織田信奈の野望 もし小早川隆景に拾われたら?   作:リトマス

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第4話 少女の力に

「相良良晴。君は未来から来たと言っていたな」

 

良晴は隆景の言葉に頷く。

 

「教えてくれ。毛利家の未来を」

 

 

 

未来を教えてくれという隆景の言葉に良晴は、すぐ言葉を返せなかった。

毛利家の未来を知らないからではない。

確かに相良良晴は、三英傑中心で戦国ゲームをやっていたため、三英傑以外には比較的疎い。しかし、三英傑の誰においても戦国時代のキーマンの一つとなるのが毛利家である。

 

信長では信長包囲網との一角として木津川口や中国攻めで。秀吉では本能寺の変から秀吉の天下統一を支える有力な大名として。そして秀吉亡き後、家康の時代には――

 

(支柱であった小早川隆景亡き後、毛利家は纏まりを無くし、関ヶ原の戦いで西軍についた毛利家は――敗北する)

 

良晴は迷った。目の前の女の子にこの事実を伝えてもいいものか。隆景に視線を送る。変わらずに毅然とした表情で隆景が良晴を見ていた。

 

(小早川さん……?)

 

良晴は気付いた。毅然としている隆景のエメラルドのような綺麗な瞳が不安そうに揺れているのを。

 

(小早川さんも自分の未来が不安なんだ……)

 

そしてこうも思った。目の前の女の子の力になりたいと。

目の前の女の子は、未来を知ることで、何か変えられることがあるなら変えたいと思う事があるのだと。歴史を変えるかもしれない覚悟は出来たとは言えない。

ここで歴史を語ったら自分の未来がどうなるか不安は間違いなく良晴の中にある。

けれど――目の前の女の子の不安を少しでも晴らしてあげたいという気持ちがその不安より勝った。

良晴は覚悟を決めた。

 

一方、隆景は良晴が察したように、自分の胸が不安でドキドキと鼓動しているのを知覚していた。

良晴がすぐには答えないことは予想出来ていた。きっと未来を教える行為は彼の中でも葛藤があるはずだからだ。――だが、それでも待たされている側としてはどうしても不安にならない訳が無かった。

 

(明智の将たる自分が未来を怖がるなんて情けない……)

 

そう思いながらも、不安に押しつぶされそうな気持ちと戦っていた。

そんな気持ちと戦いながら、隆景は良晴の目線に気付いた。気遣うようなそんな目線だ。単に迷っているのではなく、思い遣りを感じる目線だった。

隆景はその視線に嘆息した。ああ、私の見る目は間違っていなかった――と。

 

「小早川さん、毛利家は――」

 

そんな隆景に、覚悟を決めた良晴が話しかけてきた。

良晴自身、本当に教えてしまってよいのだろうか、未来を教えてしまったら、歴史が変わってしまうのではないかという不安もあった。

 

 

だが

 

 

だが、それ以上に不安な気持ちの女の子を放っておけないという気持ちが勝った。

つまらない男の意地だったかもしれない。だが、それでも相良良晴は小早川隆景を力になりたいと思ったのだ。

 

「小早川さん、毛利家は――天下を取れない。天下を取る寸前で、敗北する」

「そう……か」

 

覚悟はしていたのだろう。取り乱すことなく良晴の言葉に、隆景はただ頷き、話の続きを待った。

良晴も頷いて、どのような経過をたどるか話し始めた。

 

「まず尾張の織田信長が勢力を伸ばして、毛利を圧迫する」

「待て相良良晴。織田信長とはだれだ? 織田信奈の間違いではないか?」

隆景が信奈を知っていたのは理由がある。

毛利が朝廷への献金も兼ね上方への情報収集を行っているためである。水運を利用しこの当時としてはかなり早い情報網を構築しているため、上方へ流れる情報を入手出来ていたのである。もちろん誤報や情報の遅延、偽の情報が混じっているため必ずしも正しい情報とは限らないのだが。

 

「えっ? 織田信奈?」

 

良晴は戸惑った。

 

(織田信長ではなく、織田信奈? どういうことだ?)

 

良晴は混乱した。良晴のゲーム知識に織田信奈なんて人物は知らなかった。

 

「そうだ。尾張の織田家の有力者といえば彼女だろう。もっとも、うつけと評判になっているが」

(彼女という表現が気になるけど、うつけ……もしかして織田信長も女の子―なのか?)

「小早川さん、その織田信……奈はどんな風にうつけなの?」

 

浮かんだ疑問を良晴は隆景にぶつけた。

 

「ああ。そうだな。なんでも父の葬式で正装もせず、乱暴に焼香を投げつけたという話だな」

 

その話を聞いて良晴は確信した。

 

(どうして名前が変わっているのかは分からない。間違いない。織田信奈は織田信長だ。女性説のある上杉謙信ならともかく、でも小早川さんも、織田信長も女の子っていうのはちょっと変だ。しかも信長の場合、名前まで違うとか――もしかして俺の知ってる歴史とは違う……のか?)

