「おっリーマか。お疲れ様。どうだい、配達の仕事にはもう慣れたかい?」
「ええ、エイミーさんたちが良くしてくれるので」
「よぉ~リーマじゃねぇか!」
「ピニオンさんこんにちは!」
「おう! それでどうだい、例の件は?」
「もう………アンタはまたリーマをサルベージ屋に勧誘してるのかい? 懲りないねぇ」
「あははっ……確かにユンボロは好きですけど、でも今はこの仕事が気に入ってるので! それじゃっ」
「あっ……ッチ、行っちまった。釣れないねぇ」
「はいはい、油売ってないで仕事に戻るよ! さっさと今日の分のを済ませて“例の女の子”を看病してやらないと」
「ぐっ……あ~あ。兄貴もあんなガキじゃなくてもっとスンゲェお宝取ってきてくれりゃ良かったのによぉ」
「リーマ、あんたがなんで………」
驚きのあまり震える声で問いただすベローズに、リーマが悲しげに目を伏せる。精神的に追い込まれたピニオンもまた、弱々しい瞳を眼前の少女に向けていた。
「……ごめんなさい」
配達屋としてガルガンティア船団で働いていたのは、こちらの目を欺く嘘だったとでもいうのか。あの笑顔も、言葉も、全てが演技だったというのか。
「…………ッ」
リーマ自身は申し訳なさそうにしてはいるが、それで今まで騙されていたことに対するショックがぬぐい去れるわけではない。ベローズは振り下ろす相手のないまま拳を握り締めた。
「………さて、久しぶりの再会に積もる話もあるだろうが、そろそろ実務に戻ろうか。リーマ、説明を頼む」
「……サーヴァントッ………」
鋭い眼光で、幼いエージェントはサーヴァントを睨みつけた。旧人類側からのスパイである彼女と、ロード・バロン側からのスパイであるサーヴァント。互いの利害のために同盟を組んだ相手ではあるが、それでもリーマはこの底の見えない暗い瞳の男を微塵も信用してはいなかった。
とはいえ、今は私情を挟んでいられるほど事態が優しくないのもまた事実だ。リーマはサーヴァントの冷ややかな視線を振り切るようにベローズたちの方へ向き直った。
「………では今から私は、旧人類抵抗軍のエージェントとして、あなたたちに必要事項を伝えます」
言葉通りの、明確な立場の差異。状況に巻き込まれるようにしてこの世界にやって来たベローズとピニオンにとって、見知った彼女の突き放すようなその言葉は、彼女がそれを望んでいるわけではないということを知っていてもなお、胸に刺さるものだった。
「あなたたちは陸の戦争とは本来は無関係です。にも関わらずサーヴァントと共にこの世界にやって来たのは、故郷であるガルガンティア船団に異世界の怪物が襲来したから。……そうですね?」
「………ああ、間違いないな」
あくまで大人の対応を心がけつつ、ベローズが問いかけに応える。リーマは身を切るような想いを胸に秘めたまま、説明の続きを語り始めた。
「実は、あの怪物が『異世界から来た』とすぐに特定されたそもそもの原因は、旧人類抵抗軍……つまり私たちが、サーヴァントを通じてあなたがたに情報提供をしたからなんです」
「「!?」」
告げられた真実に、再び戦慄するベローズとピニオン。だが、リーマの言葉が途切れることはない。
「陸に閉じ込められ、《森》と《オーバーロード》を相手に戦う私たちは、しかしながら一枚岩ではありませんでした。私の所属する《旧人類抵抗軍》もまた、旧人類の勢力の一つに過ぎません。味方同士でお互いに牽制し合いながら、このサーヴァントのような《オーバーロード》側の間者を通じて戦線の均衡を保つ日々……それが、私たちの真実だったんです」
握り締めた小さな拳が、ふるふると震える。今まで感じてきたのであろう、幼さゆえの潔癖さから生じる現実への苦悩が、そんな小さな仕草の中に痛ましくにじみ出ていた。
「しかしそんな脆弱な均衡も、旧人類側に属していたある男が《戦極凌馬の遺産》を掌握したことよって破られました。………その男は、槙島聖護といいます」
男の名を口にしながらリーマが差し出したのは、ピンボケの酷い白黒写真だった。大勢のアーマードライダーに囲まれた、パーカーのフードを被って顔を隠している細身の男が写っている。
「………こいつが、槙島聖護?」
「そうです。……サイバネティック部門の重職についていた泉宮寺豊久をパトロンに、これまでも数多くのテロ活動をしていた危険人物でした」
「…………なるほど。コイツが《戦極凌馬の遺産》を使って二つの世界の境界をこじ開け、向こうの世界から《結界の化け物》を引っ張り込んだ。そしてオーバーロードの包囲網をすり抜けて俺たちに直接攻撃させたってことか」
以前、サーヴァントがそれとなく示唆していた“黒幕”の存在に照らし合わせながら、ピニオンが呟く。全て知っていたにもかかわらず白々しい真似をした眼前の黒衣の男に、侮蔑と怒りの篭った視線を向けながら。
「彼らの動きを逐次追っていたこともあって、なんとか被害は最小限に食い止められたんですが………それでも、ガルガンティア船団が被った被害は尋常のモノではありませんでした」
あの事件の発生時、リーマもガルガンティア船団にいた。出自はどうあれ彼女もまた、数多くの犠牲者を払ったあの事件の被害者なのだ。
そして、それが分かっているだけに、同じく犠牲者であるピニオンたちも彼女の苦悩を感じてしまう。ままならぬ痛みが、三人を深く結びつけていた。
「抵抗軍はもちろん槙島を捕らえようと必死に動きました。しかし彼は、パトロンの泉宮寺と数名の部下を連れてこの世界に逃げ込んでしまったのです。そして数日前、皆さんに遅れる形でこの世界に来た私は、隣町の風見野市で“なんらかの方法で洗脳処理を施された魔法少女の一味”が、現地の魔法少女と偶然居合わせた巴マミを襲撃していたのを目撃しました」
そして走る、三度目の戦慄。
「そ、それって……」
「………その槙島って野郎は、魔法少女を手駒にする力を手に入れているということか……」
観測されたすべての事件が、ついに槙島聖護という男に収束した。
そしてその槙島は、詳細不明の《戦極凌馬の遺産》なる存在を手に入れ、魔法少女をも配下に収める力を有し、この世界のどこかに潜伏している。
「―――――つまり、事実として彼女らが邪悪ではない存在だったとしても、槙島の手に落ちる可能性がある限り、危険分子であることに変わりは無いってことだ。《結界の化け物》との因果関係を調査など、もはや是ここに至っては何の意味もないんだよ」
取り出した煙草をくゆらせながら、ピニオンとベローズに淡々と事実を突きつけるサーヴァント。その瞳は闇より暗く濁りきっているにもかかわらず、絶えず何かを見つめていた。
「すべての黒幕である槙島聖護の捕縛を最優先。そのため、奴の兵隊になる、ないしはなっている可能性のある魔法少女は全て始末する。―――――これが、僕らのとるべきこれからの方針だ」