「どうして上條恭介に《戦極ドライバー》を渡した!! 答えろ!!」
叫びながら、机を蹴倒すピニオン。隠れ家であるマンションの壁が、彼の怒号のあまりにビリビリと震えた。
「……きみたち海の民は、《戦極ドライバー》を使うことができない。ロード・バロンがタブーを設けたからだ」
「理由になってねえな! 戦力の増強が目的だったんなら、あんたの直属の部下の《オーバーロード》をこっちに寄越しゃ良かったんだ!」
「やめろって、おいピニオン!」
静かに対応するサーヴァントの冷ややかな目に抗するように、怒りのボルテージを上げて憤るピニオンを、なんとか抑えるベローズ。だが、ピニオンの暴走は止まらない。
「《森》で旧人類と戦争中である《オーバーロード》をこれ以上こちらに割くのは、戦争の均衡そのものの崩壊に繋がりかねない。ロード・バロンが行方不明である以上、僕らはうかつな動きをするべきではないんだよ」
「戦争の均衡だと!? ロード・バロンの片腕でありながら、旧人類の首脳部と繋がっているコウモリ野郎ならではの発想だな!! 預けられた《黄金の果実の欠片》に恥ずかしいと、これっぽっちも思わねえのか!!」
「思わないね。ロード・バロンは僕の内通を黙認している。彼は“力を以て己の強さの証を立てる者”をこそ好み、“自分の弱さを恥とも思わず、本当に強いものを後ろから撃つような卑怯な弱者”を憎んでいる。彼が《黄金の果実》を求めるに至ったのは、自身が裁定者となって弱者を振るいにかけ、“真の強者”をこそ世界に満たすためだった。きみたち新人類の祖先こそがそれだ。そして戦争が始まって数百年が経ち、それでも生き残った彼ら旧人類もまた、“強者”と呼べる存在となるに至った。………それならば、彼らを殲滅することは我がロードの理念に対する冒涜となってしまう」
朗々と語るサーヴァントの目は虚ろだが、彼の言葉はガルガンティア船団に伝わる伝説のロード・バロンの人物像と一致している。
いまいましげに歯ぎしりをしながら、ピニオンは気持ち半歩引き下がった。
「…………話を戻そう。『何故、上條恭介に《戦極ドライバー》を譲渡したか』だったね。…………その答えは、きみが一番良く知っているんじゃないかな、ピニオン」
「なっ……!」
「きみは兄の仇をとるために《魔法少女》の調査に志願し、僕とともに来た。だが、きみは年端もいかぬ少女の姿をした《魔法少女》の見た目に惑わされ、かつての誓いをすっかり忘れてしまっている。そんなきみに、この先の《魔法少女》との戦いを任せることはできない。…………簡潔に言うと、上條恭介はきみの代役だ」
サーヴァントの言葉が、ピニオンの心の隙間に刃を次々と突き立てる。悲鳴のような唸り声は、真実悲鳴だったのかもしれない。
「………ちょっと待て。あんたはさっきから、《魔法少女》と“戦うこと”を前提として話を進めてるけどね。私たちの真の目的は“《結界の化け物》と《魔法少女》の因果関係の調査”のはずだ! それがどうして、奴らを殺すことに直結している!?」
容赦のないサーヴァントの物言いに反感を覚え、思わず敬語を忘れたベローズが唸る。だが、サーヴァントは二人目の反抗に戸惑うどころか身じろぎ一つしない。
それどころか、その一言を待っていたとでも言わんばかりに、サーヴァントはおもむろに立ち上がった。
「ああ―――そのことについて、きみたちに説明するのが遅れてしまったことはすまなく思っている。………紹介しよう。旧人類側のエージェントにして僕の相棒……きみたちにとっても、親しい人物だ」
促すように、サーヴァントが背後の扉を拳でノックする。すると、漆黒のスーツに身を包んだ金髪の少女が入室して来た。
「あんた……!!」
「な……! お前、マジか……!」
驚愕の表情で凍りつくベローズとピニオン。無理もない。現れたのは、彼らにとっても既知の人物だったからだ。
「紹介しよう。僕の相棒のリーマだ」
「………お久しぶりです、ベローズさん。ピニオンさん」