魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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戦うと決めたから

 校門から飛び出すと、見知った人物が悲痛な面持ちでこちらを待っていた。

 

「…………ベローズさん……」

 

 慌てて涙の跡を拭いつつ、ベローズのもとに駆け寄る。この二人ならば、恭介の居場所を知っているはずだ。

 

「―――教えてください。私、恭介のところへ行かなきゃいけないんです」

 

「サヤカ、それは……」

 

 口ごもるベローズ。さやかの目の下に見られる涙の跡が、彼女の決意を揺らがせる。

 

 上條恭介がアーマードライダーになってしまったことで、今のさやかには心理的な余裕が失われている。これ以上の負担をかければ、彼女はきっと壊れてしまう。

 

 だが、いつかは言わなければならなかったことだ。

 

 躊躇いを振り払い、拳を握り締める。

 

「サヤカ、私は今まで、あんたに黙っていたことがある。………魔法少女のことだ」

 

「え…………」

 

 ベローズの予想外の言葉に、少しだけ面食らった表情を浮かべるさやか。

 

 ――――このいたいけな少女に、更なる心の傷を負わせなければならないのか。

 

 ベローズは少女のいたたまれなさと罪悪感に身を裂かれそうになりながらも、続く言葉を口にした。

 

「魔法少女が私たちの世界を襲った。だから私たちは、魔法少女がもう私たちの世界に来れないようにするためにこっちの世界にやって来た。ここまではいいね?」

 

「え……うん」

 

「だが、状況が変わっちまった。私たちの世界からやって来た大悪人が、この世界の魔法少女を支配しようとしていることが分かったんだ。だから私たちは、魔法少女が良い奴か悪い奴かっていうのとは関係無く、魔法少女を倒さなくちゃならなくなった」

 

「………大丈夫だよ、ベローズさん。私は恭介のためなら、どんなことだってするって決めたから」

 

「それが! 友達殺しだったとしてもか!!」

 

 静寂が訪れる。暗くなりかけだった空は本格的に闇色に染まっていき、背後の見滝原中学校校舎がぼんやりと浮かび上がる。

 

「…………どういう、こと?」

 

「―――――」

 

 唇を噛み切り、必死に耐える。今のベローズに、この続きを語る勇気は残されていなかった。

 

「…………もしかしたらって、想像してたから。………ベローズさんが言えないなら、あたしが当てる」

 

 ―――――――今、何と言った?

 

「ま、待て、サヤカ」

 

「ほむらと………巴マミ、先輩。そうでしょ?」

 

 ――――きっと、魔法少女の話をした時から薄々わかっていたのかもしれない。

 

 寂しげな笑みを浮かべるさやかに、ベローズはたまらず涙を流して声を荒げた。

 

「どっ……どうして、そんなにあっさりしていられるんだよ! 大切な友達だったんだろう!?」

 

「だから、だよ。見ず知らずの赤の他人だったら、私は今の決意を維持できないと思う。………でも、ほむらが相手だったなら、私、きっと戦えるよ」

 

「だから、どうして!?」

 

「ほむらなら、きっと分かってくれるから。私の親友だし」

 

 それは、ゾッとするほど穏やかな笑みだった。

 

 友と殺し合わねばならない現実を前にして、しかし美樹さやかはあまりにも泰然としすぎている。これでどうして、眉一つ動かさずにいられるのか。

 

「分かってるのかさやか! 場合によっちゃ、あんたは友達を殺さなくちゃならないんだぞ! いや、十中八九そうなると言ってもいい!」

 

「そうはならないよ、ベローズさん。私は恭介を助けるために戦う。ほむらは魔法少女の命を守るために戦う。………ほら、どこにも殺し合わなきゃいけない理由なんてない」

 

「サーヴァントは違う! 奴は魔法少女全てを始末するつもりだ!」

 

「その時が来たら、私はサーヴァントと戦う。恭介を救って、魔法少女を助けて、ベローズさんたちの世界とこの世界との繋がりを断ち切る。………私のやることは、ようするにそれだけのことなんだよ」

 

 ―――――――それは、無理だ。

 

 ―――――――すべてを救うなんてことはできない。

 

「んなこと、奇跡か魔法でもない限り……」

 

 最大多数の幸福のため、この戦いにはどうしても犠牲がいるのだ。それは上條恭介であり、魔法少女であり、ガルガンティア船団でもある。いずれにせよ、美樹さやかがいくら足掻いたところで全てを救うことなんてできはしない。

 

 ――――――――なのに。

 

「あんた、本気なんだね」

 

「うん。奇跡も魔法も無くたって、みんなを救える道はきっとある。だからベローズさん―――お願い。力を貸して」

 

 差し出された手は、幼く、脆く、だけど何よりも力強い。

 

 

 

 きっと、美樹さやかはこの決断を後悔するだろう。誰も彼もを救い、ハッピーエンドを迎えるなんてことは絶対にできない。二つの世界を股にかけた壮大な陰謀の渦巻く泥沼は、少女の願いすらも容易く飲み込んでしまうだろう。

 

 だがそれでも、と。ベローズは思ってしまった。

 

 闇の中で何よりも強く輝く希望の星を、この少女に見てしまった。

 

 

 

「…………厳しい戦いになるぞ」

 

「分かってる」

 

「この戦いの根は、多分あたしやあんたが考えてるよりもずっと根深い。それでも最後まで戦い抜くと誓えるか?」

 

「私は私の為に戦う。私が信じた希望の為に。……私が望んだ、結末の為に」

 

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