魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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忘れえぬ、記憶

 江蓮たちとの同居生活が始まって数日が経った。

 

 他人と交わりながら生きるということに対し、いささか以上にこそばゆいものを感じてはいるものの、しかし杏子の胸に去来したのは小さな幸福感であった。

 

 ウォレスは相変わらずの能天気ぶりで皆を笑わせ、ゆまは新しくできたこの年上の弟の教育で一生懸命。江蓮は江蓮で何かとこちらの気を使ってくれる。

 

 そんな風に日常が緩やかに変わっていくのをこそばゆく感じていたそんな折、杏子のもとにある一通のメッセージが届いた。

 

「こいつは、まさかマミからか……?」

 

 夕餉であるカップ麺をすする一同のもとへ、どこからともなくひらりと現れたその手紙は、かつての師である隣町の魔法少女の象徴とも言うべき、黄色いリボンに包まれていた。

 

「え? なになに? お友達からのお手紙?」

 

「ウォレス、しゃべるのはごっくんしてから!」

 

「はぁい」

 

 いつもの姉弟コントを尻目に、リボンにくるまれた手紙の文面を読み上げる。価値観の相違から道を違え、半ば絶縁状態と言って過言ではない相手からのメッセージ。これが2回目であるとはいえ、杏子は少々臭いモノを感じていた。

 

「……杏子、例の見滝原の先輩?」

 

「…………ああ。明後日の正午、風見野駅で待つってよ」

 

「『見滝原に来てはいけない』というメッセージを以前にも送ってきた、あの先輩?」

 

「まあな。でもねぇ……。あっちで何が起こってるのかなんてアタシは知ったことじゃないし。仮に何かが起こっていたとしても、それをなんとかしてやるような義理もないわけよ」

 

「そのことだけれど。昨日、見滝原市民病院で原因不明の集団蒸発事件が発生したそうよ。蒸発した人数はおよそ三十人ほど……普通の数字ではないわ。《魔獣》被害に遭ったとみて間違いないんじゃない?」

 

「へえ……耳が早いんだな。そりゃ、話を聞く限りじゃ《魔獣》の仕業に間違いは無さそうだけどよ。でも見滝原にゃマミがいるんだぜ。それに最近じゃあ、美国とかいう食わせ物もいるらしいし。ただでさえあそこは魔法少女が集中する土地なんだ。これだけの被害を、あいつらがどうして未然に防げなかったのか……あ」

 

「この状況が、見滝原で起きている異常事態が作り出した側面の一つだとしたら。巴マミをはじめとする、見滝原市の魔法少女たちが、本来の使命である《魔獣》狩りをおろそかにせざるを得ない何かしらが起きているとしたら」

 

 麺を啜りながら、杏子に答えを促すように問いかける江蓮。その眼差しは、杏子一人に向けられていた。

 

「………マミは、アタシを助っ人にしたがっている?」

 

「その可能性は十分ありうるわね」

 

「でもアタシとマミは、もう絶縁した仲で……」

 

「それを即座に復縁したくなるほど、状況は切迫しているということでしょう。あるいは、切迫してくることが予想されたからこそ、というのもあるかもしれないけれど。いずれにせよ、彼女があなたを頼りにしているのは間違いないわ」

 

 重い沈黙が二人の間に流れる。いまや食卓に響いているのは、話についていけないウォレスとゆまが麺を啜る音のみであった。

 

「………それでも、アタシには何の得も無い。別に見滝原がどうなろうが、アタシの知ったこっちゃないな」

 

「そうかしら」

 

 残ったスープを一息に飲み干し、往年の暗殺者時代を思わせる暗い瞳で杏子を見据える。

 

「事態解決の暁には、手柄を盾に縄張りの割譲を迫ればいいのよ。《魔獣》の出現率と人口密度は比例する。この条件から考えれば、新興都市である見滝原市の方がここよりも《魔法少女》的には好立地だとは思わない?」

 

「………なぁるほど。それにしても江蓮、あんたが《魔法少女》じゃなくて良かったぜ」

 

 思わぬ策略家との邂逅に、杏子は思わずにやりと笑った。

 

「え、お引越しするの?」

 

「ウォレス、しゃべるのはごっくんしてから!」

 

「はぁい」

 

 

 ※※※※

 

 

「佐倉杏子は、果たして乗ってくるかしら」

 

 紅茶を優雅に楽しみながら、織莉子はどこか楽しむように受話器に語りかける。一方通話先のマミは、今にもため息が出てきそうな憂いげな表情を浮かべていた。

 

「人手が足りない現状、他の街の魔法少女の助けを借りなくちゃいけないのは分かるけど……。正直、佐倉さんと共同戦線をはるというのは、気乗りがしないわ」

 

「あら、彼女とあなたは旧知の仲じゃない」

 

「………私と彼女の関係は、そんな簡単なモノではないの。………プレイアデス聖団の魔法少女とは、連絡がつかないの?」

 

「まったくもって音沙汰なしね。あなたの名前も出してみたけれど、返答は無かったわ」

 

「そう……。やはり、彼女の力を借りるしかないのかしら……」

 

 一年前、まだ魔法少女になりたてだった頃の杏子と過ごしたかつての日々を瞼の裏に投影する。

 

 今の彼女は、いったいどんな顔をして過ごしているのだろうか。

 

 自分にとって初めての、魔法少女の友達。

 

 あの日あの時、彼女を引き止めることが出来ていれば。彼女の絶望を支えることができたら、あるいは。

 

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