あすなろ市に存在する、とある洋館にて。
「軽くおさらいをしよう、和紗ミチル。《魔法少女》の核は《ソウルジェム》であり、肉体はあくまでも外付けのハードウェアだ。そして《ソウルジェム》の正体とはすなわち、視覚的に認識できるカタチとなった少女の“魂”……。きみたちの行使する魔法とはすなわち、現実世界に干渉できるようになった魂のエネルギーの発露を示している」
「…………」
「きみたちと契約した《インキュベーター》。彼ら……いや、彼と呼ぶべきか。ともかく宇宙からの来訪者である彼は、人類が持つ“感情”というエネルギーを搾取するため、大気中に浮遊していた負の感情にカタチを与え、それを《魔獣》と名付けた。認識可能な状態にしなければ、それらを回収できないからだ。そしてその回収を任されたのが、人類の中で最も強力な感情を持つ第二次性徴期の少女たち……つまり、《魔法少女》だったというわけだ」
「…………」
「以上が、きみたちへの拷問と我々独自の調査によって明らかになった、《魔法少女》というシステムの本性だ」
「…………」
椅子に縛り付けられて身動きの取れない和紗ミチルに、白い青年は淡々と語り続ける。
透き通るような白い肌と白い髪、そしてあまりにも整いすぎている美貌。薄暗い地下室という状況であるにも関わらず、青年はまばゆいほどの白いオーラを身に纏っていた。それはどこか、見る者に神秘的な何かをも感じさせるほどの域に達しており、事実、ミチルは彼のことを天使のような姿をしているとさえ感じていたほどだ。
だが、彼の所業は天使のそれなどではない。
唾棄すべき汚物を見る目で青年を睨めつけると、ミチルは唾を彼の足元に吐きつけた。
突如あすなろ市に現れて、自分とその友達で構成されていた魔法少女チーム《プレイアデス聖団》を笑顔で蹂躙し、拷問にかけたことを、ミチルは忘れてはいないのだ。
「何が目的でこんなことを……この悪魔……ッ!」
仲間たちを傷つけられた怒りと自身に与えられた苦痛と屈辱は、本来温厚であったミチルを憎しみで支配するには十分すぎるほどに激しかった。
だが激流の如き彼女の憎しみを、青年はまるで意に介していないといった様子で受け流す。それどころか、青年はその美しい顔に、薄く笑顔すら浮かべていた。
「………『悪魔は理論家である。悪魔は現世のよさや官能の悦びなどの代表であるにとどまらず、彼はまた人間理性の代表者である』」
「…………え?」
「ドイツの詩人、ハインリッヒ・ハイネの言葉さ。……きみの仲間の御崎海香なら、もっと機知に富んだ返しをしてくれたんだがね」
「……ッ! うみか、海香はどうなっちゃったの?!」
取り乱すミチルに、青年は口端を釣り上げて意味深な笑みを浮かべた。
「彼女の《ソウルジェム》は、ついさっき改造を終えた。牧カオル、浅海サキ、若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコも同様だ」
「………!!!」
決定的な絶望が、ミチルの表情を覆っていく。
「《インキュベーター》を掌握した僕らにとって、それは雑作もないことだ………さて」
ふと言葉を切ると、青年はおもむろにポケットの中から折りたたみ式の剃刀を取り出した。銀色の刀身が、鈍く光っている。
「きみに聞きたいことはただ一つ。“円環の理”とは何だ?」
青年の表情から、笑顔が消える。これが最後通告なのだと、ミチルは悟った。
「し、知らない……! 知ってたって、教えてやらない……!!」
だが、ミチルは首を横に振った。
最後まで、《魔法少女》の矜持を守ることを決めたのだ。
自分を慕って今までついて来てくれた、仲間たちを裏切らないために。
「そうか……残念だ」
「ッ、ああああああッ!!」
一閃、青年の刃がミチルの両目を切り裂いた。患部から鮮血が迸るが、しかしそれを止められるはずの治癒魔法が発動しない。
「今までの拷問でも味わってもらってきたが、きみたちの《ソウルジェム》は僕らの管理下にある。魔法による治癒も、痛覚遮断も不可能だ」
「ああぁあぁッ! ひあああああぁぁあッ!!」
太ももに突き立てた剃刀を、ゆっくりと刺し込んでいく。白い少女の脚と剃刀の隙間から、ぽつぽつと真っ赤な血がにじみだしていく。骨のコリコリとした感触を刃先に感じるまでに深々と刃を突き立てると、青年はそのまま剃刀を捻って周囲の肉を引き裂いてみせた。
「ふうぅうぅうぅうう、ぐ、ぐうぅうううぅう」
喉を震わせ号泣し、唾液と鼻水を垂れ流しながら必死に痛みに耐えるミチル。彼女にできるせめてもの抵抗といえば、この痛みに屈さないことだけであった。
「あああッ! いぎゅ、ふ、うぅうぅうぅうぅうあぁああああぁッ…………!!!!!」
足の爪を、一枚一枚、丁寧に時間をかけて剥がしていく。痛みはとっくに許容レベルを超えているだろうに、しかしミチルはそれでも耐えていた。
“円環の理”の詳細を教えれば、この拷問はすぐに終わるかもしれない。だがそれでも、ミチルはどういった形であれ、この男に屈服することができなかった。
……だが、彼女がいくら耐えようとも拷問は終わらない。
和紗ミチルが痛みに屈し、全ての尊厳を放り出すその時まで、青年――――槙島聖護の地獄は終わらないのだ。
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『あああッ! いぎゅ、ふ、うぅうぅうぅうぅうあぁああああぁッ…………!!!!!』
液晶画面に映し出された友達が、変わり果てた痛々しい姿で苦悶のあまりに獣の如き声をあげている。
「ミチル………!!」
「さあ、どうするんだい御崎海香。きみが供述を断れば、このビデオの続編が制作されるわけだが」
誰よりも大切な友が拷問にかけられる映像を目の当たりにして
「槙島、聖護……ッ!」
それでも意地を張り続けられるほど
「…………分かった………。話す。全部話すから……。ミチルを、楽にしてやって…………」
御崎海香は、役目に徹することはできなかった。
【第六話 強さの証を立てるもの】はこれで終了です。
この【白い天使】のみ、時系列が【開幕】以前のモノとなっております。ややこしい書き方ですが、ご理解の程をお願いします。
次回以降は、再び本来の時系列に戻りますので、この次もどうかよろしくお願いします。
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https://www.youtube.com/watch?v=4IkLEmswL30