光実の構える銃口に、重々しい駆動音と共にエネルギーが充填されていく。
「恭介っ……!」
死を覚悟したさやかが、恐怖と無念に目をつぶった。
「さやっ……!!!」
言われたとおりに物陰から様子を伺っていたが、もう黙ってはいられない。幼馴染のピンチに、恭介は戦場に飛び込むべく立ち上がった。
だが、脚が動かない。ここまで無理をして動き回っていたツケがまわってきたのだ。
「ぐぅっ……肝心な時に、僕は何の役にも………!!」
萎え切った膝を殴りつけながら、無力感に全身を震わせる。だが刻一刻とさやかに危機が近づいているのは間違いない。何か具体的な行動を起こさなければ、あの紫色の鎧武者にさやかは殺されてしまうだろう。
彼の先程まで口ぶりは、まるでさやかを生け捕りにするつもりがあったように見受けられたが、どうやら今はそういうわけでもないらしい。平和の中で育ってきた恭介にも伝わるほどの殺意が、あの紫の鎧武者にはみなぎっていた。
「やめろ……! やめてくれ……!!」
「死ね……!!」
殺人衝動に突き動かされる光実が、狂気を孕んだ声でさやかに呪詛を吐く。
己の無力に、恭介は思わず涙を零した。
「男が泣くもんじゃないぜ。……俺様に任せときな」
背後から現れた男が、恭介の肩にぽんと手を置いて囁いた。
「えっ……?」
「さぁ行け《インベス》たちっ! あの嬢ちゃんを助けるんだ!!」
威勢のいい合図と共に、さやかと光実を包囲するように次々と《クラック》が開いていく。突然の出来事に光実が顔を上げると同時に、《クラック》から《インベス》が群れで押し寄せてきた。
「なっ……なんだ………っ?! ぐぅあッ!!」
四方八方から襲いかかってくる《森の魔獣》―――《インベス》に押さえ込まれ、身動きが取れない光実。仮面越しに周囲を見わたすと、柱の裏からこちらに歩み寄ってくる長身の男が目に止まった。
豊かな金髪をリーゼントでまとめ上げ、瞳は海を写したように蒼い。全体的に派手ないでたちでの彼であるが、しかし光実が注目したのは彼の見てくれではなく、彼の手に握られた色とりどりの錠前であった。
「その錠前……!」
「おう、《ロックシード》か? お前みたいに《戦極ドライバー》を噛ませりゃ確かに変身アイテムになるが、コイツそのものは《インベス》の召喚機なのさ」
人を馬鹿にして……!!
屈辱が光実のプライドを激しく傷つける。
だが、得意顔で見下してくる男に、光実は激昂しつつも疑問を叩きつけた。
「お前だったんだな、ほむらちゃんやマミさんを《森の魔獣》に襲わせていたのは……ッ!! お前は何者なんだ!!!」
「そりゃこっちのセリフだぜボーヤ。なんで旧人類のドライバーをこっちの世界の人間が持ってるんだよ? ……まぁいい。聞かれたからには名乗らねえとな」
取り出した櫛でリーゼントを整えつつ、光実に視線を向ける。焼けた肌と彫りの深い顔立ちはどう見ても日本人のそれではないというのに、日本語はやけにはっきりしているのが奇妙だった。
「俺の名はピニオン! 人呼んで、“霧の海のピニオン”だ!」
※※※※
ピニオンが堂々と自己紹介をする最中、柱の影で恭介は事態の急展開に目を白黒させていた。
「霧の海の、ピニオン……?」
「ったく、顔が割れちまったじゃないか。ピニオンのヤツ……」
「うぉわっ?! まだ一人いたぁッ?!」
素っ頓狂な声をあげながら、恭介が背後に現れた女性を振り向く。予想以上に大きなリアクションに、女性は慌てて恭介の口を手で押さえた。
「ば、ばかっ! 声が大きいよっ! 別にとって食いやしないんだから」
少しだけ慌てた声で諭され、なんとか声を抑える恭介。突然現れたこの女性への驚きは未だ消えないが、取り敢えず疑問をひとつ解消することにした。
「あなたは……?」
「私はベローズ。一応、あっちのバカの相棒ってことになってる。詳しいことは後で話すから、取り敢えずここから出るよ」
「は、はい……」
促されるままに、ベローズに手を引かれる。少し休んだおかげか、脚は生まれたての子牛のようではあるが、少しは動いた。
「結界の外に《クラック》を開くよ。その脚じゃ辛いだろうけど、少しだけ頑張りな」
言い切ると、ベローズは懐から《ロックシード》を取り出した。『L.V-01』と印刷されたそれは瞬く間に白いバイクに変形し、ベローズと恭介の目前に現れた。
「すごい……」
「ピニオン! そっちは上手くやってよ!」
「ったりめーよぉ! 嬢ちゃんを回収したらすぐ離脱するってぇの!」
いくつか言葉を躱すと、ベローズは恭介を後ろに乗せてバイク――――《サクラハリケーン》を発進させた。
「ま、待て!! お前たちは何者なんだ!! どうして魔法少女を襲う!!」
《インベス》に取り押さえられた光実が、再度の問いかけを行う。ピニオンはうんざりといった顔で光実を見下ろした。
「あのバケモンを《魔法少女》だと……? センスがイカレてんのか、お前? それともあいつらに騙されてるのか……。まぁどっちでもいいけどよ。俺たちは《魔法少女》をぶっ倒すだけだぜ」
不可解な一言だけを残し、ピニオンは橙色の鎧武者を担ぎ上げた。
「うぉっ……やっぱ変身したままじゃ重いな」
ぼやきながら淡々と《サクラハリケーン》を展開すると、ピニオンは鎧武者を背中に担いだまま病院の廊下を走り去ってしまった。
「クソッ……待て、待てよ畜生ッ!! ピニオォオォオンッ!!!」
鮮血に彩られた病棟に、光実の咆哮が虚しく木霊した。