織田信奈の野望 もし小早川隆景に拾われたら?   作:リトマス

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第2話 海賊の儀式

「いっつつ……」

毛利家の居城、吉田郡山城。

そのいくつかある客室の一つで良晴は目を覚ました。

 

「目を覚ましたか」

「きみは……? そして俺は何故寝かされているんだ」

 

目覚めたばかりの良晴は、状況はあまり理解できていなかった。数少ない理解できたことの一つにそばに少女が居たことだ。小柄で痩せてはいるものの美しい少女だった。歳は良晴よりも幼いくらいだろうか。

 

「私の名前は小早川隆景。毛利家の姫武将だ」

 

 

 

 

 

「小早川隆景? 姫……武将?」

 

相良良晴の混乱は極みにあった。気づいたら髑髏を見て、バランスを崩したと思ったら、寝かされていて、気が付いたら目の前の女の子が小早川隆景を名乗ったのだから。

 

「そうだ。毛利家の三本の矢は聞いたことないか? あの一矢の一人なのだが。父に比べればまだ若輩の身なれど、名はあげてきたと思ったが、そうか」

 

少し残念そうな顔を浮かべる隆景。その表情に良晴は可愛い!と心の中で、声を漏らす。

 

「ち、違う違う! 知っているよ。知っている。三本の矢も。でも、俺の知っている小早川隆景は男性だと思っていたから」

 

知られていると知って、僅かだがほほを緩める隆景。

 

「そうか良かった。しかし私が男だとは大方父上が原因だろう。何かしらの謀略を始めたに違いない。それはそうとして君の名前は?」

 

「俺の名前は、相良良晴。高校二年だ」

 

「相良というと九州の相良家か? 孝行二年? 親高校で、バテレンをしているのか?」

 

「親孝行でバテレン?」

 

ここで良晴そして隆景ともにお互いの話が食い違うことに気付いた。

良晴は心の中で必死に考えをまとめ始めた。目の前の少女はなんと名乗った? 小早川隆景と名乗っていたよな。

 

常識的に考えればコスプレ会場に紛れこんでしまったとかか?。幾ら戦国時代が好きだといっても、戦国時代に来てしまったとかそういう訳じゃないはずだ。

間違って、コスプレ会場に紛れこんでしまったのだと思いたい。もしも、万が一の可能性として、分かるような質問をしてみればいい。

 

そう、例えばコスプレかどうか聞いてみればいい。

 

「小早川さんとてもよく似合ってるけれど、その恰好はコスプレ?」

 

自分の中で結論を付けた良晴は、隆景に問いかけた。

頼む、頼むと心の中で必死に祈りながら良晴。

 

「コスプレ? コスプレとはなんだ? 南蛮語か?」

 

首をかしげる様に思わず可愛いと心の中で、思ってしまった良晴。

良晴には隆景が嘘をついているようには――見えなかった。

隆景としても嘘をつく必要がない質問であった。隆景は明智の将であり、元就譲りの謀略を巡らせることもあるが、必要でないときに謀略を巡らせる趣味があるわけではない。父のように無駄に信用を失いたくないからだ。

 

「そ、そうか――」

 

ここに来て、相良良晴は自分が戦国時代にタイムスリップしてしまったことを、認めたのだった。だが悲嘆する時間を与えて貰えなかった。

 

「おい、小僧起きたか」

 

村上武吉だった。

 

「あ、貴方は?」

 

「あん?」

 

筋肉隆々で、右目に傷を残している武吉に良晴はのまれていた。

 

「彼は村上武吉。村上水軍の長で、私の二人目の父親といっても過言ではない人物だ」

 

村上水軍。ということはやっぱり俺は戦国時代にきてしまった

 

「で、小僧。てめえの目的はなんだ? でうすとかいう神様の教えでも教えに来たのか?」

 

「武吉。良晴はどうやらバテレンではないないようだ」

 

「なに? じゃあそれこそ何が目的だ? 返答次第じゃ、小早川のお嬢に救ってもらったその命を捨てることになるぜ」

 

