良晴と藤吉郎のスケベコンビが信奈にしばかれた後、同盟成立のため
細かな話を進めていた時だった
「姫様! 信勝を捕らえてまいりました!」
織田家の誇る猛将柴田勝家が信勝を縛り上げて登城してきた。
「あ、姉上。申し訳ありません。許してください~」
情けない声を上げる信勝。
「はあ~六。あんたってばタイミングが悪いわね。いま客人がいるの分かる?」
「はっ、も、申し訳ありません!」
信奈の心底のため息に、勝家はあわあわと謝罪する。そして体を動かすたびにその大きな胸がたぷんたぷん揺れていた。
おおっ! 思わず良晴も目が吸い寄せられていた。
悲しいかな。男の本納というやつである。
藤吉郎は言わずもがなである。
「良晴?」
「ひぃ、ご、ごめんなさい。小早川さん」
勝家が信奈に謝るの必死で、良晴の目線に気づかなかったのは幸いだった。
もし気づいていたら「ひぃ!猿が二人に増えた」と叫んでいただろう。
「こほん、姉上?」
話題をそらすべく、良晴は信奈に疑問をぶつけた。
「そこにいるかんじゅ……織田信勝は私の弟なの。でも、謀反をたくらんでいたから」
殺すのよ、と先ほどとはうってかわって、信奈は冷たくいい放った。
「信奈様、お、お待ちを。信勝の罪は信勝の筆頭家老であったこの勝家にも責があります。どうか私の首と引き換えに何卒…」
勝家が慌てて取りなすが
「これから今川との戦いなのに六を切れるわけないじゃない!」
「ああーっ!!そうだった!」
柴田勝家、軍事においては一流ではあったが、この場においては漫才にしかならなかった。
「待て待て待て、織田信奈。お前は兄弟を殺すのか?」
「あんた小姓のくせに差し出がましいわね。まあいいわ。信勝は何度も謀反を繰り返しているわ。母上がどうしてもというから許してきたけど、信勝本人にその気はそれほど無くても、周りの家臣があいつを持ち上げて謀反を起こすのよ。それに」
今川がいつ動くかわからない。こんな状況で謀反を起こしたやつを生かしておくわけにはいかない。戦が起きれば兵や民は命を落とす。
信勝をこれ以上身内だからといって許していたら天下万民にとって不公平だと、信奈は言った。
正しい。
だが、織田信奈は正しすぎる。良晴はそう思わずにはいられなかった。
「織田信奈、失ってからでは遅い。父、元就でさえ謀反を起こした弟を殺したことを今なお悔いているが、それでもか?」
隆景も口を挟んでいた。毛利家は相合元綱という実例があるのだ。
そしてなにより隆景自身も兄を失ったこともあるだけに、口を挟まずにはいられなかった。
「う、うるさいうるさい!! 何よ! 他家の干渉なんて受けないわ。六はやくやっちゃって!」
なにより他人からの干渉を極度に嫌う信奈である。
火に油だったようだ。
「ぎょ、御衣」
その勢いに勝家が思わずうなづいてしまった。
「ああ、なったらとめられません」
このままでは外交の場で血の雨が振ります。長秀が嘆く。
こうなったら信奈は織田家臣ではもう止められないのだ。
良晴、隆景の説得も失敗し、もはやこれまでかと思われた。
「待て」
静かな一言だった。
しかしその場にいる全ての者が、その隆景の言葉に止められていた。
「織田信奈の言うことも尤もだ」
「え?」
驚きの表情をする信奈。
先ほどまで反対していた隆景が信奈の意見に同意するとは思わなかったようだ。
「何度も謀反を繰り返し、その上でさらに謀反を起こした織田信勝を許した織田信奈はむしろ慈悲深いと言える。だが、身内同士で争えば禍根が残る。であれば」
「こ、小早川さん?」
隆景が信勝の前に立つ。
「織田信勝、痛みは一瞬だ。己の過去の行動を悔いるがいい」
隆景は抜刀し、刀を上段に持っていた。
「ひ、ひいい」
隆景は信勝を切るつもりなのだと気づいた
良晴が慌てて小早川さん待った!と叫ぼうとした。
「ま、待ちなさい!!」
それよりも先に信奈の声が飛んでいた。
だが、もう遅い。
振りかぶった刀は脳天に直撃し、血の雨が降るーーことはなかった。
「あれ、僕。い、生きている」
呆然と信勝がつぶやく。
振り落とされた刀は、信勝の前に鼻を掠り、膝の間を抜けていた。
「最初に言っただろう。我が父も兄弟を殺めたことを悔いていると」
どこまでも冷静に隆景は言った。
どうやら演技だったらしい。
だとすると、俺がやることは……。良晴は信奈に向かって言った。
「織田信奈!! 結局のところお前の本心はそこなんだろ! 小早川さんが信勝に刀を振り落したとき、待て!と叫ぶくらいには本当は信勝を切りたくないんだ」
「そ、それは……」
言葉に詰まる信奈。
「それは他家からの介入を受けたくなくて……」
