「あああっぐ、あぁ、あああぁぁあああ!!!」
狂った雄叫びをあげながら、全身の筋肉を総動員して立ち上がる。だが、既に上條恭介に戦う力は残されていなかった。
「いい加減にして……っ!」
眉間にしわを寄せながら、ほむらは構えた弓に魔力の矢をつがえた。生半可な攻撃では通じないというのであれば、もはや全力攻撃を浴びせるより他ない。
光実もまた、チャクラムを構えて斬りかかる体勢を整える。既に彼の脳内に、上條恭介を生かして捕らえるという発想はこれっぽっちも残されてはいなかった。
「ほむらちゃん、同時攻撃だ。………奴はもう駄目だ。殺すしかない」
「っ………!」
―――――五回。
上條恭介が光矢を正面からくらい、地面に崩れ落ちた回数。
その度に二人は、彼に逃走のチャンスを与えた。
その全てを無為にした以上、もはや彼に生きてこの場を逃れる意思は無い。
「猶予は与えた。それを捨てたのはお前だ! …………上條恭介、ここで死ね!!」
『KIWI SPARKING!!』
最大出力のエネルギーをチャクラムに充填し、必殺の一撃への予備動作を完了させる。あとは、あの狂える拳闘士に引導を渡すだけだ。
「せっかく………ッ! せっかく力を手に入れたんだッ………! こんなところで死ねるものか………ッ!!」
『KURUMI SPARKING!!』
対抗するべく、恭介も自らの必殺攻撃に希望を託す。だが悲しいかな、ロックシードにもレベル差が存在する以上、《クルミ》では《ブドウ》に対抗できないのだ。
「ああああああああッ!!!」
「――――――――――ッ!」
雄叫びと共に拳を突き出し、必殺の鉄拳を発動する。だがその発生よりも一瞬早く、光実はチャクラムに全エネルギーを託して投げつけた。
「―――――アアッ!?」
対向射線上の空飛ぶ鉄拳を切り裂き、飛来したチャクラムが恭介の体を《クルミアームズ》ごと切り裂く。さらに追い討ちをかけるようにして、ほむらの矢が次々に殺到。チャクラムの一撃で砕けた《アームズ》もろとも、恭介の身体は吹き飛ばされた。
「ギイイィイィッ、あああッ、あああああああああ!?」
ついに変身が解除され、傷だらけの生身が丸出しになる。チャクラムの直撃を受けた肩や、ほむらの矢で射られた腹と胸部に生々しい火傷跡が残り、今の上條恭介はこれで気絶していない方がおかしいと言わんばかりの痛々しい様相を呈していた。
「死ねない、まだ死にたくない、僕は、ぼくはまだ、ああぁああああぁっぁ………」
患部を掻きむしりながらとめどなく涙を流し、痛みにのたうちまわる恭介。だがそれもあと数秒のこと。やがて出血多量で痛みに悶えることすらできなくなる。
「………ほむらちゃん。アイツを哀れと思うなら、もうここで始末してやったほうがいいと思うんだ」
もはや気力だけで生にしがみついている今の上條恭介に、これ以上の苦痛を与えるのは光実としても不本意だった。彼に対する憤りこそあれど、呉島光実に拷問趣味は無い。
「………っ」
しかし、ほむらはただ黙って首を横に振ることしかできずにいた。親友の想い人をここまで追い詰め、さらに命すらも奪わなくてはならない――――そんな現実を容認できるほど、暁美ほむらは残酷になりきれなかった。
「…………もうやめましょう光実くん! もうここまでです! あとは私たちで……」
「捕縛して、どうするっていうんだ。コイツはもう狂っている。その上、コイツはこっちの世界に首を突っ込みすぎた。………だから、コイツはもう救えない。救う義理もない。だったらもう、やることは一つだ。そうだろ?」
返す光実の瞳は完全にすわっている。それはもはや、十四歳の少年の目ではなかった。
「それでも殺人は殺人です! お願いです光実くんやめてください! さやかさんが知ったらどんなに悲しむか……!」
必死に助命を嘆願するほむらだが、光実の瞳は揺るがない。いったい何が、彼をここまで頑なにしてしまったのだろう。
「お願い、誰か止めて……!」
絶望のあまりに涙すら流し始めたその時―――――
「―――――――大丈夫だよほむら。恭介は殺させない」
ふわり、と薫る風。
思わず声のした方角を振り返ると、そこには見知った少女が微笑を浮かべて佇んでいた。
「さ、やか……?」
「さやかさんっ……!」
「美樹さやか、だと……!」
暗い声で憎々しげに呟く光実。彼の視線は、さやかの腰に巻かれた《戦極ドライバー》と手に握られた《L.S.-07》に向けられていた。
「お前が、あの時の橙色のアーマードライダーだったとでもいうのか……!」
「ってことは、あんたがあたしをコテンパンにしてくれた紫のアーマードライダーか。………声とほむらのセリフからして、呉島光実くん……でしょ? いやー、世間は狭いねっ」
「………上條恭介をこちらに引き渡してもらおうか」
「それはできない。あたしは、恭介を助けに来たんだから」
迷いはない。これから歩んでゆくだろう戦いへの覚悟はとうに済ませている。
だから今、万感の思いを込めて。
「―――――――変身!」
『ORANGE LOCK・ON! ソイヤッ!』
風がいななき、舞う粉塵と橙色の光の粒子が少女を包み込むようにとぐろを巻く。それは、少女の戦極ドライバーに集中する膨大なエネルギーによる大気の震えを示唆している。
『ORANGE ARMS! 花道、ON STAGE!』
そして全ての変身シークエンスが完了すると、戦極ドライバーの名乗り音声と共に、さやかは橙色の鎧武者―――《鎧武》に変身した。
「ここからは私のステージだッ!!」
※※※※
「……
遠目に戦場を観察していたリーマに戦慄が走る。すると、そこに注釈を加えるかのようにベローズが現れた。さやかを戦場に送り届け、自身はリーマの元へやって来たのである。
「驚いたかいリーマ。あれが、サヤカの力さ」
「伝説の戦神の力……あんなものを、彼女が持っていていいのですか!?」
「いいんだよ。恋する乙女は無敵なのさ」
どこか嬉しそうな顔で言うベローズに、しかしリーマは複雑そうな表情を向ける。
「なんだ、リーマ」
「私は……私は《陸》の人間です。サーヴァント個人は私だって嫌いですけど、それでもあの男は私たちに必要な人間なんです。もしさやかさんが、鎧武が敵になった、その時は……」
「分かってるさ、リーマ。もうあの頃には戻れない。お前のやりたいようにやりなよ」
ベローズの言葉が、優しい瞳が、リーマの幼い心を締め付ける。使命と情の間で揺れ動く少女の心は、既に限界に達しつつあった。
――――だが。
「……分かりました」
適合者に選ばれたその日から、この心は既に決まっている。《L.S.DARK》を握り締め、リーマは苦渋の決断を下した。