「ええ。…………ええ。そうよ。彼女たちの《ソウルジェム》は偽物だったわ。限りなく本物に近い代物だったけれど…………でも、意図的に完全なコピーを避けた節があるのよ。まるで、何らかの機能を増築させたかのような………これは私の勘だけれど、これがあの四人を操っていたのではないかしら。…………そうね、それじゃ、また」
美国織莉子との通話を切ると、巴マミは渋い表情で振り返った。
自身を刺し、杏子たちを襲ったのが、あの四人の《魔法少女》たちであったことを聞かされてからおよそ一時間。場所を丘から杏子たちのねぐらに移した現在、勘違いに端を発したあの激闘を思い出して鳥肌を蘇らせつつも、しかしマミは新たに目の当たりにした事実に更なる恐怖を感じていた。
「佐倉さん、その………エリーゼさんたちは」
「目を覚ます気配もねえぜ。大人しい限りでこちらとしてはやりやすいんだが……身じろぎもしねぇで縛られたまま座ってるってのも、気持ちわりいな」
襲撃犯たちは、気絶したきり目を覚まさない。ウォレスの攻撃がそれだけ強烈だったということもあるかもしれないが、傷の治療を施した今も沈黙したきりというのは少なからず不気味であった。
かといって、死んでいるというわけでもないのだ。心拍は正常、呼吸も規則正しく、その他にもそれらしい異常は見られない。
「私の魔法、失敗しちゃったんでしょうか……」
「重傷だったあたしらを一瞬で全快させたお前の治癒魔法が、こいつらには効かねえって道理はねえだろ。ゆまはよくやったさ」
「えへへ、ありがとう、キョーコ……」
照れくさそうに笑うゆま。先程の戦闘で彼女は、喉を焼き焦がされていたというのに、それに耐え切って自分と杏子に治癒魔法をかけた。魔法を使うということにどれほどの負担が生じるのか、《魔法少女》ならざる吾妻江蓮にはそれを憶測することさえも難しい。……だが、十歳にも満たぬ少女が耐え切れるだけの痛みではないことは江蓮にも十分に類推できる。微笑ましいやりとりを交わす杏子とゆまを流し見ながら、江蓮は少女たちがこれまで潜ってきたであろう修羅場の数々に思いを馳せていた。
「ねえぇ……どぉして僕まで縛られてるのぉ???」
ぐずぐずとした声で、簀巻きにされた美青年が抗議の声をあげる。我に返った江蓮がそちらを見やると、青年―――ウォレスは縋るような瞳で見上げてきた。
「ごめんなさい。今はあなたの縄を解いてあげられないの……」
模造品の《ソウルジェム》を媒介にして操られていたエリーゼたちもそうだが、それ以上に不可思議なのはこの青年である。この人畜無害の女々しい彼が、突然豹変したかと思いきや《アーマードライダー》なる姿にその身を変えてエリーゼたちを一蹴し、実力者であるマミをすら追い詰めたのだ。これを不思議に思うなという方が、無理な話である。
「なぁマミ。……ウォレスが変身したのはその、《アーマードライダー》ってやつなんだよな」
「ええ。私たちが確認したどの《アーマードライダー》とも違うタイプではあるけれど、システム部分ではほとんど共通しているわ」
「《戦極ドライバー》ってやつか……。おいウォレス、あんたなんでこんなモン持ってんだ?」
ウォレスから没収した《ドライバー》をぶらつかせながら尋ねる杏子。だが、ウォレスは首をかしげて唸るのみだった。
「え~? もともと持ってたよ?」
「だから、なんでかって聞いてんだろが」
「……………分かんない☆」
「ブッコロッゾオラー!!!」
「杏子、落ち着いて。彼には以前の記憶は無いのよ。………巴マミ、《戦極ドライバー》とは、もともとどこから来た機械なの?」