 

考え込む良晴だったが、思案は隆景によって遮られた。

 

「良晴。君の言葉を信用していないわけではないが、あの織田信奈が我が毛利を圧迫するとは考えにくい」

 

良晴は俺の知っているのは織田信長という人物の一生だけど、と前置きしてから戦国の風雲児である信長の説明をし始めた。

 

「小早川さん。信長、いや信奈がうつけといわれているのは、未来を見据えているからだ」

「未来?」

「ああ、今の日本は日本国内のしか考えていない。だけど、織田信奈は日本を統一し、海の外に出て行く気なんだ」

「海の外に出て行く……」

 

隆景はあっけにとられた。知恵者と周りから賞賛される隆景だったが、良晴の言葉は驚きに値するものだった。

毛利が臣従し、陶晴賢に乗っ取られた大内家は明との貿易が盛んであった。

そういう経緯で毛利は海外という意識がある大名である。

隆元を失い傾いた財政を再生する為、毛利家も博多を攻略しようとしたこともあるが、あくまでそれは貿易のためであって、自らが海の外に出て行こうという気は無かった。あくまで商人に任せるものという意識だったからだ。

 

「だが、相良良晴。いくら織田信奈がそんな大きな夢を抱いているとしても、今織田家は滅亡の危機にある。何しろ東海一の弓取りと呼ばれた今川義元が上洛を目指しているという話だ……いやそうか、我ら毛利が陶を厳島に破ったように――か」

 

隆景は気づいた。織田と毛利が同じ状態にあると。

 

「そう。小早川さん。織田家は、毛利家が厳島でやったように奇襲して勝利する」

 

良晴は隆景の言葉に頷いた。

その後も良晴は隆景に未来を説明した。

今川を倒し、浅井、朝倉に武田といった強敵を退け、名実ともに天下人の道を歩む織田家。本願寺、上杉そして毛利に包囲網を形成されても跳ね除けた、織田家が次第に毛利を追い詰めることを。

 

「毛利家は、家臣の羽柴秀吉に備中高松城を水攻めされ大ピンチ……ピンチじゃ分からないか、えーと危機に陥る。でもそんな時織田家に異変が起きるんだ」

 

本能寺の変。困難を跳ね除けていた戦国の風雲児である信長が謀反によって討たれる未来を、良晴は告げた。

 

「家臣による暗殺――か」

 

隆景がぼそりとつぶやいたのを聞こえた。

(きっとお兄さんが殺されたのと重ねているんだろう。俺は隆元さんを知らないけれど、小早川さんが言うように天下人と呼べるくらいの器量があったんだから)

 

「そして信長亡き後、秀吉が勝利する。秀吉の天下統一に、毛利家は協力し、重臣といえる立場を手に入れる。けれど秀吉の死後、いまだと松平元康……が天下を取ろうとする。毛利家は豊臣家と近いこともあり、西軍として戦う。でも――」

「敗北する――のだな」

 

良晴は頷いた。

 

「そう――か。良晴良く話してくれた」

 

覚悟を決めていた隆景だったが、改めて突きつけられた言葉に、寂しそうに、そして自嘲するように笑った。

良晴はそんな隆景に見ていられなかった。だから隆景の目をしっかりと合わせながら言った。

 

「小早川さん俺の知っている歴史なら、毛利は敗北する。でも、俺の知っている小早川さんや織田信なg――じゃなくって信奈は男な筈なんだ。もしかしたらこの世界は俺の知っている歴史と違うのかもしれない。それに……」

「それに……?」

 

隆景が弱弱しい目で、良晴を見てきた。良晴はそんな隆景の力になりたいと改めて思った。

 

「どうしてか分からないけれど、今俺はここにいる。役に立たない俺だけど、でも! 俺は小早川さんの力になりたい!」

(平凡な高校生の俺がこんなセリフを言う日が来るなんて思いもしなかった。でも目の前の女の子を見捨てることなんてこと出来ない!)

 

「相良良晴……」

隆景は驚いた。家臣の中にも絶対の信頼を置くものもいる。だが、今までこんな台詞を言われたことなど無かった。

 

(くすぐったいような、暖かい気持ち……)

 

本当にこの人は私を打算なく助けてくれる、隆景にはそう思えた。

良晴は隆景の雰囲気が変わったのを感じた。

 

「相良良晴……いや良晴」

 

隆景の言葉を良晴は待つ。

 

「良晴……ありがとう」

 

少女は嬉しそうに笑った。

 

 




いい最終回でしたね。でももうちょっとだけ続きます。
改めまして「小早川隆景 信奈 SS」で探すと自分以外の作品がひっかからなくてとてもつらい作者ことリトマスです。もっと小早川さんの作品増えてくだし

本編で述べた織田の桶狭間での奇襲は、毛利の厳島合戦を真似たという説が実際あるらしいですね。
元就が死去した際に信長が手紙を毛利家に出しているようなので、もしかしたら本当に真似たのかもしれませんね。
その一方、面白いことに厳島合戦で勝利したはずの毛利家の家臣への感状は見つかっていないらしく、実際あったかどうか分からないらしいですね。
ちなみに日本三大夜戦は厳島合戦、川越夜戦、桶狭間合戦だと言われていますが、実は残る川越夜戦も資料が見つからないらしいですね。
厳島合戦も川越夜戦も純粋に資料が消失や紛失したのかそれとも別の戦いがあったのか。歴史のミステリーですね。

あとお気づきの方はいらっしゃるかと思いますが、元就以外のキャラの年齢はぼかしています(もっとも元就も正確に設定してるわけでは……)
伊達政宗が十年早く生まれていたり、元就と同年に死ぬはずの北条氏康が美少女な段階で、設定するの完全に諦めました。
死んでいるはずの山本寛助が生きてたりするというのは、本編で言われたりしましたしね。そのため現在が何年ということも設定できていません。
名古屋こーちんの手羽先やらたこ焼きがある時点で、パラレルワールドだと思っています。

それはそうと、毛利家に限った話じゃないですが、人が足りませんね。
かといってオリジナルキャラクターは使いたくないジレンマ。設定するのめんどくさい(クズ)
こういう風に見ると四天王が健在な武田は優遇されていると分かりますね。信奈本編は武田がラスボスとなるのでしょうか。楽しみです。
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