葵屋から離れた剣士郎は、一路自身の作業部屋に向かった。すると既に、燃えた家の残骸が撤去され、素材が運ばれ始めていた。
「早いなあ……紫乃さん……」
予想外の早さに驚きながらも、剣士郎は作業部屋に入って新しく注文された物の制作に入った。
粘土を捏ねて、形を造りだし、乾燥棚に乗せていく。
文章にすると非常に少ないが、何れも高い集中力が必要だ。だから、剣士郎が気付いた時は、夕焼け空が見えていた。
「しまった、急がないと」
剣士郎は最後に出来た皿を乾燥棚に乗せて、汗を流す為にシャワールームに入った。汗と汚れを簡単に流した後、着替えてから急いで作業部屋を出た。
「念のために、買い物するか」
朝食を作った時の記憶から、剣士郎は本当に念のために買い物する事にした。
スーパーにより、品定めしながらヒョイヒョイと籠に入れていき、会計を済ませる剣士郎。
そしてアンクレイブ家に到着すると、ユミナが外に出てきた時だった。
「あ、お帰り。緋村くん!」
「ただいま……」
半ば反射的にだが、剣士郎はその言葉を口にしていた。そして、ユミナは外に出ていた看板を回収し、剣士郎は裏の玄関から中に入った。
そして、手を洗ってから
「帰宅中に買い物したので、すぐに作りますね」
と言って、キッチンに立った。
そこに、ユミナが来て
「ごめんね、買い物までしてくれて!」
と剣士郎に謝罪してきた。
「いや、買う暇無いだろうなって考えてね。大丈夫だ」
「それもだけど、お金! 緋村くん、家の建て直しがあるのに……!」
どうやらユミナは、剣士郎の今後の事を心配してくれているらしい。
「それなら大丈夫だ。紫乃さんが、既に手配とお金を出してくれてな。もう作業が始まってた……」
「もう!?」
まさか帰ってきて2日で作業が始まるなんて、ユミナも予想していなかったようだ。まあ、剣士郎も予想していなかったのだが。
「だから、家の事は大丈夫だ」
剣士郎はそう言って、調理を始めた。
そして、約一時間後
「今日はトンカツです」
と四人分のトンカツが出来上がった。
揚げられた厚いトンカツに、多めのキャベツがお皿に盛られている。
料理としたら、非常にシンプルな見た目だろう。しかし、それにも技が駆使されている。
「うわ……こんなに厚いのに、しっかり火が通ってる……」
「あら、美味しそうね」
ユミナは厚さに驚き、アイナは笑みを浮かべている。
「こちらは、お好みで使ってください」
剣士郎はそう言って、真ん中に三つ皿を置いた。
「右から、トンカツソース、ポン酢タレ、岩塩になります」
剣士郎の細かな気遣いだった。
『いただきます』
そして、剣士郎のアンクレイブ家による二日目の夕食は始まる。
「うわ……こんなに厚いのに、凄い柔らかい……美味しい……」
「確かに……簡単に歯で噛みきれる……」
ユミナの言葉に、カミトは同意している。
トンカツの厚さは、2cm程になる。それ程の厚さなのに、簡単に噛みきれるというのは、ユミナやカミト達からしたら驚きだったようだ。
「この三種も甲乙付けがたい……」
「うん。トンカツソースはシンプルに美味しいけど、ポン酢タレはさっぱりするし、岩塩はトンカツの素材の美味しさが際立つ……」
「かけるのを替えるだけで、こんなに味が変わるのねぇ」
ユミナ達は、剣士郎が出したトンカツソース、ポン酢タレ、岩塩で悩んでいるらしい。
やはり、味の好みとなると簡単には決められないようだ。
そうこうしている間に食べ終わり、今日もユミナが洗い物を始めた。
そして、剣士郎はまたカミトに促されて入浴し
「それじゃあ、施術するよ!」
「ああ、頼む」
ユミナが剣士郎に施術を始めた。
「はーい、少し派手にいくよー」
「わ、わかった……ぐうっ……」
ユミナは剣士郎の背中側に回り、密着すると剣士郎の脇の下から腕を回して、何とも言えない体勢で剣士郎に施術を始めた。
密着しているので、剣士郎の背中にはユミナの柔らかさが伝わるが、剣士郎は一生懸命に考えないようにした。