魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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 巴マミが見滝原を留守にし、風見野市に赴いていたその頃……。


☆閑話☆ エンジェルキリカ!

「できた………!」

 

 ついに完成した。

 

 達成感のあまりひっくり返りそうになりながら、堪えきれない笑みを浮かべて足をぱたぱたとばたつかせる。

 

 苦節二週間、時間を見つけてチクチク作った甲斐もあって、“それ”はなかなかの完成度を誇っている。作り手として贔屓目に見ているところはあるだろうが、それを差し引いても十分な出来栄えのはずだ。

 

「はぁ……喜んでくれるかなぁ……♥」

 

 

 ※※※※

 

 

 放課後の教室の一角で、わらわらと群れる女子三人衆。その中心にいたのは、まるで肌がツヤツヤとしているような錯覚すら見る者に覚えさせるほどの恋愛オーラを漂わせる暁美ほむらであった。

 

「で~? 愛しの光実クンへのプレゼントがこちらですかぁ~?」

 

「やっ、やめてくださいっ」

 

 ニヤニヤと笑いながら、ほむらの鞄の中からラッピングされた袋を取り出すさやか。慌てるほむらが取り返そうと手を伸ばすが、さやかは器用に追跡を逃れ続ける。

 

「さやかさん、あまり意地悪してはダメですよ」

 

 横からひょいと包みを取り返し、ほむらの元へと返したのは、果たして志筑仁美であった。

 

「別に意地悪なんてしてないわよっ。恋する乙女をイジってるだけじゃないの~」

 

 自分のことを棚に上げて、よくもまぁいけしゃあしゃあと。そんな呆れ顔を誰もが浮かべるが、しかしさやか本人だけは気がつかない。

 

「それにしても、ほむらさんも思い切りましたね。私もなんだかワクワクしてしまいますわ」

 

 気分が高揚しているのだろうか、少し頬を染めながら、志筑仁美がもじもじと心情を吐露する。それに釣られるようにして、ほむらの方もうつむいて顔を赤らめた。

 

 ―――ああ、光実くんは喜んでくれるだろうか。でも、プレゼントなんて恥ずかしい―――

 

 

 今この瞬間だけは、さやかもほむらも戦いを忘れていた。

 

 

「浸ってるところ悪いけど、ちょっとこっちおいで」

 

 だが、仲睦まじく語らう三人の間に、突如現れた少女が割り込んできた。着崩した制服と目の下のクマが、少女の不健康そうな印象を強めている。

 

 ―――呉キリカだ。

 

「あっ、あんた―――」

 

 思わず、さやかが仁美とほむらを庇うように構える。このキリカという少女が、登校拒否の不良学生であると知っているからだ。

 

「? キミに話は無いよ? 私が用があるのは、そっちの三つ編み眼鏡ちゃん」

 

「ほむらさんが……!?」

 

 およそ信じられないといった顔でほむらを振り向く仁美。応えるほむらの苦笑いは、どこか歯切れが悪かった。

 

「すぐに終わるから、心配しなくていいさ」

 

 他人の目というものを気にしないのか、キリカは強引にほむらの手を引いて立たせると、そのまま教室の全員から視線を集めつつ退室していった。

 

「なによアイツ、わっけわかんない!」

 

「嵐のような方でしたわね……」

 

 

 ※※※※

 

 

 渡り廊下まで引っ張り出されたところで、キリカがぱっと握っていたほむらの手を離した。独特の一挙一動もそうだが、彼女の行動はいつも読めない。《インベス》を倒すべく共同戦線をはってはいるが、それでもほむらには彼女を素直に仲間だとは思うことができなかった。

 

「んなっ……い、いったいなんなんですかっ!」

 

「ふぅ…………。ま、私もさ。このとおりの鼻つまみものだから邪険に扱われたりするのには慣れてるけど……。今回に関しては、アタシに感謝して欲しいくらいだね」

 

「な、何をわけのわからないことを……!」

 

「忠告しよう。………キミは、そのプレゼントを自力で渡すことはできない」

 

 突きつけられた突然の失敗予告。瞬間、ほむらはキリカのバックに織莉子の存在を感じ取った。

 

「そんな……! 織莉子さんの予知だって、絶対じゃありませんよ! 私はちゃんと、このプレゼントを渡します!」

 

「い~や無理だ。今日のキミの運勢は最悪。ゆえにキミがいくらその気になろうとも渡すことはできな~い」

 

 おかしな調子をつけながら、歌うように予言していくキリカ。そんな彼女の挑発的行動にさすがに怒りを覚えたのか、ほむらは歯を食いしばってキリカを睨めつけた。

 

「ふざけないで! 私はちゃんと渡します! どんな困難が待ち受けていたとしても、絶対に!」

 

 キリカの忠告を跳ね除けるように、凛とした表情で決意を新たにする。だが、キリカはそんなほむらの姿を見ながら「ふぅん」とだけ鼻を鳴らすと、一瞬にしてほむらの持っていたプレゼントの包装を取り上げた。

 

「あッ―――――返してくださいッ!!」

 