荒ぶる杏子を何とか抑えつつ、江蓮が冷静に質問を投げかける。マミは曇る表情に内心からにじみ出る恐れを含んで返答した。
「私が聞いたわけではないけれど……見滝原の魔法少女に《インベス》をけしかけていた例の《霧の海のピニオン》のセリフや、《ドライバー》を拾った光実くんの証言によると、どうやら《禁断の森》で《インベス》と戦っていた人々の使っていた兵器のようなのよ」
「……………もはや、オカルトね。杏子をつけまわし――ストーキングしていた時にも聞いた話ではあるけれど、とても現実的とは言えないわ」
「いやいや江蓮、それ言い直せてねえから、オブラートに包むどころか、余計に露骨になってっから」
顎に手を当てて呟く江蓮に、呆れ顔でツッコミを入れる杏子。そんな彼女たちのやりとりを眺めていたゆまに、ふと天啓が舞い降りた。
「………じゃあ、ウォレスはきっと、もともとはその《インベス》と戦っていた人なんだよ。記憶を無くしちゃってるから確かめられないけれど、きっと見滝原の《魔法少女》をいじめる奴らから助けるために来てくれたんだよ」
当のウォレスは頭上にクエスチョンマークを浮かべているが、ゆまの仮説は確かに筋が通っている。全てが真実とは言えなくとも、大筋は正解と見て間違いないというのが、この場にいる全員の共通の見解であった。
「………その《インベス》というのは、どこから?」
江蓮が考察を張り巡らそうとマミに尋ねる。本来《魔法少女》ではない彼女を巻き込むのには気が進まないが、ここまで来てしまっては黙っているわけにもいくまい。諦観の念をため息とともに吐き出して、マミは全てを話すことにした。
「私たちが《禁断の森》と呼称する、謎の森よ。空間の裂け目からしか観測できないけれど、そこを通れば向こう側に行くこともできるわ」
「あ、裂け目って……」
「バナナが出てきた時も、似たような現象が見られたわ。……なるほど、あの向こう側から何らかの手段でこちら側にやって来たのがウォレスである、と」
相変わらず当の本人はちんぷんかんぷんといった様子だが、江蓮たちが納得しているのを眺めて自分も納得した気分になっているようだ。
「ウォレスのこともそうだが、こんな舐めたマネをしやがる連中を放っとくワケにはいかねえよな。ピニオンだっけか? フザけた名前しやがって、上等だ。きっちりオトシマエをつけてやろうじゃねえか」
情報を統括し、状況を確認した上で、杏子は好戦的な笑みを浮かべた。
《インベス》を操って《魔法少女》を襲うことを諦め、今度は捕獲した《魔法少女》に人口の《ソウルジェム》を埋め込んで使役。まだ見ぬ敵の回りくどい手口に、杏子は怒りの炎を激しく燃え上がらせていた。
「行こうぜ、見滝原に。舐めた野郎どもに泡を吹かせてやろうじゃんか」
「……血を流すのは、私のような汚れた大人だけで十分。私も同行するわ」
「キョーコかっこいい! わたしも行くよ!」
「ボクもー!」
口々に同行を希望する仲間たちに、照れくさそうな笑みを向ける杏子。かくて、ここに風見野市よりの助っ人チームが編成された。
※※※※
「いっきし! うぃ~……どこの美女が俺様の噂話をしてるのかな?」
「やめときなよピニオン。変に期待すると後から辛いぜ」
「お、妬いてんのか?」
「ばっ、バカ言うんじゃないよっ! ていうかそれより、考えるべきコトがあるだろ!」
「んあ? ああ、わーってるよ。でもな、サーヴァント様のゴーサインが無きゃ俺らは動けないっしょ?」
「そりゃそうだけどさ……」
「まぁしかし、当初の目的だった《魔法少女の捕獲と調査》にこれほど手こずるたぁ思わなかったな……。未だに一人も捕まえられねえなんて、あーあ、かったりい」