人避けの結界魔術を施し、雑木林を一般人の決して立ち入れない戦場に仕立て上げたのが数分前。なんとか二人の変身に間に合わせることに成功し、サーヴァントは取り敢えず安心していた。
――――魔術。
体内の疑似神経である《魔術回路》を使用し、“世界”に刻まれた《魔術基盤》にアクセス、しかる後に発動される“神秘”の技法。
本来ならば魔術師と呼ばれる者が使う技術であるが、本来魔術師と呼ばれた者たちはとっくの昔にロード・バロンが滅ぼしてしまったし、“こちらの世界”にはそもそも魔術という概念が存在していない。恐らく《魔法少女》というこの世界特有の存在に阻まれて発達しなかったのだと推察されるが、しかし今のサーヴァントにとってその推量は不要のものだ。
要するに、魔術を使える、ないしその知識を持った人間はこの世界にも存在していないということだ。ならば、そのアドバンテージは有効活用しなければならない。かつてロード・バロンと共に魔術師たちを滅ぼした頃は、彼らの“近代知識の欠如”を利用した。しかし、今回はその逆だ。
「魔術の特性を最大限に利用し、敵を屠る――――」
敵の持たざる知識と技術を用いてこれを討つ。同じ土俵に立って正々堂々と勝負してやるつもりなど、サーヴァントは最初から持ち合わせてなどいないのだ。
※※※※
ライフルのスコープでは反射光を捉えられる恐れがある。そのため、サーヴァントは魔術による視覚強化で恭介と《演義》の戦いを見つめていた。無論、コートの下には銃器を隠し持っているのだが。
「リーマ、そちらからはどうだ」
『魔法少女が二名接近しています。あれは……暁美ほむらと、巴マミですね』
通信機越しに、別ポイントから状況を監視している相棒に連絡を入れる。返ってきた答えは、果たしてこちらの予想通りであった。
「やはり、か。佐倉杏子とその仲間たちが出てこないあたり、どうやらあちらさんもこっちの存在には感づいているようだ。ここはやはり、さやかの到着を待つより他はない」
美樹さやか。出処不明とはいえ、葛葉紘汰の力を持ったアーマードライダー。現状動かせる駒としては最強の彼女を“使う”ことに、しかしサーヴァントは一分の躊躇いも持たない。
『………サーヴァント』
「なんだい、リーマ」
『私には、魔法少女の殲滅というあなたの方針が全面的に正しいとはどうしても思えない。確かに全ての魔法少女には、槙島聖護の管理下にあるかもしれないという危険がつきまとっている。だがこの状況そのものが、槙島の狙いということも有り得る』
「なるほど。確かに僕らが潰し合っているこの状況こそ、奴の狙い通りなのかもしれない。お互いの意識がお互いにしか向いていない今、側面から奴に叩かれたらひとたまりもないだろうね。………けど」
雑木林の戦いを視界から外すことなく、しかし思考を展開させてリーマに受け答える。普段あまり器用なタチではないサーヴァントだが、張り詰めた空気の中ではまったくの別人であった。
「僕らが餌に釣られたと勘違いしてまんまと誘われて出てきてくれれば、それこそ願ったり叶ったりだ」
『つまり“魔法少女を殲滅する”という今の方針そのものがブラフである、と?』
「敵を欺くにはまず味方からってやつさ。きみも陰謀蠢く《陸》の生まれなら、せめてそれくらいの知恵は持っておかないとね」
『馬鹿にして……!』
通信機越しにも、リーマの苛立ちが伝わってくる。しかしサーヴァントはそれには取り合わず、何食わぬ顔で戦況の監視を続行した。
※※※※
―――――――状況に変化が訪れた。
暁美ほむらが現着したのである。
「………ここまでか。さやかはどうした?」
『ベローズたちによると、こちらに向かっているとのことです。到着まで、残り五分ほどとのことで』
「上條恭介はまだ切るには早いカードだ。……潮時か。迅速に撤退を――――」
言いかけ、しかしその先を口にすることなく唇を一文字に引き結ぶ。
『どうしました? サーヴァント』
「これよりの指揮はきみに委ねる。………どうやら、僕は魔法少女を甘く見すぎていたようだ」
『ちょっ、待ちなさ』
リーマの抗議にも聞く耳持たず、通信機をそのまま放り捨てる。
「―――いいの? 援護を呼ばなくって」
音もなく、木陰から眼帯の少女が顔を出す。凶悪な爪と派手な衣装から察するに、十中八九魔法少女だろう。
「私の気配にギリギリで気づけたところは褒めてあげるけど、その判断はいただけないなぁ。分かってるよね。私、魔法少女だよ?」
自身に満ちた言動に開きっぱなしの瞳孔。この眼帯の少女の実際の強さの程はさて置くにしても、暁美ほむらや巴マミとは全く毛色の異なる魔法少女であることに間違いないようだ。
「…………無視っすか。あ、ニポンゴワカラナイ? アイム キリカ=クレ。フーアーユー?」
「…………」
…………殺意を全開にしておきながら冗談をかましてくるあたり、どうやらマトモな神経は期待できそうに無い。
サーヴァントは無言でコート裏から短機関銃を取り出し、発砲した。
※※※※
「ちょっちょっちょっちょっちょ!?」
織莉子からの言いつけ通りに意思疎通を試みた結果、まさかの機関銃乱射。両手に備えた爪と速度低下魔法で弾丸を凌ぐが、どうにも先手を取られた感が否めない。
「チィ――――!」
このままリロードの瞬間を待ち続けるのもいいが、いくら速度低下を使っているとは言っても機関銃の弾丸を裁き続けるのには無理がある。キリカは銃に詳しいワケではないが、眼前の男が使っている短機関銃の形状からして装弾数がかなり多い部類であることに気がついていた。
ゆえに、肉を切らせて骨を断つ。
弾丸のダメージは覚悟の上。キリカは爪による防御を解き、懐に飛び込んだ。
「ぐっぐうぎぎぎぎいぎぎいっぎ…………!!!」
腿を、肩を、骨盤を、弾丸の雨が容赦なく抉り抜く。
運動に支障をきたさない程度に痛覚遮断をかけてはいるが、それでも弾丸をばらまく機関銃に真っ向から立ち向かうのはさすがに愚かだったかもしれない。だが、ヒトならざる身であるからこそ、この境地に到れるのだ。最低限の回避行動を取りつつ、敵が対応しきれない距離まで接近する。
3メートル。まだ足りない。
2メートル。ソウルジェムに被弾しかけたが、左手を犠牲になんとか庇いきった。
―――――1メートル。
―――――――間合い! 殺った!!
確信と共に、必殺の爪を繰り出す。
生身の人間がこれを食らってタダで済むはずが無い。
だが、速度低下魔法によって極限まで時が引き伸ばされた刹那の中、キリカは確かに聞いた。
眼前の男の、確かなその
「