魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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生ける屍

「………はっ!?」

 

 意識の回復とほぼ同時に、寝かされていたソファから飛び起きる光実。全身の包帯やバンドエイドが、自身が気絶したあと誰かによって介抱されたことを物語っている。未だおさまらない頭痛に顔をしかめつつ、しかし光実はなんとか現状を把握しようと眼球をスライドさせた。

 

 左右には、自身と同じくソファに寝かされた上條恭介と金髪の外国人少女。そして前方には、どこか白々しい微笑を浮かべてこちらを見つめる美国織莉子の姿があった。

 

「おはようございます。以外に早い回復で驚きました」

 

「ここは………? それに、今何時ですか」

 

「ここは私の家で、今の時刻は21時です。あなたは、およそ4時間ほど気絶していました」

 

 ――――そんな引き算、小学生だって計算できる。

 

 織莉子の態度に言い知れぬ苛立ちを覚えながら、ゆっくりと立ち上がる。しかし体にはまだ負荷が大きかったのか、視界が霞むと同時にガクッと膝を折ってしゃがみこんだ。

 

「だ、大丈夫~っ!? まだ寝てなきゃ駄目だよっ! ゆまちゃん手伝って!」

 

「はいっ! ゆまにまかせて!」

 

 巴マミが風見野市でスカウトしたという助っ人の青年が、織莉子の脇をすり抜けて幼女をお供にこちらに駆け寄ってくる。ナヨナヨとした態度が少々カンに障ったが、見た目的に歳も上のようなので、光実は強く出ることができなかった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いいよ~気にしないでっ。ボクの役目は、こうして頑張ったきみたちを介抱することだから」

 

 穏やかな笑みを浮かべて光実を再びソファに寝かせる青年。確かウォレスとかいったか……先日マミから紹介を受けた時のことを思い出しながら、ウォレスの傍らにいる少女に目を向ける。

 

「傷は魔法でなおしたのに……つかれてるのかなぁ?」

 

 ソウルジェムを発光させて患部を撫でてくるこの魔法少女……千歳ゆまも、ウォレスと同じく風見野からの助っ人だ。戦闘能力はほむらより低いが、こういった支援に光るモノを感じる。

 

「ゆまちゃん、傷は大丈夫。ウォレスさんも、僕より他の人のところへ……ッ!」

 

 脳裏によぎった少女の顔が、光実から続く言葉を奪った。

 

「み、光実くん?」

 

「ウォレスさん、マミさんとキリカが、それに、ほむらちゃんが……!!」

 

 どうして今まで気にならなかったのか。突如現れた黒いコートの男……あいつのせいでマミとキリカは連れ去られ、ほむらは眉間に弾丸を撃ち込まれた。

 

「畜生ッ……! 目の前で、目の前で殺された……! 何もできなかった……!!」

 

 ハイになっていた感情が一瞬で冷却されるあの感覚―――ウォレスとゆまを押しのけて、織莉子の肩を握り潰さんばかりの勢いで掴みかかると、光実は憎悪にかられた醜悪な表情で織莉子を睨みつけた。

 

「光実くん、落ち着いて」

 

「あいつ、あいつだ! あの黒コート……! あいつがピニオンたちを操っていた黒幕だったんだ! 美国先輩、奴を追わないと……!」

 

「今、佐倉さんと江蓮さんが追撃しています。光実くん、今はゆっくり休んでいてください」

 

「ッ……! せめて、今どんな状況なのかだけ、教えてください」

 

 はやる気持ちを抑え、努めて冷静に振舞う。そんな光実の努力に応えてか、織莉子はウォレスとゆまにアイコンタクトを送って部屋から立ち退かせ、二人きりの空間を作った。完全に二人だけ、というわけではなく、光実のようにここへ運び込まれた金髪の少女と上条恭介が、横で眠っているのだが。

 

「まず、巴マミとキリカ……。二人はあの黒コートの男に拉致されたわ。途中まであの橙色のアーマードライダーが追っていたみたいだったけれど、事前に配置しておいた江蓮さんと杏子さんに今は追跡してもらっている。そちらに関しては、二人の報告待ちね」

 

「……」

 

 ウォレスたちの退室から間もなくして、織莉子が淡々と状況を述べる。疑問はいくつか挟まるが、光実は取り敢えず今のところは聞きに徹することにした。

 

「暁美ほむらに関しては、頭部に撃ち込まれた弾丸を現在摘出中よ。それさえ終われば、ゆまちゃんの魔法で一応の蘇生は完了するわ」

 

「………は?」

 

 いくらなんでも。いくらなんでも、それはおかしい。

 

「ちょっと待ってください! ほむらちゃんが、助かる? そんな馬鹿な! 完璧にヘッドショットを決められていたはずだ!」

 

「あら、あなたにとっては吉報だと思ったのに……ご不満かしら?」

 

 これだ。いつも感じていた、何かを隠されているような感覚。この美国織莉子という少女は、いつだって自身とそれ以外の人間の間に鉄のカーテンを敷いていて、本心を決して悟らせようとはしない。

 

「………素人目に見たって、あれは即死だった。心肺も停止していた。それがどうして治るんだ。ゆまちゃんが、死者蘇生の魔法を使えるとでもいうのか?」

 

 もちろん、ほむらが助かるというのはこの上なく嬉しい。だがその助かる、というのがどういった意味で言っているのか分からない。

 光実はおのが胸中に湧き上がる疑問と猜疑心を、隠すことなく直球でぶつけた。

 

「………あの子の治癒魔法は優秀よ。でも死者を生き返らせることは、どんな魔法少女にもできないわ」

 

「じゃあ、ほむらちゃんはあの時死んでなかったとでも!?」

 

「いえ。……正確に言うと、人間としての彼女はひと月ほど前、既に死んでいる」

 

「……? なに、を」

 

 何を言っているのか。

 

「全てを教えます。魔法少女の契約とは――どういったモノなのか」

 

 これまでとは比肩もできぬほどの、圧倒的な圧力―――美国織莉子という一人の少女から発せられているハズのそれは、まるで過去現在未来すべての魔法少女の怒りと悲しみを濃縮したもののような感じがして、光実は声にならない悲鳴を喉奥で鳴らした。

 

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