もにょもにょとする信奈。
「信奈様、素直になる」
「犬千代!?」
信奈は信じられないとばかり前田犬千代を見た。
前田犬千代――のちの前田利家は織田信奈とは姉妹同然に育ってきた友にして家臣である。
暴走した信奈の説得は諦めていたが、不意をつかれて弱気になっている信奈であれば説得できると判断したのである。
「信奈様、犬千代は信勝と信奈様と一緒に遊んだことを覚えている」
「犬千代……」
織田信奈とて好んで信勝を切りたいわけではなかった。
天下万民のため、尾張のために切る覚悟を決めていただけであった。
「わ、分かったわよ。信勝、犬千代に免じて許してあげるわ。ほら、ういろうを上げるわ。食べなさい」
「姉上……ありがとうございます。ですが、このういろう塩辛いです」
「バカね。あんたの涙よ」
数年来の姉弟仲直りの瞬間であった。
「まさか元清があんな提案をするとはな……」
顛末として織田信勝が謀反を起こそうとしたのは事実であるため、これらの後始末として織田信勝は津田信澄に名前を変えた。
それは隆景――ではなく元清の提案であった。
自身も毛利ではなく穗井田性を名乗っているからである。
いやむしろ隆景にはその提案は出来なかった。
冷血の将と評される彼女であるが
隆景もまた元就のように元清を虫けら呼ばわりしているが、それはあくまでも照れ隠しや家臣たちへのポーズなであり、元就から虫けら扱いされ元清が泣いている姿を見たのも一度や二度でなかったのだから。
だが、元清は自身からそれを提案した。
そして信澄もその元清の意見に一も二もなく同意した。
どうやら信澄も同じことを考えていたようだった。
なお信澄付きの家臣は全て分散、配置換えとなった。
まとめておくと、信澄をまた唆す可能性があるからだ。
ただ柴田勝家が信奈の筆頭家老になったことで二度と起こることは無いだろう。
彼らは勝家を頼りにしていたのだから。
「良晴いるか?」
良晴が与えられた部屋で休んでいると、そんな声がかかった。
「ああ、うん。どうぞ」
「恵瓊と元清は?」
「恵瓊さんはちょっと。元清は恵瓊さんに誘われて」
同室の恵瓊が元清を連れてでかけてしまって暇だったのだ。
もっとも元清は毛利家の家訓により酒は禁止されているので、軽い食事だけつきあうようだ。
「ところで良晴、さっきは見事だった」
「いやいや小早川さんの演技には……小早川さん?」
その言葉に隆景はびくりと肩を震わせた。
良晴は(やばい! 変なこと言ったか?)と慌てるが、そうではなかった。
「怖かった……。あのまま殺してしまうのではないかと……」
隆景の手は震えていた。
恵瓊と元清がいないため、姫武将小早川隆景の緊張の糸が切れたのだ。
(小早川さん…。)
そして良晴も気づいた。
いくら冷血な武将の顔をしていても、小早川さんは普通の女の子なのだと。
「小早川さんは人を殺すのも、人が殺されるのも嫌いなんだね」
「あ、当たり前ではないか。わ、私だって女の子なのだから」
「でもその小早川さんの優しさのお陰で信勝は救われた。誇っていいと思う。信奈も憎まれ口を叩いていたけど、信勝の見る目は優しかったし」
「良晴……」
(うおおお! やばい、小早川さんめちゃくちゃ可愛い)
気が付けば自身の顔が紅潮していた。
見れば隆景もなにやら赤くなっていた。
隆景もまたこの少年が自身を姫武将小早川隆景ではなく、少女小早川隆景としても扱ってくれるのが好ましく思えたのである。
互いになんともいえない雰囲気になる。
もし武吉がいたら背中をかきむしって、出ていっただろう。
そんな状況を打破したのは部屋の外から聞こえてきた失礼します、という声だった。
「さきほどは姫と信勝殿のお家騒動を調停していただきありがとうございました」
「あたしからも礼を言わせてくれ。姫様と信勝は仲良いのに限る」
「姫様……笑ってた」
丹羽長秀、柴田勝家、前田犬千代であった。
「ほらね。小早川さん」
「そのようだな。良晴」
先ほどの雰囲気はどこへやら良晴と隆景はふふと二人で笑いあった。
事情を知らない織田家臣三人は顔を見合せるのであった。
創作欲求と無限にネタがでてくるも労働が邪魔をします
原作とはちがい、犬千代が出奔していない世界線ですね
アンケート投票ありがとうございました。
結果を取り込み、今回の最後に少女小早川さんを先に書きました。
だいたい2500文字程度を毎回一話目安にしていますが、読む側からすると少ないほうかなと思います。
ただ書く側に立つと作文や読書感想文を苦労していた身からすると、意外にかけるものだなと自分でも驚きます。まあ、文才はありませんが