魔法少女まどか☆マギカ[異編]禁断の物語   作:榊原啓悠

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心配性兄さん

 魔法少女の真実。美国織莉子の罪。攫われたマミとキリカ。傷ついた杏子とほむら。

 

 まともに戦える人間が自分だけというこの状況で、いつあの黒コートの男が逆襲をしかけてくるか分からない。そしてその時こそ、本当にやられてしまう気がする。

 

 ………だから、正直に言えば家には帰りたくなかった。

 

 憂鬱な面持ちで呉島家の玄関を睨むこと数分、光実はぐちゃぐちゃの思考で悶々と兄への言い訳を考えていた。

 

「取り敢えず、今日は家に帰りましょう。佐倉さんや暁美さんのことは家主である私が責任をもって看病するわ。みんなも、家に帰って存分に体を休めて頂戴」

 

 などと織莉子はのたまっていたが、そもそも帰る家のない江蓮たち風見野組はあのまま残っていたし、医者としての仕事を果たすためとかなんとかで匂坂郁紀もまだ残っている。結局、家に帰らされたのは光実だけであった。

 

「パートナー認定してもらったのに……まぁいいか」

 

 確かに見滝原を守るための戦いは大事だが、各自の私生活も同様に守るべきものなのは間違いない。

 

「ただいま……」

 

 小さな声で挨拶しながら、そっと戸を開ける。

 

「……………分かるな?」

 

 玄関には、凄まじい気迫でこちらを睨みつける兄の姿があった。

 

「……分かりたくもないけど」

 

「光実ェ!!」

 

 一喝。呉島貴虎の強烈な気迫が一気に解法され、思わず光実も後ずさる。

 

「いいか光実、確かに私はお前に自由な暮らしをして欲しいとは思っている。だから普段家事を任せっきりにしてしまってロクに部活動にも入れてやれなかったことにも反省はしている。しかしこういう、私に無断でこんな遅い時間まで外をほっつき歩くのは絶対に許さんぞ! 子供の自主性を尊重するのも確かに結構なことではあるが、それはあくまで守るべき規範というものが備わっていることが必要最低限の条件だ! 深夜徘徊ダメ絶対。模範的市民として、それぐらいのルール、いや規範を守ることは当然の義務だ! 何かいろいろと事情があったのだろうが、それにしたって私に一言相談してくれるのが筋というものだろう。車にはねられたり、不審者に襲われたりしているかもしれないと心配するこっちの身にもなれ! お前は昔から好奇心が強すぎる。私にはそれが心配で………って、どこに行くんだ光実!」

 

「風呂だよ! 兄さん話が長いからあとにして!」

 

「いーやあと二ページはやるぞ。そもそもだなみつ……っておい、待て!」

 

 

 ※※※※

 

 

〈光実くん、お風呂に逃げ込んじゃいましたね〉

 

「どうして分かってくれないんだ……」

 

 椅子に座ってがっくりと項垂れる貴虎に、まどかが傍らに腰掛けて寄り添う。不良息子の教育に悩む夫婦といった感じの情景だ。

 

〈光実くんって、いつもはこんな感じじゃないんですか?〉

 

「ああ。あいつはいつも日が暮れるより早くちゃんと帰ってきてたし、そうでなくても連絡は欠かすことが無かった。こんな風に、無断で深夜まで外を出歩くなんてことは今まで一度も……。タダでさえ、今夜は大変だったというのに」

 

〈さっきお向いのおばちゃんが教えてくれた、バイク暴走事件ですか?〉

 

「それもある。だがそれ以上に懸念されるのが、きみの言っていた魔法少女と魔獣の戦いのことだ。正直言って私も信じきれてはいないのだが、そういう連中の争いに巻き込まれてしまうんじゃないかと思うと、な……」

 

〈ごめんなさい。今の私は力が弱すぎて、近くの魔法少女や魔獣の気配すら探知ができないんです。だから……〉

 

「構わないさ。葛葉紘汰の捜索は仕事の合間に足を使って調査しているし、今のところ魔法少女とやらにも会ったことはないじゃないか。無論、魔獣やインベスなどといった化生の類はなおさらだ」

 

〈はい………〉

 

「だから余計に不安になる。私たちがまだ見つけていないというだけで、この世界に何か異変が起きているんじゃないか。そしてその異変に、光実が巻き込まれているんじゃないか………と」

 

〈確かに心配ですね……。魔法少女だけじゃない。もっと大勢の人が酷いことになってしまうかもしれないんですから〉

 

「………まぁ、その酷いことというの詳細はまだ何も分かっていないんだがな………」

 

〈…………〉

 

 呉島貴虎には、鹿目まどかに対する疑念があった。《魔法少女の神》であったという割には、誰が魔法少女であったかどうかという記憶も能力と共に喪失してしまっているということ。そして、見滝原市の探索にあまり乗り気では無いことだ。

 まどかが嘘をついているとは思いたくはないが、同時に、彼女が本当のことも言っていないのでは、と貴虎には思えてならない。

 

「…………まどか。きみがかつて人間だった頃、この世界が作り替えられるより以前。……見滝原で何かあったんじゃないか?」

 

〈ぁ………〉

 

 貴虎の問いに帰ってきたのは、か細い声ながらも、痛いところをつかれて動揺していることが如実に伝わってくる小さな悲鳴だった。

 

「光実が巻き込まれているかどうかはまだ分からない。だがそうなってしまう可能性は潰したい。………教えてくれまどか。見滝原で何があったんだ」

 

〈それ、は…………〉

 

 どもるまどかに躊躇を覚えるも、しかし貴虎も引くわけには行かない。以前から考えていた“鹿目まどかと見滝原市の関係性の謎”を聞き出さなければ、彼女の言うこの世界の危機に迫ることもできないのだ。

 

「………………」

 

 秒針の音が、いやに大きく聞こえる。いたいけな少女を問い詰めるのは気が進まないが、教員生活をおくるうえでもこういう場面は幾度となくあった。長期戦の構えとともに、貴虎はじっとまどかが口を開くのを待ち続けた。

 

 

 

「………………………」

 

 十数分経った。

 まどかはますます辛そうな表情を浮かべて、目尻に涙をためている。さすがに可哀想になってきたこともあり、貴虎は気分転換がてらに冷蔵庫からお茶を取り出そうと立ち上がった。

 

「………ん?」

 

 ―――――何か、忘れて…………

 

〈………?〉

 

 時刻を確認する。午前2時半。

 

 光実が帰ってきてから、既に1時間以上が経過している――――!

 

「みっ………光実!!」

 

〈た、貴虎さんっ?!〉

 

 飛ぶように風呂場へダッシュする貴虎。まどかも慌てて追いかけ、現場に急行する。

 

「おい光実、しっかりしろ、光実!」

 

 現場でまどかが見たのは、濡れたまま全裸で風呂場に倒れ伏す光実と、彼を介抱しようと抱き上げる貴虎の姿であった。

 

〈にゃっ、ななな、は、ハダカっ〉

 

「まどか、手伝ってくれ! 光実を部屋まで運ぶ!」

 

〈りょっ、了解ですっ!〉

 




【第十話 罪の在処】はこれで終了です。

 十一話からはまど×貴が本格始動する予定なので、どうぞよろしくお願いします。
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