大会に向けて、特訓を始めた日の夕方。
「た、ただいまぁ……」
「おかえりー……だいぶお疲れみたいだね?」
特訓で疲れたヴィヴィオを、料理中だったのかエプロンを着けたままのなのはが出迎えた。ヴィヴィオは靴を脱ぎながら
「大会に向けて、特訓を始めたからねぇ……ふぇぇ、疲れたぁ……」
と言って、一度座った。それを見たなのはが
「だったら、先にお風呂に入ったら? その間に、料理を仕上げちゃうから」
と提案し、ヴィヴィオもそれを了承。ノタノタと歩きながら、お風呂に向かった。そして脱いでいると
「あ、着替え……」
と着替えを持ってくるのを忘れたことに気付いた。だが、クリスがジェスチャーで
「ん? 持ってきてくれるの? ありがとう、クリス」
クリスが持ってきてくれるということで、ヴィヴィオはそのままお風呂に入った。それを見たクリスは、ヴィヴィオが脱いだジャージと下着を洗濯機に入れてから、部屋に着替えを取りに行った。その間に反芻するのは、今日の特訓。それを繰り返し見ながら、どうすべきか考えていた。
その時、お風呂の中では
「ふあぁぁぁ……疲れたねぇ……」
『本当にねぇ……』
『でも、弱点克服や自分の利点強化は大事だよ』
ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人が音声通信していた。正確に言えば、更にアインハルトも参加している。
「アインハルトさんは、剣士郎さんと模擬戦してたと聞きましたが……」
『はい……彼は凄まじい剣士でした……何故、今まで気づかなかったのか、と自問したい位に』
『アインハルトさんがそう言うってことは、相当なんですね?』
『はい……こちらの攻撃は、悉く先読みされて防がれるか避けられました……それだけでなく、あの抜刀術……全てが、二段構え……避けたり防いだりしても、第二撃が即座に放たれている……対処が難しいですね』
「アインハルトさんがそんなに言うなんて……剣士郎さん、そんなに強いんだ……」
アインハルトの話を聞いて、ヴィヴィオは少し驚いた。ヴィヴィオからしたら、アインハルトはかなり強い格闘家だ。そのアインハルトですら、剣士郎の腕を賞賛している。
『抜刀術ならば、私が知る限り最も強い方かと』
「はへー……」
そうこう話ながらも、ヴィヴィオは体を洗い終わり入浴を終えた。そして、夕食を食べていると、なのはが
「特訓、頑張ってるみたいだね?」
と問い掛けてきた。
「うん。今のままじゃ、直ぐに負ける可能性が高いって言われてね。だから、少しでも勝率を上げるために」
「そっか……うん、頑張ってね。なのはママも、出来る限りの手伝いするから」
「ありがとう、なのはママ」
そうして、夕食後。ヴィヴィオは疲れからか早々に寝てしまったが、クリスは居間の掃除をしているなのはに近付いた。
「ん、どうしたの?」
クリスに気付いたなのはが問い掛けると、クリスはジェスチャーで会話を始めた。
「え? 教導隊での特訓風景の映像? 有るけど、どうするの? ……ふんふん……それを見て、ヴィヴィオの特訓に活かしたいと……うん、わかった。そういうことなら、見せてあげるね。レイジングハート!」
《はい。見繕って見せますね》
「うん、お願いねー」
そうして、
「剣士郎から特訓の申し出なんて、珍しいね」
「最近は、中々猛者と出会えませんからね……たまにはと」
剣士郎は紫埜と相対しており、その紫埜は両手に小太刀を持っている。小太刀二刀流。それは、紫乃森家に代々伝わる剣技である。
「それじゃあ……往くよ」
「はい……いざ!」
『参る!!』
その掛け声と同時に、二人は凄まじい速度で駆け出した。