魔法少女同士の戦いは、“静かに確実に”という言葉に尽きる。
自身の正体を秘匿せねばならない魔法少女にとって、《魔獣結界》の外での戦いは外部に知れてしまう危険性が極めて高い。ゆえに彼女らは、基本的にはよほどのことがなければ戦ったりはしない。相手の力量はソウルジェムの気配で察知は可能であるため、縄張り争いにおいても実際の戦闘にまで発展するケースはまれなのだ。
それも、秘密を守らなければならない都合上、どれだけ強力な技を持っていたとしても結界の外で仕える魔法は限られる。
例としてあげるならば巴マミの銃撃などであるが、彼女の攻撃は“銃”という性質上、銃声は轟くし、広い場所が必要になる。必殺の砲撃などはその最たるものだ。彼女が結界の外で全力を出すには、人のいない場所と時間帯が必要になるのである。
その点で言うならば、佐倉杏子の魔法は結界以外での闘争で使うのに向いている言える。槍で突くぶんには大げさな音は出ないし、それでいてマミの銃撃に匹敵する威力を持っている。そして言うまでもなく、槍は原始的な近接格闘武装だ。
つまり佐倉杏子という魔法少女は、“環境や時間帯に左右されず、常に全力で戦える”。ストリートファイトにおける杏子のアドヴァンテージとは、まさにここに尽きると言っても過言ではないのだ。
ならば何故、杏子は
「………!!」
ゆまたちが木陰から見守っている中
「なんで……!!」
手足を叩き折られ、血の池に沈んでいるのか。
「キョーコ……!!」
単純計算にして、一対四。
佐倉杏子がいかに強力な魔法少女であるとはいえ、動けないマミを守りながら四人を相手に戦うのはあまりに部が悪い。
こまちの薙刀が、クレアの打撃が、ひよりの魔弾が、エリーゼのトラップが、杏子の肌に無数の傷を刻み続けていく。
何のことは無い。
魔法少女同士の戦いにおけるセオリー以前の問題だ。“大勢で攻める”という戦闘における最も基本の戦術の前に、佐倉杏子は敗北したのである。
「うぉあああぁーっ!!」
緑色の衣装へと変身しながら飛び出したのは、千歳ゆまだった。
戦闘に特化した杏子でさえダルマに変えた眼前の敵に対し、戦力にさえならないことは幼いながらもゆまは承知している。
それでも彼女が突撃したのは、こちらに注意を引きつけている隙をついて、自身の持つ中でも最大の魔法である治癒魔法を使って杏子を回復させるためだ。
契約直後の初陣で、《魔獣》との戦いの中、四肢を断絶された杏子を遠距離から回復させた驚異的な回復魔法。戦いの苦手なゆまの持つ、最高の援護。
「キョーコ、今たすけ―――――ガッ?!」
その援護も、届かない。
まるでそれが作業であるかの如く、ゆまの喉に魔弾を炸裂させるエリーゼ。実際、彼女の瞳は作業機械のようにがらんどうであった。
「かはっ……ひゅぅ、ひゅぅ、き、キョ」
なおも手を伸ばすゆまに、こまちの無情な刃が突き立てられる。
「思わぬ収穫。佐倉杏子に、こんなオマケがついてくるとは」
ゆまがその蠕動を停止するのに、そう時間はかからなかった。
「………動かないで」
暗く冷たい声で、江蓮が捕らえたひよりの頭部に拳銃を突きつけながら告げる。ゆまを囮に接近し、人質にとったのである。
コルト=パイソン。江蓮の愛用するリボルバー銃であり、かつて米国で幾人ものターゲットの命を奪ってきた殺しの道具。
「………ソウルジェム反応なし。排除します」
だが、それはあくまでも人間相手の武器。魔法少女という人外の存在に、どれほどの効果が期待できようか。
「がはッ……?!」
鍛え上げられた江蓮の腕をいともたやすく振りほどき、鋭く重い肘打ちで江蓮を打ち据えるひより。
「くっ――――」
かつて最強の暗殺者とうたわれた彼女が、まるで赤子の手をひねるように追い詰められていくその様は、人間と魔法少女の埋まることのない決定的な差をまざまざと見せつけていた。繰り出す蹴りも手刀も躱されて、ひよりハープから漏れ出る魔弾に吹き飛ばされる。
「う、ぐ………」
体制を立て直してパイソンを再び構える江蓮だが、しかし魔法少女の身のこなしが相手では、当たるかどうかすら怪しい。
至近距離であるとはいっても、江蓮には彼女たちに弾を当てる自信は無かった。
「排除します」
機械的な処刑宣言とともに、ひよりのハープへと魔力が充填されていく。
「…………!」
以前の江蓮であれば、ここで逃げていたかもしれないが、しかし今の彼女には家族がいる。
杏子とゆまを救出しない限り、この場からの撤退はできない。歯を食いしばりながら、江蓮はパイソンの引き金に力を込めた。
「待て!!」
突如戦場に響き渡った声に、魔法少女たちと江蓮が思わず声の主に視線を向ける。
「ウォレス……!!」
声の主は、記憶喪失の青年、ウォレスであった。
「下がっていろ、江蓮」
普段のそれとは真逆の、鋭い表情で敵を睨むウォレス。言い知れぬ違和感と恐怖を覚えつつも、江蓮は言われた通りに後ずさりした。
「ロード・バロン……? ありえません」
「この世界にいるはずが……」
「ここがどこだろうと、俺のやることは変わらない。……変身」
『BANANA!』
その手に握られたバナナ柄の錠前を起動させ、腰に巻いたベルト――――《戦極ドライバー》に装填する。
『LOCK・ON!』
その慣れた手つきも、鋭い眼光も、もはや江蓮の知るウォレスのものではなかった。
『COME ON!』
カッティングプレートの作動とともに、錠前が開いて黄色い燐光を放つ。バックに流れるファンファーレと共にウォレスの身体は真紅の《ライドウェア》に包まれ、その頭上から出現したバナナ型の金属塊がウォレスにかぶさった。自信の体に急激な変化が生じているにも関わらず、ウォレスは悠々とバナナをかぶって歩いてくる。
「バナナ?! バナ、バナナァ?!」
唐突すぎる展開に、思わず杏子が驚きの声をあげる。致命傷を負ったゆまもまた、力なく横たわりながらも唖然としていた。
「バロンだッ!!」
『BANANA・ARMS! NIGHT OF SPEAR!!』
電子音声の名乗りとともにかぶっていたバナナは変形し、西洋の騎士を思わせる堅牢な鎧へとその様相を変化させた。その手には、巨大な槍が握られている。
誇り高きバナナの騎士《アーマードライダー・バロン》。
非道なる魔法少女たちを撃滅すべく、騎士はその槍をとった。