火蓋が切って落とされると同時に、マミと《バロン》は杏子たちを置いてその場から走り出した。お互い睨み合いながら併走を続けつつ、手にした武器で隙を伺い合う。
「――――ハァッ!!」
先に攻撃をしかけたのは《バロン》だった。《バナスピア》による近接格闘の他に攻撃手段を持たないため、その挙動はマミからすれば非常に分かりやすい。要は近づかせなければいいだけの話なのである。
「―――――ふっ!」
姿勢を低く保ちつつ、飛びかかってくる《バロン》の腹部を目掛けて、散弾を撃ち込む。普段召喚するマスケット銃とは少々趣の異なった武器ではあるが、《インベス》戦の増えてきた最近になって開発した、近距離戦闘用の新たなバリエーションであった。
「ガッ――――!!」
散弾銃を腹部にお見舞いされて、無事な人間など存在しない。くぐもった唸り声とともに、《バロン》はくらった弾丸の慣性で後方へと吹き飛ばされた。
「まだまだっ……?!」
追撃を試みんと新たな散弾銃を召喚して構えるも、しかしマミは《バロン》の挙動に愕然とした。なんと、まるでダメージを意に介していないかの如く、悠然と立ち上がったのである。
「どうした……? この程度かッ!!」
「散弾を、それも至近距離でくらってノーダメージ……? 《インベス》以上の堅牢さを持っているとでも言うの?」
とはいえ、気後れしている場合ではない。ダメージにこそ繋がらないかもしれないが、衝撃で後方に弾き飛ばすくらいできるのは実証済みだ。
風見野を見下ろすこの丘の上で、銃声と金属音が鳴り響き続ける。
幾度となく発泡されるマミの散弾銃と、その回数を重ねていくごとに巧みになっていく《バロン》の回避。
めまぐるしく動き回りながら戦う二人ではあるが、戦況そのものは膠着しているといえた。このままでは、散弾をすり抜けた《バロン》の槍で叩き伏せられるのも時間の問題である。
「だったら……これで!」
垂直に跳び上がり、《バロン》を上空から睨みつける。
「食らいなさい! 《ティロ・ボレー》!!」
中空に召喚された、無数のマスケット銃が一斉に火を噴く。巴マミの得意戦法である、マスケット銃の大量召喚による乱れ撃ち》だ。
「チッ……!」
雨のように降り注ぐ弾丸は、その一発ずつで見るならば、そう大した驚異でもない。《アーマードライダー》の、それも高い堅牢さを持つ《バナナアームズ》を装備した《バロン》の体には、おそらく爪の先ほどのダメージすら与えられないだろう。
だが、それが十発なら、百発ならどうだろうか。
頑丈な鎧に防御を預け、ひたすら槍で攻撃していくという戦法を得意とする《バロン》にとって、単純な攻撃力だけでは測れないこのマミの攻撃は相性が悪いと言えた。
いかに重装甲とはいえ、これだけの弾丸を浴びせられてはひとたまりもない。かといって、この弾丸を全て叩き落とせるほど、彼の槍は細かな芸当には向いていない。
「おおおおおおぉぉおぉッ!!!」
受けきることはもちろん、避けることもままならない。素早い状況判断の結果《バロン》がとった選択は、愚直な突進であった。
「それならッ!」
眼前の騎士がとった戦法は、ある意味でマミの予想通りであった。戦闘において熟練の域に達しつつあるマミにとって、相手の行動予測は本能的に察知できるのだ。
「なにッ?!」
突然地面から生えてきたリボン群に全身を縛り上げられて、身動きがとれなくなる《バロン》。なんとか千切ろうと力を篭めるも、しかしリボンは見た目以上に頑丈であった。
「《レガーレ・ヴァスタアリア》……。《インベス》戦を想定して開発した技だったけれど、どうやら《アーマードライダー》にも通用するようね」
「クッ……!」
「がんじがらめにされては、そのベルトも操作できないわね。《アーマードライダー》の弱点は、既に承知しているわよ。………あなたの負けだわ」
「舐めるなッ!! この程度の力で、押さえ込まれる俺ではない……!!」
「ッ……?!」
冷徹に敗北を諭していたはずのマミが、《バロン》の一喝で後ずさる。この赤い騎士が放つ異様な迫力に、マミは無意識のうちに気圧されていた。
「何故貴様は、俺に敗北を勧める」
「だ、だって、もうあなたは動けないし……これ以上戦っても、無用の血が流れるだけでしょう?!」
杏子たちを襲われた恨みこそあれど、巴マミは非情の人ではない。例え敵だとしても、それが人間であれば、殺生はマミの望むところではないのである。
だが眼前の赤い騎士は、がんじがらめになりつつも、マミの申し出を一蹴した。
「笑止! 自ら新しい敵を求めず、憎まれることから逃げている……貴様はただの臆病者だ!! その力は強さとはほど遠い。奪い取り、踏みにじる。それが本当の勝利の形! 力とは、強さの証を立てるもの! 貴様に足りないのは、その覚悟だッ!!」
力強い咆哮とともに、《バロン》の全身に更なる力が漲る。次の瞬間、彼を拘束していたはずのリボンは無残にも引き千切られていた。
「?!」
驚きのあまり身動きの取れないマミに、《バロン》の槍が殺到する――――