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かつてサーヴァントが人間だった頃、《魔術協会》に保管されていた封印指定魔術師である衛宮矩賢の《魔術刻印》を使って復元した、かの《魔術師殺し》衛宮切嗣の切札の再現。
衛宮の家伝である「時間操作」の魔術を戦闘用に応用したもので、本来儀式が煩雑で大掛かりである魔術であるのだが、“固有結界の体内展開を時間操作に応用し、自分の体内の時間経過速度のみを操作する”ことで、たった二小節の詠唱で発動を可能とし、戦闘時に用いている。
故に、呉キリカの《速度低下魔法》とは相性最悪。倍率さえ合えば確実に相殺可能という、キリカの切札を潰す最悪の魔術なのである。
「クソクソクソクソクソ………! やぁってくれるじゃないかぁ~~!!」
木陰に身を隠しながら、ケタケタと狂った笑い声をあげるキリカ。《速度低下魔法》による鈍速化が通じず、爪による近接攻撃をしようにもあの機関銃が相手では手の出しようもない。
弾丸の雨に晒されたせいで片腕と片足を喪失しており、脇腹もからっ風が通り抜けるようになって久しい。《ソウルジェム》さえ潰されなければ不死身である魔法少女の特質に、キリカは素直に喜ぶと同時に口惜しさを覚えた。
「くそ、これで私が治癒魔法さえ得意ならこんなコトには……」
呉キリカにとって、治癒魔法は致命的なまでに不得意な領分だった。
元来が、《速度低下魔法》と高い機動性にのみ特化していた魔法少女であるが故に、それ以外の魔法についてはとことん疎いのである。そもそも《魔獣》戦においてここまで傷つけられること事態が起こりえないため、必要にも迫られたこともそもそもなかったのだ。
「こりゃ詰んだかな……。いやいや、なんとしてもここは勝たないと、織莉子に見せる顔が無い! 頼むよ恩人……!」
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一方、サーヴァントはサーヴァントで懸念があった。これまでの潜伏期間の間、その存在すら確認できなかったあの魔法少女の存在そのものだ。幸いにして相性が良かったためにこうして撃退もできたが、見滝原市に潜伏している魔法少女は暁美ほむらと巴マミのみであるという認識は改めざるを得ない。反則級の魔法を使う、まだ見ぬ強敵が控えているかもしれないからである。
そして更に恐ろしいのが、未だ姿を見せない魔法少女が槙島聖護の支配下にあるかもしれないという可能性だ。オーバーロードとしての真の力を発揮すれば余程のことがない限り負けない自負はあるものの、それでも魔法少女の持つ魔法の先鋭的な運用には舌を巻くものがある。先程のクレ・キリカにしても、
いかに身体がオーバーロードであるとはいっても、《世界》からの修正力による反動はやはり芯に響くものがある。ダメージを即時再生してくれるようなリジェネ効果付きの礼装か何かがあれば解決する問題だが、しかしサーヴァントはこれ以上の無い物ねだりは無駄であると判断して思考を打ち切った。
キリカの追撃にあたってもいいが、ここでみすみす飛び出していくほどサーヴァントという男は愚かではない。戦場において、生き延びるために常に求められたのは勇敢さでは無く臆病さだった。
――――だから、戦場に新たな脅威が現れればすぐに気がつく。
この、自分を少しも隠そうともしない、圧倒的な自身に溢れた強烈な気配――――
「―――――巴マミ、か」
「あら、お名前を知ってくれているなんて……私のことは調査済みってわけかしら?」
丁寧な口調の裏にほのかな毒を滲ませつつ、無数のマスケット銃を召喚しながら木の上から現れたのは、見滝原最強の魔法少女、巴マミであった。わざわざ高いところにある太い枝の上に立っている辺り、自身の存在をアピールしてキリカから注意を遠ざけようとしているフシがある。………単なる格好つけ、と取れなくもないが。
「私が来たこの状況が解せない、といった様子ね。魔法少女同士はテレパシーによる念話が可能なのよ」
「…………」
「だんまり、か…………。その機関銃、《キャリコM950》かしら。とにかく弾をばらまいてこちらを近づけさせないのが狙いと見たけれど……銃撃戦なら、千の銃を一度に放てる私の方が格上よ」
正面から戦えば間違いなく潰される、圧倒的物量差。これが、巴マミ最強の所以である。
「今ここであなたを蜂の巣にすることが、いかに容易いか分かるでしょう? ………みっつ数えるうちに、武器を捨てて、両手を頭の後ろに組んで。――――ひとつ!」
降伏を促すカウントが始まり、同時にマスケット銃たちの撃鉄が下ろされる。二秒後、サーヴァントが降伏していなければ一斉にその引き金が引かれるだろう。
「………」
あくまで沈黙を通しつつ、しかし《キャリコ》を放り捨てる。無言ではあるが、取り敢えずサーヴァント恭順の意を示した―――――――
―――――そう判断した思考を、マミは直後、改めることになる。
https://www.youtube.com/watch?v=_Ma0z3wMBpM
「――――『告げる』――――」
「!?」
突如、サーヴァントが左手を掲げて呟いた言葉。ざわつく胸の中で、マミはかつてない悪寒を感じていた。
「――――『汝の身は我に、汝の剣は我が手に、知恵の実のよるべに従い、この意この理に従うならば応えよ』」
「何をしているの!? すぐにやめなさい!!」
圧倒的な
「『誓いをここに、我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』」
「やめなさい!! さもないと――――」
「『汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手』――――」
阻止しなければならない。この魔術だけは、なんとしても。
しかしマミがその結論に至り、マスケット銃の引き金を引いたのは――――――
「――――『
―――――――些か以上に遅すぎたと、言わざるを得ない。