届いた手紙には日付と場所しか書いておらず、詳細な時間までは指定されていなかった。学校に通っていないため、一日暇を持て余している杏子としてはさして問題でもないのだが、いつ来るとも知れぬ相手をずっと待ち続けるというのもなかなか退屈であった。
「はぁ……マミのやつ、いつになったら来るんだよ」
ベンチで横になりながらソウルジェムの気配を探るものの、しかし正午になる今も尚探知にちっとも引っかからない。
朝の九時から待ちわびているのもあって、杏子は自身の腹が切ない音を鳴らすのを我慢できずにいた。
「あーもー我慢できねえ。腹減ったぁ……」
「はいどうぞ」
「あーあんがとな………って?!」
差し出された弁当箱を思わず受け取って和みかけるも、しかし我に返った杏子は慌てて飛び起きた。弁当箱はもちろん、しっかりと抱きかかえたまま。
「相変わらずね、佐倉さん」
「巴、マミ………どうして」
「お腹がすいている時の佐倉さんって、実は集中力にムラがあるのよ。少し魔力を抑えれば、簡単に接近できるわ」
「はっ……人が悪いぜ、相変わらず」
笑う杏子の隣に腰掛けるマミ。そろそろ冬の足音が聞こえて来る時期なだけあって、白い洒落たコートに身を包んでいた。
「お弁当、食べましょ」
「ああ。……おっ、美味そうだな~。量も申し分ねぇし!」
「佐倉さんのために作るお弁当ですもの。張り切って作らせて頂いたわ」
蓋を開けると、その中には彩りに溢れた弁当が詰まっていた。
カボチャと枝豆のサラダ、のりたまふりかけのかかった白飯、可愛らしい楊枝の刺さった唐揚げ、ホウレンソウのおひたし……。
決して豪華ではないが、家庭的で、温かみを覚える品々。かつて家族とともに囲んだ団欒の食卓を想起して、杏子はどこか懐かしい気持ちになった。
だが、これを口にする前にハッキリさせておかなければならないことがある。
「………なぁマミ」
「ん?」
「どうして、アタシと会おうって思ったんだ」
「………あなたの力が、必要になったからよ」
「そうじゃねえよ。助っ人の魔法少女なら、あすなろ市にプレイアデス聖団がいるじゃねえか」
「……………」
「…………なんで、よりにもよってアタシだったんだ。あんたの好意を裏切って、見滝原から飛び出したアタシを、どうして」
「…………」
「話してくれなきゃ、アタシはこの弁当を食うことはできない」
真剣なまなざしでマミを見つめる杏子。マミはほっとため息をつくと、自嘲気味な微笑みを浮かべた。
「あなたもニュースなんかを見て気付いているとは思うけれど、今の見滝原には《魔獣》とは異なる新たな驚異が現れているの。それに対抗するために、今見滝原の《魔法少女》たちは結集しているわ。でも、迫る未知の敵に対して、私たちはあまりに力不足……」
「だったらなおさら……」
「だからこそよ。……最も信頼できる、ほかの誰でもないあなたの力を貸して欲しかったの。…………一度は袂を分かった私たちだけれど、あなたは私にとって、魔法少女になって初めてできた大切な友達だから………」
潤んだ瞳から静かに涙をこぼしながら、見滝原最強の魔法少女、巴マミは切々と語った。
「マミ……」
震える少女の肩を抱いて、あやすように髪を撫でる。年齢の上では彼女の方が上ではあるものの、杏子の目には、今のマミが幼い少女のように見えたのだ。
「ばっか、泣くなよな……。あんたが泣いてちゃしょうがないだろうが……。先輩なんだろ……?」
※※※※
「さすがは杏子、つかみはバッチリね」
「キスするかなぁあの二人ー。わくわく」
「ウォレスったらー、女の子同士はそういうことしないんだよ?」
「ゆまちゃん、そういうことする女の子だって大勢いるわ」
「え?! ほ、ホントなの江蓮っ」
「本当よ。アメリカにはたくさんいたわ」
「じ、じゆうのくに……!」
「でも江蓮、ボクたち、杏子をこんな風に監視してていいの?」
「いいのよ。邪魔さえしなければ、No problem.」
「発音いいね」
「Thank you.」
最強の殺し屋、ファントム。
尾行、監視は、お手の物。