「小早川さんに救ってもらった命?」

 

「はっ、行き倒れていたてめえを救ったのは、お嬢なのさ。でなきゃおめえは、今頃夜盗なりに襲われて身ぐるみ剥されて、そのまま命も無かっただろうよ」

 

決して冗談で言っているようには、聞こえなかった。

だが、それよりも大事な事があった。

(小早川さんが見ず知らずの俺を救ってくれた? 何でだろう)

 

「で、小僧。改めて聞くが、おめえの目的はなんだ?」

 

嘘、偽りは許さないとギラリと光った武吉の眼が告げてくる。

 

「そ、それは……」

 

(目的なんかあるわけがない。だいたい俺は歴史好きな高校生でしかないんだ)

 

「ふん、だんまりか。小早川のお嬢しょうがねえが、こいつはフカの餌にしちまおう」

 

「待て! 待ってくれ! 俺は未来から来たんだ!」

 

今すぐにでも、良晴をフカのエサにしてしまいそうな武吉に、良晴はたまらず叫んでいた。

 

「未来……?」

 

良晴の発言に、さしもの隆景も、呆気に取られた。

だが、武吉は海賊の仕事柄、この手の発言は取るに足らないものであった。

瀬戸際の人間は何でも言うのは自分の経験から、よくあったからだ。

 

「お嬢、決めた。こいつはフカの餌にする」

 

「村上さん! 本当なんだ俺は未来から来たんだ!」

 

「こちとら、そういうやつは、何度も見てきてんだよ」

 

いよいよ良晴を引っ立てにかかっている武吉と、それに抵抗する良晴。

 

「待ってくれ!! 俺は本当に未来から来たんだ! 家族の元に戻してくれ!!」

 

家族……と小さく隆景がつぶやいた。引っかかることがあったのだろう。隆景が武吉に口をはさんだ。

 

「武吉、待ってやれないか。折角救ったのだ。何か使い道があるはず」

 

(まただ。分からないが、小早川さんは俺を助けようとしてくれている。)

 

「小早川のお嬢……。だがな、こいつは目的を吐かねえ。こんな素性のわからねえやつを、元就だって生かしちゃおかねえさ」

 

「そうだな。父上なら、そうするだろう」

 

村上武吉に小早川隆景は頷いた。

 

「だが、武吉。少し待ってもらえないか? 実際、彼の持ち物は今まで見た南蛮のものとは違いすぎる。私はそれが気になる」

 

「確かに。それに関してはお嬢の言うとおりだ」

苦虫を噛みしめた表情を浮かべながら、武吉は良晴を離した。

 

「ごほっごほっ。あ、ありがとう小早川さん」

 

「礼には及ばない。それよりもだ」

 

隆景が両手を良晴の頬に伸ばしてきた。

 

「こ、小早川さん!?」

 

「お嬢!?」

 

「相良良晴。君の言っていることは、本当か?」

 

この答えによって俺の運命を決める。そう思うと、良晴は体が震えてきた。

そんな良晴をじっと隆景の深い緑色をした瞳が見つめていた。

(そもそもどうして毛利家を支える智将、小早川隆景が女の子なんだろう。村上さんのような男性にまじってこんな女の子が武将なんてやっているんだろう。あんなに小さい体なのに。分からない事ばかりだけど、でも――)

 

隆景のその綺麗な瞳にドギマギしながらも良晴は勇気を振り絞る。

 

「あ、ああ。本当だ――」

 

(小早川さんに助けられた恩を、俺は返したい)

ちょっと上ずりながらも、しっかりと良晴は答えた。

 

「――そうか」

 

良晴の答えに隆景は頷いた。

 

 

 

「武吉、相良は嘘をついていないようだ」

 

「お嬢!?」

 

「あれは決して嘘をいっている者が出来る目などではない。信義に足る武士の目だ」

 

「だからってお嬢、そいつをそのままにするのは――」

 