「いーやだね~っ、返して欲しかったら追いかけておいで~」

 

 捨て台詞とともに回れ右をすると、キリカは猛然と渡り廊下をダッシュし始めた。当然、ほむらもキリカを追いかける。

 

 

 

「待てぇ~~~!!!」

 

 叫びながら、ほむらがキリカを追いかける。キリカはキリカで、追いすがろうとする彼女を余裕の表情で振り返りながらさらに加速をつけていく。

 

「コラあなたたちっ! 廊下を走ってはいけませんよ! あ、それに暁美さんっ、この前の小テストの件ですが……」

 

 廊下を走る生徒がいれば、そこに教師が現れて減速を勧告するのは当然のことだ。早乙女和子は、教師としての職務を立派に務めている。

 

 だが――――――

 

「邪魔だああああ!!!」

 

「きゃうんッ!?」

 

 飛び上がったキリカによって顔面を足場に使われ、そのままバランスを崩してあえなく轟沈。

 

「ごっ、ごめんなさいっ」

 

 ほむらが倒れた担任の横を、謝りながら走り抜ける。だが当の被害者である和子女史に、もはや意識は残されていなかった。

 

「クォラァ暁美ィ! 何だその包み紙はァ! 没収没収ゥ!」

 

 早乙女先生を蹴倒してしばらく直進したところの曲がり角で、二人の前に竹刀を持った古風な体育教師が現れた。

 学業に関係の無い物を持ってきた生徒からそれを取り上げるのは、生活指導を務める彼にとって当然のことだ。彼は立派に、生活指導の職務を勤めている。

 

 だが――――――

 

「邪魔だああああ!!!」

 

「あべぇしッ!!」

 

 加速からの飛び蹴りを繰り出したキリカによって股間を見事に蹴り潰され、あえなく撃沈。

 

「ごっ、ごめんなさいっ」

 

 ほむらが倒れた教師の横を、謝りながら走り抜ける。だが当の被害者である彼に、もはや男性としての尊厳は残されていなかった。

 

「おぉ~い暁美~、見滝原中ナンバーワンのイケメンを決定するべく、アンケートに参加してほしいんだけど……って、え!? 呉キリカ!?」

 

 階段を駆け下りたところで、ボードを持った中沢とばったり出くわした。

 学友のみんなのために、女子の本音調査をすることは彼にとって当然のことだ。「どっちでもいい」なんていう誤魔化しの回答は認めない。彼は女子たちの、偽らざる本音が知りたいのだ。

 

 だが――――――

 

「イッテルミツルギスタイル!!!」

 

「ファーイ!?」

 

 突進の勢いから放たれた飛天御剣流奥義九頭龍閃の直撃をもらい、あえなく爆沈。

 

「わっ、私は光実くん一筋ですからっ!」

 

 ほむらが倒れた中沢の横を、謝りながら走り抜ける。だが当の被害者である中沢少年に、もはや返事を返すだけの力も残されてはいなかった。

 

 

 

 それから、いったいどれほどの人間を蹴散らしながら学校を駆け抜けただろう。

 

 

 

 やがて体力に限界を感じ始めた頃、キリカとほむらは昇降口に到着した。

 

「っぶはぁ、ま、待って、待ってくださいぃ……」

 

 だらだら垂れる汗に加えて、追いすがれない焦燥感から涙すら流しながら、とうとうほむらがへたりこむ。

 

「そろそろ頃合か―――――ああー疲れちゃったしどうでもよくなっちゃったなーこのぷれぜんとはきみにかえしてあげようー」

 

 まるで感情のこもっていない棒読み台詞を読み上げながら、取り上げていたプレゼントをぽいっとほむらに投げ返す。まさか本当に返してもらえるとは思っていなかったので、ほむらは驚きのあまり取り落としかけた。

 

「わっととと……って、え? キリカ、さん……?」

 

 プレゼントに意識が偏ったその瞬間をついたのか、キリカは既に影も形も見当たらなくなっていた。先程まで彼女がいた場所は、昇降口から差し込む夕日に紅く染められている。

 

「い、いったい何が………?」

 

 

 

 

「―――――ほむらちゃん、どうしたの?」

 

 

 

 

 瞬間、ノータイムで声のした方角を振り返る。

 

 声の主は、果たして呉島光実であった。

 

「あ、えと、その………」

 

 大急ぎで身繕いを整え、握りしめていたプレゼントを後ろに隠す。

 

「その……」

 

「ん?」

 

 優しげな顔で、続きを待つ光実。ほむらは彼の優しさに応えるべく、意を決して息を大きく吸い込んだ。

 

 

 ※※※※

 

 

 翌朝。

 

 お揃いの紫色のマフラーを付けたほむらと光実が、仲良く登校していく。

 

 そんな仲睦まじい二人を木の上からこっそり眺めながら、キリカは満足げにニッと笑った。

 

「………さて、次は私が勇気をださなくっちゃな。待っててくれよ織莉子……♥」

 

 呉キリカ。

 

 彼女もまた、誰かの希望のために戦う魔法少女なのだ。

 

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