「えと……オーバーロード、様? それとも、サーヴァント様?」
「“様”はつけなくていいよ。《オーバーロード》という呼び名そのものが敬称だからね。僕のことは気軽に『サーヴァント』と呼んでくれ」
穏やかな態度をとるサーヴァントだが、しかし彼の物腰は非常に物騒だ。ボサボサの黒髪や無精髭、そしてサングラスの奥の瞳。それらすべてが、彼の外見を危険人物のそれである。
「サーヴァント様は、俺たちの神である《ロード・バロン》の右腕なんだ。サヤカ、粗相のないようにな」
小声で耳打ちしてくるピニオンの額に脂汗が浮かんでいる。それだけ各の高い人物なのだろう。
「……さて、話の続きをしよう。僕らは《旧人類》以外の新たな脅威であるその《結界の化け物》の正体を探るべく調査を開始した。その結果、たどり着いたのがこの世界だったというわけなんだ。……ここまでで質問はあるかい?」
正直言えばここまでの話のほとんどを理解出来ていないが、彼らは彼らなりの事情があってこの異世界へとやって来たということなのだろう。
「えと……。ベローズさんたちはベローズさんたちの神様に生み出された新しい人類で、古い人類は陸地に閉じ込められてて、だけど新しい敵が現れて……ってことですか?」
「上出来だ。サヤカは賢いね」
やつれ気味の顔に笑顔を浮かべて、サーヴァントが笑う。黙っている時も十分恐ろしいが、笑顔を浮かべられるともっと恐ろしかった。
「あ、ありがとうございます……」
「そして、ここからが本題だ」
不気味な笑顔はすぐに消え、再びサーヴァントは無表情に戻った。余計な感情などはとうに捨てているのだろう。
底冷えするものを感じながら、さやかはしかし目をそらさないように努めた。
「きみや、きみと戦ったあの鎧武者……あれは《戦極ドライバー》という装置で《アーマードライダー》と呼ばれる存在に変身した姿だ。《戦極ドライバー》というのは僕ら《新人類》側に対抗する《旧人類》が作り出した装備で、きみも体感した通り、恐るべき能力を使用者に付加する機能がある。あれを身につけることで、《旧人類》は僕のような《オーバーロード》に対抗しているんだ」
「え、それって、サーヴァントさんたちの敵が、私たちの世界に《ドライバー》を流出させてるってことですか?」
「いや、今の《旧人類》に平行世界への《クラック》を開くような力も設備もない。
《戦極ドライバー》の流出そのものは、おそらく事故と見て問題はない。きみの前に現れたあの《演義タイプ》のアーマードライダーは、偶然の産物だ」
紫色の鎧武者が瞼の裏に蘇る。サーヴァントの言を信用するなら、《演義タイプ》と呼称される彼は偶然手に入れた《ドライバー》を使っているだけの、こちらの世界の人間ということらしい。
「だがサヤカ。きみの持つ《戦極ドライバー》は、ピニオンの解析の結果、とんでもない代物であることが発覚した。……葛葉紘汰、という名前に聞き覚えは無いかな?」
サングラスの奥の瞳がさやかをじっと見つめる。さやかは居心地の悪さを噛み締めながら、正直に白状した。
「あります。私、病院で紘汰さんに助けられて、その時に《戦極ドライバー》を託されたんですよ」
さやかが言葉を紡ぐと同時に、深刻な空気が彼らを包み込んだ。どうやらこの事実は、彼らにとって相当まずかったらしい。
「これで確定、か……。いいかいサヤカ、《葛葉紘汰》というのは、僕らの世界における、《ロード・バロン》の対になる神の名前なんだ。荒ぶる戦神で、新世界を創造しようとした我が《ロード》の前に立ち塞がった、僕らにとっては恐るべき存在なんだよ」
サーヴァントの言葉に、ベローズとピニオンもうんうんと頷いている。どうやら彼らにとって、葛葉紘汰は畏怖されるべき魔王のような存在のようである。
「そしてきみの持つ《戦極ドライバー》は、その葛葉紘汰の転生体だ。意識は未だ眠り続けているようだが、その《ドライバー》がどんな力を生むか想像もつかない。今後、その《ドライバー》とその資格者であるきみは、我々にとって最大の障害になるかもしれない」
「ぇ……」
やっと分かった、居心地の悪さの正体。
サーヴァントと名乗るこの男は、こちらをいつでも殺せるように身構えつつ、しかし殺気を押し殺しているのだ。
背後のベローズやピニオンも、渋い顔でこちらを見つめている。彼らにとって相当に危険な力を有しているという自覚が、さやかの中に初めて芽生えた。
「だから、僕らとしてはきみには協力して欲しいんだ。僕らはこの世界に干渉しない。ただ、僕らの世界に攻めて来たあの《結界の化け物》のモトを絶つことだけが、僕らの目的なんだ」
真摯に訴えかけてくるサーヴァントに続いて、ベローズやピニオンも頭を下げてくる。病院で出会ったあの半透明の青年にそこまでの力があったというのはにわかに信じ難いが、このサーヴァントという男は自分が断った瞬間、こちらの息の根を止めてくるであろう確信がある。自分の安全のためにも、さやかにはイエスの選択肢しか無かった。
「……………分かりました。協力、します」
「……………ありがとう」
再び浮上してくるサーヴァントの不気味な笑みに、さやかは怖気と恐怖のあまり鳥肌が立った。