合宿の日程は全て終了。四日目、荷物を纏めた一同は
『お世話になりました!』
とホテル・アルピーノを去ることになった。
「はーい♪」
「また来てね~」
朗らかに笑うアルピーノ親子に見送られて、一同は帰路に着いた。流石に疲れたのか、子供達は次元航行船内では眠っていた。
そして、ミッドの次元港に到着すると
「はあ、楽しかったぁ!」
「本当だねぇ」
「おーい、自分の荷物取れぇ」
楽しそうに会話するリオとコロナに、雑多に荷物が載ったカートを押しながら来たノーヴェがそう言ってきた。
それを聞いた子供達一同は、自身の荷物を回収。それを見たのか、フェイト、冬也が
「はーい、子供達は送るから車に乗って」
「ディエチ。剣士郎を頼むぞ」
と告げた。剣士郎は一人、違う方向に住んでいるので、どうしても送るのに一手間掛かるのだ。
「分かりました」
三々五々散っていく中、剣士郎はディエチと一緒に荷物を持って立っていた。
少しすると、ディエチが
「剣士郎君、そろそろ出発しようか」
と剣士郎に声を掛けた。だが剣士郎は、腕時計を見ながら
「あ、いえ。今日は、知り合いが迎えに来てくれる手筈になっているんです」
と答えた。
「知り合い?」
「はい。そろそろ来る筈なんですが……」
剣士郎がそう言って、腕を下ろした時
「おーい、緋村ー!」
と剣士郎を呼ぶ声が聞こえた。二人が振り向くと、こちらに駆け寄ってくる人物が居る。短く切り揃えた黒い髪に、なのはやはやてと同じ日本人特有の顔立ち。そして、改造してあるらしい動き易さ重視の和服を着た若い女性だ。
「こちらです、
剣士郎が手を挙げると、四乃森と呼ばれた女性は軽い足取りで剣士郎達に歩み寄り
「いやぁ、ごめんねー。遅くなった」
と謝ってきた。
「いえいえ、時間通りです」
「えっと……」
現れた女性にディエチが困惑していると、剣士郎が気づいて
「ああ、すいません。この人は……」
と紹介しようとした。だが
「初めまして、私の名前は
と先に、自己紹介した。
「剣士郎君の……すいません、私の名前はディエチ・ナカジマです。今回は、急にすいません」
「いやいや。緋村、友人が居なかったから、心配してたんだ」
ディエチが頭を下げると、紫埜は快活な笑顔を浮かべながら剣士郎の頭に手を置いた。確かに、ディエチが知る限り、剣士郎に友人が居るという話は聞いていない。
そこを心配していたようだ。
「しっかし、緋村……あんたも隅に置けないねぇ? こんな美人さんと、何時知り合ったんだい?」
「まあ、やむにやまれぬ事情というものがありまして……」
紫埜が剣士郎にヘッドロックを掛けながら問い掛けると、剣士郎は当たり障りの無い形でそう答えた。
「ほー……?」
「その嫌な笑みはなんですか?」
「いぃやぁ? べつにー?」
剣士郎がジト目を向けるが、紫埜は飄々と笑って誤魔化した。そして、ディエチに近付いて
「今後も、緋村をよろしくね。こいつ、自分から近づこうとしない癖に人恋しいって奴だから」
とイヤらしい笑みを浮かべながら、ディエチに言った。
「は、はぁ……」
「あぁ、それと……機会があったら、旅館葵屋をご贔屓に。私か緋村の名前を出してくれれば、割引になるように手配しとくから」
「あ、葵屋!? あの高級老舗旅館の!?」
紫埜が告げた名前を聞いて、ディエチは驚愕した。
旅館葵屋、ミッド郊外にある高級老舗の旅館兼料理屋だ。以前に家族で行きたいね、という話をしていたが、全員の予定が中々合わないのと、やはり高級なので一回も行けていない場所だ。
「そうそう。時々、緋村にも板前やってもらったり、お皿を焼いてもらったりしてるんだ」
「え、剣士郎君。陶芸もやってるの?」
紫埜の話に、ディエチは驚きの視線を剣士郎に向けた。
「あ、はい……僕の収入源です。一応、比古清十郎の名前で一般にも卸してます」
「え、あの比古清十郎!?」
比古清十郎の名前なら、ディエチも知っている。ディエチが買い物に行くあるデパートには、陶器を専門に扱う店があるのだが、そこで時々、10万を超す陶器が売りに出されることがあった。その作者の名前が、比古清十郎だった。
「意外と身近に、有名人が居た……」
なのはやフェイト、冬也達も有名人だが、それとはまた違うベクトルの有名人の正体に、ディエチは驚きを禁じ得なかった。
「さてと、そろそろ帰るよ。緋村」
「はい。では、ディエチさん。また」
「う、うん……」
去っていく二人を見送るとディエチは
「……葵屋かぁ……」
と呟いたのだった。