真っ赤なバイクに相乗りし、病棟を走り抜けるマミと光実。マミの誘導に従いながら最短ルートを突っ走るが、しかし二人は未だにこの結界の核とされる《魔獣》の居所をつかめずにいた。
「こいつがオフロードで助かりましたね。おかげで階段も難なく登れる」
「比較的生身に近い私には、これでも振動が結構辛いんだけどね……。そこを曲がって頂戴」
言われるままにバイクを運転する。だがカーブを切って渡り廊下に出た瞬間、光実は急にブレーキをかけた。
「……くそッ!」
《アーマードライダー》に変身している今の光実の背中越しに前を見ることはできない。マミは事態が掴めず、頭の上にハテナを浮かべた。
「どうしたの光実くん?!」
だがマミはすぐに、光実を驚愕させた異常を窓の向こうに発見した。
「あれは……!!」
ここから直線距離でおよそ100mだろうか。全面がガラス張りの休憩室らしき部屋で、生き残った人々が大量の《魔獣》に取り囲まれているのが窓から見えた。
「光実くんっ、今はあちらの救援を優先しましょう! このまま見殺しにになんてできないわ!!」
「ここからじゃ間に合いませんよ! くそっ……畜生……!」
理性と感情がせめぎ合い、光実とマミが苦悶の表情を浮かべる。だが次の瞬間、事態は大きく動き出した。
「なっ………!!」
突然現れた空間の裂け目が、《魔獣》によって取り囲まれていた人々を飲み込みだしたのだ。当然、今まで《森の魔獣》対策に奔走してきたマミと光実の目の色が変わる。
「あの場所になんで《禁断の森》への結界が………? なるほど、そういうことだったのね!」
「ええ……。どうやら敵は、なんらかの方法で《魔獣》すらも操っているようですね。そして僕らの不意をついて病院を襲わせ、生き残った人々を《森》に取り込んでいる。魔法少女だけがターゲットだなんてとんでもない。全てはこの日のためだったんだ……!」
――――実際には、葛葉紘汰が病院の外へ続く《クラック》を開けただけである。しかし正体不明の敵を相手に暗中模索の戦いを強いられてきた光実たちにとって、この光景は決定的に見えてしまったのも、また仕方の無いことであろう。
『ソウルジェムを介して、そちらの状況は把握したわ。これまでとは明らかに行動パターンが異なるけれど、事実として空間の裂け目が観測されている以上、私たちのとる行動は明白だわ。………巴さんは結界の核を引き続き追って頂戴。そして光実くん』
テレパシー越しに、織莉子の言葉が淡々と連ねられていく。口調そのものは静かであるものの、彼女の高揚とも怒りとも言えぬテンションの高まりは容易に察せられた。
『あなたは今すぐ現場に急行して、あの裂け目を作り出した敵を突き止めてください。恐らく、これで私たちが今日まで突き止められずにいた敵の正体が明らかになるわ』
テレパシーが終わると同時に、マミはバイクから飛び降りて渡り廊下を走り抜けていった。信頼と覚悟に満ちた瞳で、光実を一瞥しながら。
「これで決着だ……! 絶対に仕留めてやる!」
唸る爆音を響かせて、続いて光実のバイクが疾走を再開した。窓から見えたあの場所は、病院の見取り図を暗記している今の光実ならすぐにでも行くことができる。敵の正体に肉迫できる絶好の機会に、光実の心はむしろ嬉々としていた。
※※※※
「キリカ、どうやら私たちの隠遁生活もこれで終わるかもしれないわよ」
「ああ。………ミッチには是非とも、頑張っていただきたい限りだよ」
少しだけ嬉しそうに、しかし油断のない声で声をかけてくる織莉子に、キリカは仏頂面で返す。
「どうしたのキリカ、なんだか顔色が優れないようだけれど……?」
「いや、ただ単に、ミッチがあんな隠し球を持っていたことが驚きだったってだけだよ」
「仲間に隠し事をされてご立腹ってわけね。……キリカがそんな仲間意識を彼に向けているとは気づかなかったわ。ふふっ、喜ぶべきかしら、悲しむべきかしら……」
「んなっ! 違う、違うよ織莉子、私はいつだってキミ一筋だよ?! ミッチのことだって、“あの力で寝首をかかれたら危なかったな”と思っただけさ! 愛は無限に有限なんだ! ミッチに向ける愛なんて、私にはこれっぽっちもありはしないよ!」
「ええ。………ありがとう、キリカ。あなただけは、私の永遠の友達よ」
慌てて釈明するキリカに、織莉子は優雅に微笑んで見せた。
※※※※
「この音、バイクの……?」
アーマードライダーに変身することで鋭くなった聴覚が、さやかに何者かの接近を告げた。紘汰に託されたベルトの力で《魔獣》たちを蹴散らした直後ではあるが、まだまださやかには余力が残っている。生き残った人々を救助するのが先決ではあるが、ここで彼らを脅かす脅威を除けるというのであれば、まさに願ったり叶ったりである。
「さやか、どうするつもりだい……?」
「恭介は私の見えるところに下がってて。……多分、これから来る奴はあたしたちの敵だよ……!」
音の聞こえる方角に、刀を構えて待ち構える。《無双セイバー》と《大橙丸》―――流れ込んでくる記憶が、さやかにこのふた振りの相棒の名を囁く。この流れ込んでくる記憶は、いったい誰のものなのか……。それはきっと、あの紘汰という青年なのだろう。
目を閉じて、《戦極ドライバー》を介して伝わってくる彼の記憶を見つめる。
乾いた風の吹きすさぶ瓦礫の街で、橙色の鎧武者となった紘汰が《インベス》の群れを相手に死闘を繰り広げる。未だノイズがかかって閲覧できない記憶も多いが、今最も鮮明に見える彼の記憶が、それだった。
彼の過去やこの力の正体など、未だ不明瞭な事項は多いが、それでもこの風景はきっと再現してはいけない恐怖の光景であることは理解できる。
この力がこの手に転がり込んできたのは、きっと偶然ではない。この心象風景のような未来が、この世界に迫っているのだろうか。
良くない想像が不安を駆り立て、思わずさやかはライドウェアに包まれた体に汗を滲ませた。
そして、唸る爆音がさやかの意識を現実に引き戻す。
「見つけたぞ……!」
少年の声で、バイクに跨った紫色の敵が語りかけてくる。
「なるほど、このベルトはお前たちの文明が作り出したテクノロジーだったってわけだな……。だが、こうして僕に利用されている。裏目に出たな」
こちらと酷似した紫色の鎧武者が、何やらよく分からないことを言いながら銃口を向けてくる。《無双セイバー》を使えば撃ち合いも可能だろうが、恐らくそれではあの敵には適わない。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃないわよ! 向かってくるってんなら、すぐにでもやっつけてやる!」
さやかの叫びを以て、ついに《アーマードライダー》同士の戦いの火蓋が切って落とされた。