よろよろと、少女が疲弊した体を引きずって夜の街を歩く。
少女――――暁美ほむらは悔いていた。先程の《森の魔獣》との戦闘で、結局ほとんど役に立つことができなかったことを。そしてそれ以前に、現場に向かうだけで体力のほとんどを使い切り、もしマミが敗れていたらそのまま自分も《森の魔獣》の餌食になっていたかもしれないことを。
「駄目だ……私、弱い子だ」
マイナスな感情に流され、魔法少女として戦う決意がぶれていく。そんな自分を自覚し、ほむらは立ち止まって大きくため息をついた。
「しっかりしなきゃ……。もっと強くなって、巴さんを支えてあげなくちゃいけないのに」
本来、魔法少女とは孤独なものだ。あの巴マミも、ほむらが魔法少女になる以前はずっとひとりぼっちで戦っていたという。
本来は《魔獣》の落とす《グリーフキューブ》を集めることが魔法少女にとって最も重要なことなのであって、《グリーフキューブ》を落とさない《森の魔獣》と魔法少女がわざわざ戦う必要は無い。それにも関わらず、巴マミは「街を脅かすものと戦うのが、魔法少女でしょう?」という一言だけで戦い続けているのだ。
愚かとも言えるその行動理念は、しかし暁美ほむらに『巴マミを手助けする』という決意をさせるに十分なものであった。
だからこそ、ほむらは苦しんでいる。
マミの助けになれない、弱い己自身に。
「………なんとかして、頑張らなくっちゃ」
だが、そんなネガティブな気分をいつまでも引きずるわけにはいかない。
ほむらは己の魔法少女としての原点に会いに行くことにした。
※※※※
黒猫のエイミー。
見滝原に来たばかりの頃、事故に遭って瀕死だったその猫を助けるため、ほむらは魔法少女の契約を果たした。野良猫を助けるためだけに魔法少女の宿命を受け入れたことを、最初はマミに咎められはしたものの、そのマミとも今はこうして協力して魔法少女活動を続けていられているので、ほむらの中にその引け目は無い。
今日のように、魔法少女活動で失敗をしたりすると、ほむらは決まってエイミーに会いに行く。自宅は見滝原の外にあるためバスに乗らなくてはならないが、そのバス停の近くでエイミーはよくくつろいでいるため、寄り道にはならないのである。
「エイミー……いる?」
角を曲がって、バス停の方角へ小声で呼びかけてみる。さいわいバス停には人の姿は無く、ほむらは安心した心持ちでいつもエイミーがいるバス停の裏を覗き込んでみた。
「…………え?」
だが、暁美ほむらの憩いの場所に、今日は侵入者がいた。
「…………何か?」
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白い学生服と片目を隠した前髪が印象的な少年が、前髪の隙間から覗く中性的な美しい顔に訝しげな表情を浮かべて、ほむらを見つめ返していた。胸には、エイミーが抱かれている。
「あ、いえその、その猫ちゃんの………」
「………飼い主さんですか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど………」
どもるほむら。少年があまりにも美形だからというのもあるが、そもそも彼女は人とコミュニケーションをとるということが苦手なのである。
「………はい」
しばし逡巡すると、少年はおもむろに立ち上がり、抱いていたエイミーをほむらに譲り渡した。おろおろとした挙動ながら、なんとかほむらもエイミーを受け取る。エイミーは人に抱かれることに慣れているのだろうか、特に反応を示さずに少女のつつましい胸の中に収まった。
「かわいいよね、猫」
「えぁ、は、はい」
突然の少年の言葉に、またもどもるほむら。同年代の少年との会話に、マミや仁美、さやかとの会話とはまた違った緊張をほむらは感じていた。
「名前とか、あるの?」
「え、エイミーっていいます。……私が勝手につけた名前ですけど」
「へぇ……。じゃあ、僕も今度からエイミーって呼ぶことにするよ」
憂いを帯びた表情を僅かにほころばせ、少年はほむらの胸に抱かれるエイミーを撫でる。どこか影のある少年であるが、エイミーと戯れている間の彼には、素直で優しげな微笑みが見受けられた。
「あのっ」
気がつくと、ほむらはこみ上げる言葉を口に出していた。
「私、見滝原中学校二年の、暁美ほむらっていいますっ」
言い切り、体中がかぁっと熱くなる。
普段の自分では考えられない行動に、ほむら自身も動揺していた。
少年もどこか驚いたように目を瞬かせると、なんとなく少女の心情を察したのか、かすかに微笑んで自己紹介をした。
「僕の名前は
魔法少女は多忙だ。
恋にかまける暇などありはしない。
だが、溢れ出す気持ちに正直な彼女を、いったい誰が咎められようか。
彼女もまた『少女』なのである。
この物語の時系列として、まどマギが放送された2011~2012を舞台として採用しております。そのため、2013~2014に放送された鎧武のキャラクターは、まどマギにあわせて2歳若返ってもらいました。また年齢以外にもこの小説の核心的な設定に基づいた性格の改変などがあるため、特に鎧武側の登場人物はいわゆるキャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。
続きを読んでくださるという読者様は、その辺の諸事情を踏まえて読んでください。