背後から飛び出してきた紅い《森の魔獣》が爪をマミの背中に振り下ろしたのと、マミが右斜め前方向に回避行動をとったのは、まさにほぼ同時の出来事であった。
視認できたわけでも、足音を聞いたわけでもない。
ただ、何かを感じたから避けただけ。
それは理屈ではない。
だが、それは絶対的な確信を以てマミに回避を促した。
積み重ねられた戦いの年季が、彼女を窮地から救ったのだ。
「ずッ………はぁッ…………?!」
止まっていた呼吸を再開し、久しぶりの酸素に肺が悲鳴を上げる。
だが、そのような瑣末事に気を取られて勝てる相手ではないことは明白である。マミは震える四肢に喝を入れ、再び立ち上がってみせた。
「今度こそ、一匹よね………?」
さっき砲撃をかまして消し炭にした最初の個体と、今現れた紅い個体。周囲の気配を落ち着いて探ってみるが、しかし他に気配は感じられなかった。
だが、マミが周囲に緊張を巡らせたその僅かな隙を突いて、紅い《森の魔獣》は牙を剥き出しにして襲いかかった。
「何度もくらうものですかッ!」
あと数歩でも近づかれれば八つ裂きにされるという局面においても、マミは冷静だ。自身の上空にマスケット銃を数丁召喚してからの撃ち下ろし攻撃、そしてそれをくらってひるんだ隙を突いた砲撃と、近づいて攻撃するしか脳のない《森の魔獣》を遠距離から巧みに牽制する。
しかし先ほど倒した丸っこい形状の同族よりも頑丈なのか、マミの砲撃をその紅い《森の魔獣》は耐え切ってみせた。魔獣の紅い体色が、心持ち高揚しているかのように見受けられる。
「手強い………!」
たてがみを振るい、《森の魔獣》が咆哮をあげる。このまま大きな音を立て続ければ、市民に目撃されてしまう恐れがある。
「今すぐ決着をつけさせてもらうわよ………!」
マミは意を決し、
パワーと初速に優れる分、移動や跳躍が鈍重な《森の魔獣》に対し、この魔法少女の身軽さは武器になる。
軽快な動きで翻弄し、魔法を用いた重い一撃で硬い表皮を貫くのが、この新たな敵に対する最も効果的な戦法であると、マミは結論づけていた。
―――――この紅い新種が、マミの上空に現れるまでは。
「嘘ッ?!」
魔法少女のそれを遥かに超えた恐るべき跳躍を以て、紅い《森の魔獣》は巴マミの上空に躍り出たのだ。地表からおよそ20メートルはあろうかというその高度から、魔獣は嘲笑うかのように口端を歪ませながら落下攻撃を仕掛けて来る。
空中で格闘戦に持ち込もうとするならば、敵よりも高度をとらなくてはならない―――昔読んだ本の知識が頭をよぎる中、しかし空中で動く術を持たないマミはどうすることもできずにいた。
「やられた…………!」
だが、死を覚悟したマミに、奇跡とも言えるタイミングでチャンスが巡ってきた。
マミに《森の魔獣》の爪が殺到しようとしたその瞬間、紫色の光矢が魔獣の紅い表皮を貫いたのである。
「巴さん!」
「ナイスアシストよ、暁美さん!」
きりもみ回転で地面に墜落した《森の魔獣》に、マミは着地と同時にマスケット銃を召喚しつつ飛びかかった。
「………ッ!」
鬼気迫る表情で、《森の魔獣》の口の中にマスケット銃の銃口をねじ込む。やがてくぐもった銃声が周辺の雑木林に響き渡ると、魔獣はその動きを停止した。
※※※※
「助かったわ……ありがとう、暁美さん」
「いえ、私こそ遅れてごめんなさい」
結界の入口である空間の裂け目に《森の魔獣》の遺体を放り込み、ほむらの矢で裂け目を消し飛ばすと、魔法少女たちはやっと変身を解いてその場にへたりこんだ。
大きく息をつく巴マミの姿に、ほむらは心配そうに目を向ける。
―――――普段の
経験に裏打ちされた確かな射撃と華麗なまでの体捌きが彼女の本来とっていたはずの戦闘スタイルだ。それなのに、今日見た彼女にはそれが一切と言っていいほど見受けられなかった。
憧れの先輩が、いつになく必死になっている。否、追い詰められている。
事態を把握するごとに、ほむらの中の不安は大きくなっていった。
西の空が、やがて夕焼けから夜のそれへと移り変わっていく。
この先待ち受けているであろう更なる《森の魔獣》との戦いに、少女たちは言い知れぬ恐怖を募らせていった。
今回登場した《森の魔獣》、もといインベスは、まるっとしたフォルムの愛らしい下級インベスたんと、レッドホットのリーダーが召喚したライオンインベスです。
鎧武とまどマギのコラボではありますが、戦闘に関しては今回のようにクウガのような泥臭い描写でいこうと思っています。
圧倒的な力で敵をねじ伏せる俺TUEEEE展開はほぼ無いものと思っていただいて構いませんので、どうかご容赦ください。