる。見据えるその先には、市民病院が天を突く勢いでそびえ立っている。ここに最後に来た時のことが思い出されて気が滅入るが、それでも今日こそは彼に会うと決めたのだ。

 

「待ってろよ……恭介!」

 

 

 

 ――――――病院。

 

 人間にとって、負のエネルギーが溜まりやすい場所。

 

 この世界に巣食う負の化身、すなわち《魔獣》にとって、これほどの好立地はそうそう無い。

 

 結界の向こう側で、ノイズの影法師たちが獲物を見つけて蠢いた。

 

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