(毛利家を支えた小早川隆景。後世の多くの人たちから織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に比べれば小早川隆景はいぶし銀の武将かもしれない。
けれど、俺は小早川さんの力になりたい。俺を信じてくれる小早川さんの力に)
(そして俺にとっての小早川さんは――)
「決めた!。この金色の杯だ。俺の覚悟は鈍く光る銀や銅じゃなく、まばゆく輝く金の杯だ!!」
ぐいっと一息に呑みこむ。望まない隆景が息を呑んでそれを見守る。
場を静寂が支配する。
「…………」
「…………」
「…………酒って、うまいな」
隆景が目を見開いて、良晴を凝視している。
「やるじゃねえか小僧。それは当たりだ。悔しいがお前の勝ちだ」
武吉は苦笑いを浮かべながら、良晴の勝ちを認めた。
「小僧よくもやってくれたな」
ガハハハと笑いながら、バン!と武吉が背中を勢いよく叩いた。
「ぐおおおおお! いってええええええ! っ頭が!っ頭が!」
「さ、相良良晴。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないいい! うごごご!」
「おい、お嬢。折角こいつ男の覚悟を見せたってのに、ちょっと肩をなでてやっただけで、もんどりうつなんてやっぱ駄目じゃねえか?」
「武吉が攻撃したからだ! 相良良晴、じっとしていろ。大丈夫だ。すぐに私が手当をしてやる」
痛がる良晴をぎゅっと、隆景が抱きしめた。
「こ、小早川さん?」
隆景の髪から香る女の子の甘い匂いに、痛みが和らいでいくのを良晴は感じた。
「おい、お嬢無理するなよ? 男は苦手なんだろう?」
「……いや、相良良晴は兄者に似ているから大丈夫だ」
「お兄さん?」
小早川隆景の兄というと、吉川元春……だよなあ?
吉川元春。不敗の名将と呼ばれ、中国地方のみならず日本全国の中でも、屈指の勇将である。
だが、
(平凡な高校生である俺とは、似ているとは思えないけれど)
良晴にはそうは思えなかった。
「お嬢。それくらいにしておけ。客室とはいえ、見張りの兵がいないとは限らないんだ。男が苦手なはずお嬢が男を抱きしめているなんて見つかったら、騒ぎになるぞ」
「もう少しだけ――。こうしていると痛みが和らぐようだ」
「あー……。小僧、吉川のお嬢にこれから気をつけろよ」
武吉がなんともいえない表情で、忠告する。
「えっ、じゃあ吉川さんも女性なの?」
「そうだ。私の双子の姉だ」
あの吉川元春が双子の姉ってこの時代の歴史どうなってるんだ?
良晴は別の意味で頭が痛くなってきた。
客室から隆景の自室に移動した良晴。
部屋には部屋の主、小早川隆景と良晴のみだ。
(うおおおっ! お、女の子の部屋に入るとか初めてだ。ちょっと緊張するな)
「さて、相良良晴。少し聞きたいことがある」
緊張する良晴に対し、隆景は何事もなかったように話しかけてきた。もっともちょっと手が震えているあたり、彼女も緊張しているのだろうが、それをおくびにも出さないあたり人の上に立つ器というものが出来ているのだろう。
「小早川さん、その前に少しいいかな」
良晴は口をはさんだ。
自分の主となった隆景に不敬と言える行動と言えたが、どうしても良晴は言いたいことがあった。
「む、なんだ」
言葉を潰された隆景だったが、あまり表情を変えず問うてきた。
「小早川さん。俺の命を救ってくれてありがとう」
心からの気持ちを伝えた。
「ほんとうに、ほんとうにありがとう」
隆景は無言で頷いた。
「良晴、やはり君は兄者に似ているな」
少し遠くを見るような表情を浮かべて言った。
そして君を助けてよかったと隆景は思った。
「兄者?」
(さっきは吉川さんだと思っていたけれど、吉川さん女の子だとすると――誰だろう)
信長、秀吉、家康といった三英傑中心にゲームをやっていた良晴には、ピンとこなかった。
「ああ、私の兄、毛利隆元はまさしく徳の人だった」
隆景は遠い景色を見るような目で、良晴に語り始めた。
それは厳島での合戦のこと。
厳島合戦。後に織田信長の桶狭間、北条氏康の川越夜戦と合せて日本三大夜戦と呼ばれる、圧倒的少数が圧倒的多数を打ち負かした歴史に残る戦いである。
そんな厳島合戦で毛利家が勝利出来たのは、村上水軍の交渉を任された自分を、それまで喧嘩ばかりしていた姉の元春が助けに来てくれたこと。そして姉と共に愚兄と罵っていた兄、隆元が信用の無い父には出来なかった村上水軍の交渉用に金を借りることが出来たこと。さらにけじめをつけるため、海賊の大将村上武吉と良晴がやった同じ賭けをして、村上水軍の協力をとりつけたこと。
そして――
「父上や村上武吉、姉者、私そして民も土豪もそして天下人と見込んだ兄、隆元は――死んだ。尼子に内通した家臣によって暗殺されたのだ」
隆景が苦しそうに兄の死を語った。決して兄の死を認めたくない。そんな意思が空気を通して良晴に伝わってくる。
「小早川さん……」
(こういう時どういう風に声を掛ければ良いんだ? 気にすることないよ、か?――絶対違う。どうすりゃいいんだ。 ああああ! おれのヘタレ!)
「すまない。少し取り乱した」
良晴がどう声を掛けようか思案している内に、隆景が落ち着きを取り戻した。
(ううう、俺ってばなんてヘタレ)
自己嫌悪に陥る良晴。だが、自己嫌悪に陥る暇は与えられなかった。
「相良良晴。君は未来から来たと言っていたな」
良晴は隆景の言葉に頷く。
「教えてくれ。毛利家の未来を」
没ネタというか没文章が特に多かったのが、この三話です。本編約二千字なのに対し、重複分も含めた場合ですが、没文章四千五百字もあります。
しかもこれまだオチがついていない状態で、です。
興味本位で気になる方居ましたら、どっかしらで公開しようかななんて(折角書いたわけですしもったいない。やるとしたら後書きで追加すべきなんでしょうか)
さて、没ネタの話はここまでにして、歴史として当時の中国地方の状況を簡単にまとめたいと思います。
1 当時の中国地方は大内と尼子の2大勢力が争っていた。
2 毛利は大内に人質として嫡男の隆元を出して、保護してもらっていた。
3 大内家の家臣の陶晴賢が大内家を大徳寺の変で滅ぼし、乗っ取る。
4 陶を毛利が滅ぼす 楽しい!✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌
めっちゃ簡単にまとめると、だいたいこんな感じです。
図にすると、こうなるかと
大 内 ←VS→ 尼子
↓
陶
↓
毛 利
だいぶ簡略化してるけど、分かりにくいですよね。しかしさらに言えば、毛利が尼子についてた時期もあったりするので、詳細書くともっと分かりにくくなったり。
ちなみにこの作品的には隆元の貴族風になった理由は、史実通り大内家に人質に行ったからです。が、男で色な関係になったどうかは、ご想像にお任せします。
ただ史実の隆元は大内義隆が討たれた際、その弔い合戦を主張した結果、厳島合戦をやったという話もありますので、もしかしたら信奈世界の義隆は女の子だったのかもしれませんね。
更新頑張ってくださいと一言でも言ってくださると、全然モチベが違いますね。ありがとうございます。面白かったとか期待してますとか言われると、文字通り飛び跳ねて喜びました。続き書こうという気持ちになります。感想を言ってくださる皆様、この場を借りてお礼を申し上げます。