彼女たちが病院に駆けつけるまでの間、次々と《魔獣》に魅入られ、無辜の人々が次から次へと命を落としていく。
だが、偶然にも病院に搬送されていた葛葉紘汰と、彼と同じ“強さ”を持つ少女――美樹さやかの出会いが、ここに戦神の紡ぎし神話の再現を成した。
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少女の刃は絶望を切り裂いて
紘汰からベルトを受け取った瞬間に脳内に流れ込んできた情報に導かれるように、錠前とベルトを操作していく。眼前の敵――――恐らく、入ってきた記憶の中にある《インベス》とは別個体だが――――を打ち倒すには、彼に与えられたこの力を使うしかない。選択の余地すらないこの不条理に、しかしさやかは不思議と高揚していた。
想い人である上條恭介を守る―――ある時を境に無くなってしまった、しかし幼い頃はよくあったシチュエーション。近所のワルガキから、さやかはいつも恭介を守っていたのだ。
『LOCK・ON!』
あの頃と同じシチュエーション――――郷愁の念に駆られ、彼の方を振り返りたくなる。だがさやかはそんな想いを押し殺し、より一層の気迫を込めて敵をにらめつけた。
『ソイヤッ!』
《カッティングプレート》を倒し、錠前――『オレンジロックシード』を両断する。瞬間、エネルギーが迸り、さやかの上空に『クラック』を通じて橙色の金属塊が出現した。
『ORANGE・ARMS! 花道、ON STAGE!!』
金属塊が展開し、さやかを包む頑強な鎧へと変形を遂げる。青色のライドウェアに包まれた肢体は、さやか自身の体格を示すかのように少々小柄に編まれている。
「ここからは、あたしのステージだァアッ!!!」
咆哮と共に、腰の刀を引き抜く。
変身が完了した段階で手に握られていた橙色の刀と合わせて、さやかは二刀流の構えをとった。
「さやかが……変身、した……?!」
驚きを露わにする恭介だが、今は驚いてばかりもいられない。さやかの邪魔にならないように、恭介は足を引きずりながらその場からジリジリと後退して柱の影に隠れた。
「おおおおおおおおッ!!!」
二刀を構えて、敵の群体に突撃する。その走力は、通常時のそれを遥かに凌駕していた。
一撃、二擊と、オレンジ色の竜巻の如き勢いで怪物を次々と斬りつけていく。ベルト―――《戦極ドライバー》から流れ込んでくる戦いの記憶が、さやかの未熟な剣腕を、高みへと押し上げているのだ。
さやかが敵陣に飛び込んで、体感時間で十秒ほど経過しただろうか。恭介が恐る恐るそちらを覗いてみると、最後の怪物があっけなく切り伏せられ、空中に霧散するシーンが展開されていた。
「…………強いッ………!」
鎧武者となったさやかを見て、まず出てきた言葉がそれであった。
体のラインは華奢な少女のそれではあるが、ふた振りの刃を手にして敵陣に飛び込み、単騎での敵群体の殲滅を成し遂げた今の彼女を形容する言葉は、“強い”以外にないだろう。
二百年以上昔、この国の戦場からとうに消えた“武者”という戦場の英雄が、さやかの面影にちらつくのを恭介は感じた。
「他のフロアにまだ人が残ってるかもしれない……。恭介、一緒に来てくれる?!」
だが、どんな姿に変わろうともさやかはさやかだ。橙色の鎧武者の差し出した手を取り、恭介はふらつく体にムチを打って駆け出した。
※※※※
時は遡り、さやかが未だ恭介たちと合流する前。呉島光実はベルトの力で鎧武者へと変身し、《魔獣結界》と化した病院内を駆け抜けていた。
『BUDOU・SQUASH!』
東龍の顔を思わせる紫色のエネルギーの奔流が、廊下の《魔獣》を一気に吹き飛ばす。《森の魔獣》と違って、彼らは後片付けの心配がない……光実はそんなことを考えながら、このベルトから得た力を試すようにして進軍を続けていた。
「システムボイスがちょっと間抜けだけど……このチカラは間違いなく魔法少女に匹敵、いや、それ以上のパワーを秘めている……!」
先日のマミやキリカの戦闘を思い出しながら、自らのスペックを比較する。あらゆる方面からシュミレートしても、この形態になった光実の力は彼女たち魔法少女に肉迫する恐るべきものになっていた。眼下に広がる無辜の人々の死に様は確かに心痛むものがあるが、それでも今の光実は自分のこの新たな力の方に関心を寄せていた。
「あなた、誰なの……?」
突然かけられた声に光実が驚いて振り向くと、声の主もまた警戒した様子で銃を構えた。果たして、巴マミである。
「マ、マミさんですか……。僕です。光実ですよ」
なるべく冷静に、向けられた銃を下げることを促す。
「その声……。どうやら本当にそうらしいわね」
言い切ると、マミは銃口を下げて歩み寄ってきた。なんよなく、彼女の頬には涙の跡があるように見える。
「マミさん、泣いていたんですか」
「ええ……。私がもっとしっかりしていれば、こんなにたくさんの人が死なずに済んだのに……。私が、もっと……」
震える声で言葉を繰り返し、懺悔するかのようにまぶたを伏せる。今日まで見滝原市民のために戦ってきたマミにとって、この戦いは既に敗北も同義なのだ。
「マミさん、しっかりしてください。まだ誰も助からないと決まったわけじゃない。きっとまだこの病院のどこかに、生存者はいますよ。……そういえば、ほむらちゃんはどうしたんです?」
「まだ来ていないわ。私も今やっと着いた頃だし……。あなたのその姿は、どういうわけかしら?」
泣きはらしたのであろうマミの潤んだ瞳を向けられて、光実は少々の照れと共にベルトの力について解説した。
「………なるほど。《禁断の森》にも、もしかしたら《森の魔獣》に抵抗する人類がいるのかもしれないわね」
「その考察はごく自然な流れですね。僕も同じことを考えました。…………とはいえ、今は《魔獣》退治が先決です。僕の話はこの辺にして、生き残った人々を救出しなきゃいけません」
「あ、待って光実くん。それならこの結界を閉じるほうが早いわ。結界の核である《魔獣》を倒せば、この《魔獣結界》も閉じる。その方が効率よく救命活動も行えるわ」
「核? 《魔獣》に個体差は無いんですよね? 見分けがつくんですか?」
「問題ないわ。《ソウルジェム》で探知が可能よ。……《魔獣》退治は《魔法少女》の専売特許ですもの」
自嘲気味にうつむきながら、マミがせめてもの軽口を叩く。人の死に対して、マミはどうしても無感動ではいられなかった。
「………分かりました。探知はお任せします」
対照的に、あくまでも合理的に動く光実。持ち歩いているアタッシュケースから赤い錠前を取り出すと、スイッチを押して中空に放り投げた。瞬間、錠前は変形しながらその質量を増大させ、一台のオフロードバイクへと変貌を遂げる。
「足はこのバイクを使いましょう。さあ、マミさん」
相乗りを促す光実の手を取りながら、マミは涙を拭って少しだけ微笑んだ。
「………バイクにまたがる鎧武者。………私たちを《魔法少女》と呼ぶなら、あなたは《アーマードライダー》といったところかしら」