帰り道、さやかと仁美に別れを告げてから、暁美ほむらは自宅へと歩を進めていた。引っ越してきたばかりでまだ慣れない見滝原は、病室暮らしを強いられていた彼女の目にはとても新鮮で、ただ外を歩いているというだけでもほむらは十分に満たされていた。
人並みに孤独を恐れはするが、こういった一人の時間も嫌いではない。友達付きあいにまだ不慣れなほむらにとって、一人になってほっと息をつく時間はとても大切なのだ。
「暁美さん、聞こえる?」
だが、幸福に満たされた時間は虚しく終わりを告げた。
「はい、巴先輩。《魔獣》ですか?」
「いえ――――《森の魔獣》よ」
ソウルジェムを用いたテレパシーが、ほむらに女子中学生としてではなく、魔法少女としての使命を果たすよう急かす。
《魔法少女》――――どんな願いも叶えてもらう代わりに、その対価として、この世界に災いを巻き起こす《魔獣》を狩る使命を受けた少女たち。
常人ならざる異能、すなわち魔法を駆使し、常識の外から人々を襲う《魔獣》を退治する。言うなれば正義の味方であるが、彼女たちの戦いに報酬は存在しないし、コトの性質上、部外者に頼ることもできない。いつ終わるとも知れぬ孤独な戦いに、彼女たちは日々明け暮れているのだ。
「場所は市民ホール裏手の自然公園よ、すぐに来られる?」
「そこなら、ここから走って十分ほどです! すぐ行きます!」
必要事項を確認すると、ほむらはテレパシー打ち切って来た道を全速力で駆け戻っていった。
※※※※
魔法少女、巴マミは歴戦の強者だ。
平均的な寿命の短い魔法少女の中でも、だいぶ長く生き残っている部類であると言える。一年以上魔法少女として生き延びられたら一人前、というのが、彼女らの世界での共通の理解であった。
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だが、そんなベテラン魔法少女である巴マミをして、眼前のそれはまったくの未知の存在であった。
「今日は一匹なのね……。これで何度目かの相敵だけれど、いったい何者なの………?」
召喚したマスケット銃を突きつけ、堂々たる構えをとりつつも、しかしマミの表情と言葉には明確な不安と疑問が浮き彫りにされていた。
《森の魔獣》―――森のような結界から現れ、従来の《魔獣》を超える戦闘力で暴れる新種の《魔獣》。結界に取り込んで標的を襲う今までの《魔獣》とは異なり、彼らは自ら結界からこちら側に出てくるのが、魔法少女たちを悩ませる最大の特徴であると言えた。
また、通常の《魔獣》がノイズで出来た不定形な影法師であるのに対し、彼ら《森の魔獣》は対照的に生物的なフォルムをとっており、爪や牙を用いた直接的な攻撃を仕掛けてくるという性質を持っている。
これまでの《魔獣》よりも分かりやすいとはいえ、その分かなり凶暴で、猛獣の如き挙動で襲いかかってくる彼らは、巴マミの総評としては《魔獣》のそれよりも遥かに手強いと言わざるを得なかった。
「――――ふッ―――!」
気合と共に、引き金を引く。
炸裂音と共に吐き出された弾丸が、《森の魔獣》めがけて殺到する。だがすんでのところで躱した《森の魔獣》は掠った弾丸に岩のような表皮を抉り飛ばさえながら、なおもマミに突撃を敢行した。
「………速いッ」
舌打ちをしつつも冷静な挙動でリボンを展開し、《森の魔獣》の拘束を試みる。それ自体が意思を持っているかのように、マミの放ったリボンは《森の魔獣》の手足を器用に縛り上げ、《森の魔獣》の動きを一瞬鈍らせることに成功した。
リボンの拘束程度なら腕力だけで引きちぎられてしまうことは、先日遭遇した際に検証済みである。マミはすかさず大砲を二門召喚し、《森の魔獣》がリボンを引きちぎる頃にはその照準を完了していた。
悔しがるかのように《森の魔獣》が唸り声をあげる。マミは勝利を確信して大砲を発射した。
マミの戦闘は完璧であると言えた。
唯一、惜しむべき点があるとするならば。
それは、背後から忍び寄るもう一体の《森の魔獣》の気配を
「しまっ………!」
察知できなかったことであろう。