「私たち魔法少女は、キュウべぇとの契約によって魔獣と戦う使命を受け入れた存在……そのように認識しているわね」
「……うん」
確認する織莉子に、首を縦に振って応える。織莉子の方を恐る恐る覗くが、光実からは彼女の表情が陰になっていて見えなかった。
「でも、魔法少女と人間を分ける線引きは、具体的には何なのか。分かるかしら」
「………《ソウルジェム》です」
「そう。ではその《ソウルジェム》とはそもそも何でしょうか?」
「美国先輩」
これ以上、彼女の冗長な演説を聞くつもりはない。苛立ちの篭った声で本題に入ることを急かすと、しかし織莉子は寒々しい声音で静かに告げた。
「それは、契約した少女の魂よ。キュウべぇ……いえ、インキュベーターは、契約した少女の魂を抜き取って《ソウルジェム》という固形物に具現化させていたの」
…………。
……………………。
……………………………………………。
………………………………………………………………………は?
美国織莉子の告げた言葉に、これまで積み上げてきたあらゆるモノが瓦解する感覚を味わう。
魔法少女は人間ではない。
魔法少女は人間ではない。
魔法少女は………暁美ほむらは、人間ではない。
温かみに溢れた笑顔も、優しさゆえの涙も……そこにあると思われた何もかもが。
血の通わない、死者のモノだとでも言うのか。
「じゃあ、残された肉体は」
「肉体はタダの行動端末よ。魔法少女にとって本体は、魂の具現であるこの《ソウルジェム》。脳を割られようが心臓を破られようが、《ソウルジェム》さえ健在ならば私たちは何度でも蘇る。そんな私たちを最も言い表しているいい表現があるとしたら……そうね……『生きているふりをし続ける死体』………ってところかしら」
「じゃあ、《ソウルジェム》が壊れたり、《穢れ》が許容量を超えたら……!」
「………死ぬ」
垂れた前髪の奥で、戦慄と慄きのあまり瞳孔が開く。守ってくれた、守ろうとした彼女たちの正体が、ヒトのカタチを偽装した、正真正銘の怪物だと知って。
「見て」
呼吸も忘れて座り込む光実にさらなる追い討ちをかけるかの如く、織莉子が自らの《ソウルジェム》を差し出す。
白亜に染まり、鈍く輝く魔法の源―――《ソウルジェム》。だがこれは同時に、この美国織莉子という少女の成れの果てでもある。
「これが私。………魔法少女と呼ばれる、おぞましい怪物の正体」
こんな、こんな石ころが、人間だとでもいうのか。
「………ほむらちゃんやマミさんも、このことを承知の上で?」
だが、それゆえに違和感もある。織莉子の話が本当のことだとして、それをほむらとマミがこれらの事情をおくびにも出さずにこれまで振舞っていたというのはどうにも不自然だ。
特にほむらは、契約からまだ間もない新米魔法少女。魔法少女の正体を知った上で契約したと仮定すると、彼女の人間性との間に矛盾が生じてしまう。
「ほむらちゃんを馬鹿にしてるわけじゃないけど、あの娘がこの事実を受け止めてなおあんな風に振る舞えるとは僕には思えない。《ソウルジェム》が本体って話、作り話じゃないですよね?」
「誓って真実よ」
「なら、キュウべぇに騙されている?」
「多くの魔法少女はそうね。そして、真実にたどり着くよりも先に寿命を迎える」
「それなら合点がいきます。……美国先輩。このことはくれぐれも」
「分かってるわよ。私が把握している限り、見滝原でこのことを知っているのは私とキリカ、そしてあなただけだわ」
「………正直に言えば、知りたくありませんでした。こう言うのもおかしいですけど、なんだか裏切られたような気分です」
ため息をつきながら、震える手で頭を抱える光実。その顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうだ。
「裏切り……それは、誰が誰に対して?」
「言わせないでくださいよ。僕の勝手なエゴです」
なおも意地悪い問いかけをしてくる織莉子にぴしゃりと言い放ち、軽く睨みつける。充血した光実の瞳は、軽く睨みをきかせただけでも相当な緊張感を孕んでいた。
「……で、どうして僕に打ち明けたんですか?」
ショックはある。動揺も隠しきれない。だがそれだけに引きずられる程、感情的な生き方はしていないのがこの呉島光実という少年だ。ある意味、冷血人間ですらある。
だがそんな光実すらも超える冷血人間ぶりを見せつけるように、織莉子はさらりと言ってのけた。
「あなたには、キリカの代理パートナーになって欲しいのよ」
「……………駒、ではなく?」
「パートナーよ。あくまでも対等な、ね」
冷ややかな笑みを浮かべて、織莉子がのたまう。光実は底冷えする何かを感じて僅かながらも芯から震えた。
「さっきの《ソウルジェム》の話は、対等なパートナーになるための第一条件……ってことですか?」
「ええ。お互い隠し事は無い方がいいと思って」
―――タヌキ、いやキツネ……それともネコ? いずれにせよ、化生の類に違いない。
本音を言わず、かつ悟らせぬように振舞う織莉子の姿に、思わず迷信めいた戯言を心内で呟く。それと同時に光実は、真に恐るべきは敵ではなく、この白い魔法少女なのだと確信した。
「―――化かし合いは御免ですよ」
「あら、失礼ですこと」
……食えない女だ。
光実は素直にそう思った。
ほむらルート、マミルートに引き続き、今度は織莉子ルート攻略です。
意図していたわけではありませんが、どうも僕の書くミッチはハーレム系主人公の素質があるようですね。
まぁ、ハーレム展開の予定はありませんが。