冬まっさかりの今の季節、日が落ちる時間はどんどん早まっていく。白く浮かぶ夕月と同じく白い自身の吐息に季節を感じながら、光実は校門で人を待っていた。
先程、靴箱に届けられていた一通の手紙―――あるいは、果たし状とでも呼ぶべきもの。アーマードライダーを名乗る謎の人物からの手紙には、校門の前で待つようにと記されていた。
『光実くん、頑張ってくださいね……! 私たちもついてますからっ……』
「………ああ。任せておいてくれ」
テレパシーでほむらが囁きかけてくる。魔法少女ではないので彼女のテレパシーに返信はできないが、テレパス越しでもほむらと光実の心は通じ合っていた。
「っ……」
ひときわ強い木枯らしがひゅうと吹きすさび、思わず目をつむってやり過ごす。十一月のそれとなってくると、耐え難い寒さも覚えるものだ。風で乱れてしまった紫色のマフラーをもそもそと直し、状態を確認するべく再び目を開ける。
―――だが、光実の瞳に飛び込んできたのは、マフラーばかりではなかった。
「やぁ、光実くん。待っていてくれたということは、やはりきみがそうなんだ」
「………まあね」
―――薄ら寒い笑顔を浮かべた少年が、光実を伽藍堂の瞳で見つめてくる。隣のクラスの上条恭介だ。
「『アーマードライダー同士、正々堂々一騎討ちを申し込む。もしきみが僕に勝てれば、僕は僕らの目的の全てをきみに教えよう。』……か。これまた随分と胡散臭いメッセージだけど、これに僕が取り合わなかったらどうするつもりだったんだい」
「その場合、僕の仲間がこの学校にインベスを放っていたよ。僕は雇われの身だから詳しくは知らないけど、どうなら僕の雇い主はきみたちと早急に戦う必要が出てきたらしい」
「………ここじゃ人目につく」
「ああ。じゃあ適当なところまで移動しよう。ついてきてくれ」
上条恭介の言葉から察するに、どうやら彼は何らかの方法でピニオンたちに操られているらしい。しかし彼の事情がどんなものであるにせよ、敵側の人間とコミュニケーションがとれるこの状況はまさに願ったり叶ったりと言えるだろう。
上条恭介のアーマードライダーとしての強さがどの程度のものかは定かでは無いが、万が一の時に備えてほむらとマミへは既に援護の根回しをしてある。キリカという伏兵の存在に加えて、マミの連れて来た風見野の助っ人とやらもこちらにはいる。光実には決闘の申し込みを素直に受けてやるつもりなど更々無かった。
相手の決めたルールに従う必要など無い。光実の狙いは要するに、数の暴力である。こちらのフィールドに誘い込んで捕縛し、無理矢理にでも話を聞き出してしまえばいいのだ。
※※※※
上條恭介に導かれるままにやって来たのは、自然公園の雑木林の奥地であった。ここならば多少の騒音もかき消されるし、時間帯的にもここへ訪れる人間は希と言える。光実が知る由もないことだが、ここは一ヶ月前、マミとほむらが《ライオンインベス》と対決した場所でもある。
「…………随分と奥まで連れて来たものだね。ここでなら確かに戦っても人目につかないだろうけど……きみたちが人目を気にする目的はなんだい? これまでの傾向といい、きみたちのやり方は“僕らだけを狙っている”というより“近隣住民に被害を出さないようにしている”ように感じられるんだけど」
「光実くん。手紙にちゃぁんと書いておいたはずだよ。僕にその答えを言わせたいんだったら、僕を倒してくれないと」
一見しただけでは冷静そうに見えてしまうが、上條恭介は間違いなく“狂っている”。口調はまるで酒に酔ったように間延びしているし、よくよく見ると全身が小刻みに震えている。
かつて、使用人と親友を同時に失い、その上家の権威すら剥奪されたことで、今の上條恭介と同じような状態になってしまったとある男がいた。だが彼は、その身に宿した高潔かつ強靭な精神でそれをはねのけたのだ。
この少年に彼のような強さは望むべくもないことは分かりきってはいる。しかしそれでも光実は、眼前の少年の“弱さ”に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
「――――だいたい察しはつくけどね。おおかた、怪我で動かなくなった左手に絶望していたところにつけこまれたんだろう? 『音楽よりも楽しいことを教えてあげるよ』とでも言われたのかな」
その一言が、引き金になったのか。恭介は浮かべていた余裕ありげな笑みを打ち消し、石より冷たい無表情を顔に刻んだ。
「……弁が立つね。さすが、落ちぶれたとはいえ呉島の男か」
心が、ざわつく。
「……………僕の素性を知ってるのか?」
苛立ちの色が伺える声色で、光実が尋ねる。先程の挑発へのお返しのつもりか、恭介の台詞にはこれまでになく鋭いトゲがあった。
「僕の家もちょっとした資産家でね。お噂はかねがね。…………まぁ、もともとが強引な商法で成り上がっていったヤクザ者だったっていうし、きみのお父上の末路はある意味当然といえば当然なんじゃないかな。天誅を下したのが
恐らく、恭介としてはこれ以上ないほどの口撃なのだろう。死んだ家族の悪口を言われて冷静でいられるはずはない―――そう、上條恭介は判断していた。
だが。
「………別に。僕は父さんのことなんかどうでもいいよ。兄さんはどうだか知らないけれど、僕は呉島の権威への執着なんて無いし」
「―――なっ」
呉島光実は、呉島貴虎とは違う。父の死も、兄の大切な人たちの死も、彼にとってはどうでもいいのだ。
呉島光実にとって、大切なことはただ一つ。
かつて“世界”で一番強かった呉島天樹を、いとも簡単に、あっけなく葬った二人の暗殺者。
あの日、光実はあの顔も知れぬ二人の男女にどうしようもなく憧れた。
余人の生殺与奪を手中に収めることこそが“権力”の本質であり、それこそが求めるに相応しい本当の強さなのだ、と。
――――――――故に。
「―――上條恭介、きみは個人的な鬱憤を晴らすためにその力を使っている。僕にはそれが許せない。その力は、僕みたいな選ばれた人間だけが使うべきモノなんだ。―――お前のようなクズが、持っていていい力じゃないんだよ」
『BUDOU』
取り出した《ロックシード》を開錠し、腰に《戦極ドライバー》を装着する。迷いのない光実の手つきには、本物の殺意が込められていた。
「―――クズ、か。上等じゃないか。結局はきみも、暴力の持つ甘美な誘惑に負けたクチだろう? …………どっちが真性のクズか、この役立たずな僕の拳で、証明してあげるよ」
『KURUMI』
対する恭介も、劣らぬ狂気と殺意を全身から発しながら《ロックシード》を開錠する。
―――――見滝原でも一二を争うこの美少年二人の対決は、しかしこれ以上ないほどドス黒い醜悪な怨念と共に戦いの火蓋は切られた。
「「変身」」
『BUDOU・ARMS!
『KURUMI・ARMS! Mr.KNUCKLE MAN!!』
【第八話 使命と情と】はこれで終了です。
しばらく茶番を挟んだ後で【第九話】に入りますので、どうかそれまでご期待ください。