魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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 時は遡り、十月二九日 午前零時。


異世界よりの使者

 目が覚めると、乳白色の天井が見えた。どうやらベッドに寝かされていたらしい。重い頭を無理矢理に持ち上げて周囲を観察すると、さやかはここがホテルの一室であることを理解した。

 

「ぇ……?」

 

 視覚情報とそこから導き出される自身の現状が、唐突すぎて把握できない。未だまどろみの中にいるさやかにとって、それは仕方のないことではあるのだが。

 

「目が覚めたかい? あ、ご家族の方には『友達の家に泊まる』って言っといたから安心してね」

 

 落ち着いた色調の中に、鮮やかな赤が現れる。思わず瞬きを繰り返して、さやかはそれがベローズであることを理解した。

 

「えっ、ベ、ベローズさんっ?!」

 

 海色の瞳、長い赤髪。間違いない。

 さやかにはすぐに彼女がベローズであると分かった。

 

「よう、俺のことも覚えてるか? サヤカ」

 

 顎に手を当ててにししと歯を見せる長身の男。特徴的なリーゼントは一度見たら忘れられないが、しかしさやかはどうしても彼が誰だか分からなかった。

 

「えっと……誰でしたっけ」

 

「おいおいそりゃねえだろ? 敵の《アーマードライダー》にコテンパンにやられてたのを助けてやったのを忘れたのか?」

 

「――――!!」

 

 男の言葉で、混濁していたさやかの意識がはっきりと覚醒する。

 

 鮮血に濡れる病棟。

 

 葛葉紘汰との邂逅。

 

 そして手に入れた、新たな力――――

 

「――――鎧武(ガイム)

 

 夢の中で何度も出てきたその言葉。おそらくきっと、この力はそう呼ばれていたモノなのだろう。

 

「やっぱ俺の思った通りだな。サヤカ、お前さんには気の毒だが、こうなっちまったのは運命ってやつだろうさ。………全てを教えてやる」

 

 どこか憐れむような口ぶりで、男―――ピニオンがさやかに“運命”を投げかける。

 

「まず、何から話そうか……」

 

「ちょっとピニオン、サヤカはまだ回復しきってないんだよ?!」

 

「そうかもしれねえが、分からないことだらけで放置するのも可哀想じゃねえか」

 

「………」

 

 言い合う男女をどこか他人事のように見つめながら、さうかはピニオンが言った運命というワードにどこか計り知れないナニかを感じていた。

 

「……あ、恭介! 恭介はどうなったんですか?!」

 

 はっと我に返って、弾けるようにして想い人の名を叫ぶ。さやかにとっては、そちらの方が優先事項なのだ。

 

「安心しな。キョウスケは無事だよ。さっき病院の前に置いてきた。あの《結界》の特性上、何が起きたのかもキレイさっぱり忘れてるだろうさ」

 

 何やら聞き慣れぬ単語を含んだ状況説明であるが、それでも上條恭介は無事らしい。さやかはほっと胸をなでおろした。

 

「よかった……」

 

「でも、あんたは喜んでばかりもいられないんだよ。あんたは“神”に選ばれてしまったんだからね」

 

「…………神?」

 

 さらに飛び出した聞き慣れぬ単語に、さやかは訝しげに首をかしげる。ベローズを疑う訳では無いが、しかし彼女の話はあまりにも突飛だった。

 

「いったいどういう意味なんですか? 結界とか、神とか」

 

 齢十四のさやかにとって、中二病は身近なモノだ。クラスの男子にも、そういう言動をとる者は少なからず存在する。だがしかし、彼らの言う妄想と、ベローズが口にする言葉とは、どうしようもなく“重み”が違った。

 

 戯言の類と断じて切り捨ててしまうには、あまりにも危険な言葉たち。

 

 さやかは直感を信じて、ベローズとピニオンの言葉に耳を傾けた。

 

「そうさな……。サヤカ、今から俺たちが話すことは全て、一言一句本当のことだ。あのノイズのバケモノを見たお前になら、きっと飲み込める話だと信じてるぜ」

 