「ああ、だから私の小姓とする」

 

「お嬢――」

 

勘弁してくれと村上武吉は呻いた。

隆景の発言に驚いたのは武吉だけではない。良晴も驚いた。

 

(小姓ってえええええ! お、俺が!? )

 

だが、驚く良晴を置いて武吉は話を進める。

 

「分かった。お嬢がそこまで言うなら、俺は従おう。だが、それには条件がある。俺はこの小僧の覚悟を試したい」

「覚悟。海賊の儀式か?」

 

「そうだお嬢。あれを受けてもらう。」

 

「海賊の儀式?」

 

「ああ、簡単なことだ」

 

武吉が背中の袋を開き金、銀、銅の杯を出してきた。そしてそれぞれに異なる瓶から、なみなみと液体を注いでいく。

 

「呑め。どれかは毒だ。毒を選んだら、三日三晩おめえはもだえ苦しんで死ぬ。しかしどれかは単なる酒だ」

 

「ちょ、ちょっとまってくれ。本当に全部の杯に毒が入っていないんだろうな?」

 

「そんなもの、あるわけねえ」

 

「な!?」

 

良晴は驚愕した。武吉は全部毒の可能性があるというのだ。

 

「素性の分からねえおめえを、小早川のお嬢の元に置いておくんだ。それくらいの覚悟ってものを見せてみろ。もっともそんな覚悟があるんならだが」

 

「……相良良晴選べ。この賭けに勝って私の小姓となるか、武吉のいうように……フカの餌になるか」

 

隆景がじっと良晴の目を見つめながら、命じてきた。

その手は震えていた。

(小早川さん……そうだ。俺だけじゃない。小早川さんのためにも、俺はやるしかないんだ)

 

「小僧、どれを選ぶ。それとも逃げ出すか?」

 

武吉の鋭い眼光が良晴を貫く

(落ち着け。思い出せ。思い出せ。)

(昔読んだことがあるはずだ。毒に対しての対応として何か――

 

 

そうだっ! ローマ皇帝の食器は銀を使われているのは毒の暗殺を恐れているからだと聞いたことがある。よし、銀にしよう)

 

銀の杯を選ぼうとした良晴は、隆景の目線とぶつかった。隆景の綺麗な瞳が揺れていた。

 

(小早川さん――)

 

良晴は小早川隆景という人物のことを振り返った。

(村上武吉は覚悟を示せといった。

毛利家を支えた小早川隆景。後世の多くの人たちから織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に比べれば小早川隆景はいぶし銀の武将かもしれない。

けれど、俺は小早川さんの力になりたい。俺を信じてくれる小早川さんの力に)

 

(そして俺にとっての小早川さんは――)

 

 

「決めた!。この金色の杯だ。俺の覚悟は鈍く光る銀や銅じゃなく、まばゆく輝く金の杯だ!!」

 

良晴はぐいっと一息に呑みこむ。

隆景が息を呑んでそれを見守る。

場を静寂が支配する。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………酒って、うまいな」

 

隆景が目を見開いて、良晴を凝視している。

 

「やるじゃねえか小僧。それは当たりだ。悔しいがお前の勝ちだ」

 

武吉は苦笑いを浮かべながら、良晴の勝ちを認めた。

 

 

 

 

 

 




隆景が男――信奈の世界でもあの「毛利元就」ならやりかねないと思いませんか?

物語を進めるためとはいえ、小早川さんの良晴への態度が甘いですな(苦笑い)

さて本編と同じく金の器を選んだ良晴ですが、実は最初銀を選ばせようと思いました。安全策ですしね。
ただまあ銀色の器というだけで銀とは限らないし、なによりこの作品は小早川隆景がヒロインなので、こういう展開のほうが面白いかなと思い、こちらに変更しました。

さて実は考えていたプロットがちょっと崩壊してまして、作品としての説得力が無くなりそうなよ・か・ん
勿論、次話とかすぐのすぐ崩壊するようなものではないのですが、ちょっと今考えています。
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