 重々しく前置きを語るピニオンに、首を縦に降る。しかし悲しいかな、さやかのキャパシティーはこれから語られる真実を許容するにはあまりにも小さく、そして幼いのだ。

 

「まず、俺とベローズはこの世界……いや、この星の人間じゃねえ。ここと限りなく近い、たどってきた歴史すらほとんど類似する、いわば“もう一つの地球”の住人だ」

 

「………はい?」

 

「今はまだ分かんないだろうけど説明を続けるよ。さっき『たどった歴史すら類似する』とは言ったけれど、私たちの地球とこの地球は、ある点で根本的に異なる歴史を歩んでいる。そしてその異なる点による分岐が発生して数百年経った、いわばifの未来……私たちは、そこからやって来た」

 

 ベローズの言葉を要約するならば、彼女らは異世界における未来の地球からやって来た存在、ということだろうか。

 

「……大体わかった。かな?」

 

 無理やり納得して、さやかは話の続きを促した。

 

「私たちの世界では、神様によって作られた新しい人類である私たちは海の上で船団を作り、そこで暮らしていた。私たちの神様である《ロード・バロン》が、そうルールづけたのさ」

 

「陸地には野蛮で獰猛な旧人類の生き残りが、まだまだたくさんいるからな。そして奴らが海に出てこられないように、《ロード・バロン》は地球上の陸地全てを《森》で覆い尽くした。《森》には守護者である《インベス》が闊歩し、旧人類は彼らとの闘争をむこう数百年にわたって続けている。まぁそんなわけで、俺たち海の民たる新人類はのどかに平和に暮らしていたのさ」

 

「でも、数年前にその平和は破られた。……たった一人の、小さな女の子によってね」

 

 憎々しげに語るベローズ。話の半分も飲み込めないが、しかし彼女が本気で悔しそうにしているのはさやかにも伝わってきた。

 

「……当時俺たちは、その娘を漂流者だと思っていた。ずいぶんと衰弱していたから、海でそいつを拾った俺の兄貴が、責任を持って看病にあたった。……だがな。その娘はこともあろうか、俺の兄貴を…………食いやがった」

 

 憎しみを募らせ暗い声で、ピニオンが事実を淡々と吐き捨てる。さやかは雲行きの怪しくなってきた彼らの話に若干の恐怖感を抱き始めた。

 

「俺の兄貴だけじゃねえ。俺たちの船団……《ガルガンティア船団》全体が、そのバケモノ娘のせいで甚大な被害を被った。俺たちにも自衛の手段があったが、奴は自分の結界に獲物を閉じ込めるっつー習性を持っていやがった。結局《ガルガンティア船団》はほとんど壊滅。俺とベローズも、その《結界の化け物》に食われそうになった」

 

「でも私たちは、危機を察知した《ロード・バロン》によって遣わされた一人の《オーバーロード》によって救われた。……紹介するよ」

 

 ベローズが背後に一礼し、うやうやしく膝をつく。

 

 すると、つい先程まで何もなかったその空間に、突然黒衣の男がその姿を表した。

 

 黒のロングコートにサングラスといった出で立ちと、ベローズたちとは対照的に青白い肌は、とても彼女たちと同じ世界の存在とは思えなかった。だが、あのピニオンですら膝をついているあたり、きっとこの人は偉い人なのだろう。さやかも二人にならって、ベッドの上ではあるが頭を下げた。

 

「あぁ、いいよ。楽にしてくれ。………はじめましてサヤカ。僕は、ベローズの話に出てきた無銘の《オーバーロード》だ。名前はなくしてしまったが……みんなは僕を《サーヴァント》と呼んでいる」

 




 本作における《翠星のガルガンティア》出身のキャラクターは、“戒斗さんによって創造された新たな人類”です。そのため、原作である《ガルガンティア》に登場するベローズやピニオンとは一切の相互関係を持たない赤の他人なので、その点につきましてはご了承願います。
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